物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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404話 大きな価値

 ひとまず最低限の成果は手に入れたので、これだけでもアカデミーにやってきた価値はあるだろう。とはいえ、できることならばもう少しマリンと仲良くしたい。そう考えていた。

 

 ということで、余裕がある限りはマリンと話をしていこうと思う。なるべく邪魔にならない範囲でではあるが。迷惑をかけてしまえば、嫌われるからな。あまり自分の気持ちを押し付けるのも、まあ問題だろう。

 

 ただ、今のところはマリンの方から積極的に話をしてくれている。またマリンのいた研究室に戻って、部屋で一緒にいるところだ。

 

 そんなマリンは倉庫の中を漁っていき、いくつかのものを取り出した。そして、こちらに話しかけてくる。

 

「無属性と闇属性の研究に関しては、これ以上の成果は時間がかかるのです」

 

 軽く頭を下げながら言っていた。申し訳ないと思う理由など無いだろうに。いくらなんでも、データを集めたその日に成果が出るなら、誰も苦労なんてしない。

 

 極端な話、研究というのは10年で成果がひとつ見込めれば優秀であるとすら思う。分野にもよるのだろうが、それくらい難しい印象がある。

 

 まあ、本人がどう思っているのか次第でもあるか。とはいえ、責めるのは論外だ。ひとまずは、俺の立場を表明しておくか。

 

「まあ、当然だな。一朝一夕で結果が出る方がおかしい。当たり前のことだ」

「レックス様が言うと、説得力がないんだよね……」

「至高に座する方なのですから、当然です!」

 

 ジュリアの意見はまあ分かる。闇魔法をあっという間に覚えたり、エリナの必殺技をすぐに習得したり、この体はとんでもないからな。とはいえ、普通じゃないのはよく分かっているつもりだ。説得力がないのも、分からざるを得ないのだが。

 

 シュテルは興奮したように叫んでいる。もはや、マリンも普通に流している。何がどうなって、ここまで極端になってしまったのやら。昔の冷静なシュテルが懐かしいな。まあ、今が嫌というわけでもないのだが。

 

「シュテルと私なら、言っていることは分かる」

 

 サラも真面目な話をしている。そんなに、俺が言うことに問題があったのだろうか。まあ、初めてバットを持った瞬間にホームランを打つような相手に語られているようなものか。なら、仕方ないな。これからは、気をつけた方が良いのかもしれない。

 

「私が研究しているものとして、魔力粒子があるのです。それを溜め込む装置も、持っているのです」

「そうじゃなきゃ、カラクリ装置なんかは動かないはずだからな」

「はいです。それをいくつか、レックス様に差し上げたいのです」

 

 そう言って、倉庫から取り出したものを指差していた。つまり、これが魔力バッテリーとでも呼ぶべきものなのだろう。使い道は、いろいろと思いつく。

 

 魔力を外部から用意できるのなら、自分の持たない属性の魔法を使える可能性もある。あるいは、魔力が少ない人が大量の魔力を運用することも。機械のようなものを用意しなくても、幅広いことができるはずだ。

 

「なるほどな。ありがたいことだ。今のところは、どの属性があるんだ?」

「基本の五属性なら、すべてなのです」

「なら、買い取らせてもらえるか? 額はミルラと相談してもらいたいが、そう安くはならないように言い含めておく」

「気持ちはありがたいのです。ですが、あまり値段がつかないもので……」

 

 眉を困らせながら、そう言っていた。評価されていないというのが、よく分かる話だ。とはいえ、金を受け取ってもらいたくはある。買った程度で足しになるとも思わないが、研究が進んでくれたらありがたいのだから。

 

 正直に言って、マリンを他に渡したくないと思う程度には評価している。魔力バッテリーをうまく使えば、俺だってもっと強くなれるだろう。気軽に他属性の魔力を組み合わせられるのなら、手札が大きく広がるからな。

 

 とはいえ、どこまで量産できるかも重要だ。今のところは、別の使い方をしたい。

 

「いや、少なくとも俺は金を払うだけの価値を感じている。もっと言えば、お前の研究を援助したいとも」

「そう、なのですね……。やはり、レックス様は……」

 

 軽く横を向いて、小さな声で話している。これは、うまく行っていると思って良いのだろうか。もし実は悪く思われていたりしたら、かなりの問題だ。

 

 マリンの価値は、本気で計り知れない。必要とする場所に持っていけば、歴史を変えるレベルの発明だとすら思う。だから、本音では手段を選ばずに手に入れたいとすら頭によぎるほどだ。俺が悪人なら、手に入らないのなら殺していただろう。それくらいの存在なんだ。

 

「今すぐ準備できるのは、いくつくらいだ?」

「それぞれ十個ほどなのです。後払いでいいので、いま渡すのです」

 

 そう言って、こちらに手渡してくる。ひとつひとつは、500ミリのペットボトルくらいの大きさ。まあ、持ち運べるラインではあるだろう。

 

 ひとまずは、最初に思いついた運用だな。ということで、火属性と書かれているものを選んで、いくつかをシュテルに渡した。

 

「ありがとう。それで、シュテル。これから魔力を引き出すことはできるか?」

「まさか、私のために……? 感謝いたします、レックス様!」

 

 そう言いながら、バッテリーから魔力を引き出していくシュテル。もともと魔力を持っていなかった都合上、シュテルの魔力は訓練では伸びない。だから、大きな希望になるはずだ。

 

 実際、シュテルはとても晴れやかな顔をしていた。俺は何度か頷いた。

 

「良かったね、シュテル。これで、魔力の問題は解決に近づいたんじゃない?」

「そうね。やっぱり、私はレックス様のために尽くすだけよ。そういうことです、レックス様」

 

 そう言って、シュテルは頭を下げる。喜んでくれたのなら、何よりだな。これで狂信者みたいな動きが増えなければ、完璧だ。

 

 まあ、シュテルはことさらに人を傷つけるような人じゃない。だから、少し困る程度ではあるのだが。気にしなければ済むんだよな。今は、それでいいか。

 

「道具をもらえなかった分は、なでなでと抱っこで払ってくれれば良い」

「ふふっ、本当に大切にされているのですね……。少し、羨ましいのです」

 

 へばりついてくるサラを見ながら、マリンは微笑んでいた。今後は、サラにも運用を考えてもらいたいところだ。とはいえ、かなりの訓練が必要だろうな。新しい属性を使えるようになるのは、難しいはずだ。

 

 周囲に天才ばかり居るから感覚が麻痺しているところはあるが、本来は成果というのは数日で出るものじゃない。あまり急かしたら、大変だろう。

 

 とはいえ、魔力バッテリーの運用については、もう少し考えておきたい。そうだ。せっかく買い取ったのだから、試せることがある。

 

「聞いておきたいのだが、これに俺の魔力を注ぎ込んでも良いか?」

「もちろんなのです。使い道なんて、買った人の自由なのです」

 

 俺の魔力を注ぎ込めば、転移もできる。強度もあげられる。その気になれば、容量だって向上させられるだろう。ひとまずは、前ふたつの機能だけで済ませておくが。シュテルが使う以上、実験的な使い道は避けておきたい。

 

「分かった。……よし、これで、強度も溜め込める魔力量も向上したはずだ。マリン、これを研究に使うことはできるか?」

「確かに、現物があれば研究がはかどるのです。こちらにも気を使ってもらったみたいですね」

 

 ということで、いくつかの魔力バッテリーをマリンに渡していく。これで研究が進めば、小型化や大容量化もできるかもしれない。

 

「気を使ったというか、それで研究が進むのなら、俺にも利益があるからな」

「ふふっ、こんなに期待されたのは、生まれて初めてかもしれないのです」

 

 そう言いながら、マリンは穏やかに微笑んだ。かなり好意的に見られているような気がするが、どこまで当たっているだろうか。

 

「なら、これからも頑張ってもらえるとありがたい。まあ、無理をされると困るのだが」

「そうですね。必ず、成果を出してみせるのです。レックス様のためにも」

 

 両手を握りながら、マリンは宣言する。できることならば、ブラック家で働いてもらいたい。とはいえ、研究設備なんかの問題もある。時間をかけるべきこととして、慎重に動いていこう。

 

 ただ、すでに俺は満足できるほどの成果を手にしている。それも確かだった。

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