物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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413話 新たな発想

 ひとまず、マリンはブラック家で働き始めた。研究者である都合上、一朝一夕で結果が出るものではない。ジャンやミルラは間違いなく理解しているが、周囲まで同じとは限らない。

 

 だからこそ、俺がマリンの様子を見るのは大事になってくる。あまりやりすぎると、俺の評判が下がりかねないという懸念はあるとはいえ。身内びいきみたいに捉えられかねないということだな。

 

 全体的な方針としては、まずはすでにある発明品を元に一定の成果をマリンの手柄としてブラック家に広めて、その活躍が活きているうちに次の成果につなげる形になるだろう。どの程度なら軽く作れるのかも含めて、よく話し合うべきだな。

 

 最終的にはミルラやジャンの許可も必要ではあるが、ひとまずはマリンの意志も聞いておきたい。

 

 まあ、あまり圧力をかけても仕方ない。急がせれば急がせるほど、失敗は増えるだろう。結果として、俺もマリンも損をする。とにかく、今は大きな問題を起こさせない段階だろう。

 

 ということで、俺はマリンと軽く面談をすることにした。ふたりで、気兼ねなく話してもらうために。

 

「マリン、調子はどうだ? 悩みとかはないか?」

「年下の男の子にそう言われると、少し情けない気がするのです……」

 

 軽くうつむきながら、マリンはもじもじしている。まあ、確かに父親が娘に聞く時のようなセリフかもしれない。それを考えると、ちょっと変な言い回しではあるか。

 

 とはいえ、確認自体は必要なことなんだよな。言い方で工夫をできる部分はあったかもしれないが。まあ、いまさらだ。このまま話を続けよう。

 

「雇い主としては、部下が働きやすい環境を整えるのは義務だと思うが」

「やっぱり、レックス様は変わっているのです」

 

 穏やかな顔で、こちらを見ている。軽く頬を緩めている様子だ。ほぼ間違いなく、いい意味だと考えていいだろうな。

 

 この調子なら、マリンとはうまくやっていけそうだ。ひとまずは、安心できる。

 

「その顔を見る限りでは、極端な不満はなさそうだな」

「はいです。今は働きがいのある職場だと思っているのです」

 

 そう言って、マリンは花開くような笑顔を浮かべた。このまま、順調に進めていきたいものだ。そう考えながら、話を進めていく。

 

 ある程度話もまとまった段階で、ノックの音が届いた。返事をすると、扉が開く。そこから、食事を持ったメイドたちがやってきていた。

 

「ご主人さま、お食事を持ってきましたよっ」

「お客様の分も、ご用意いたしました。ゆっくりと、楽しんでいただければと」

 

 ウェスがウサギの耳をピコピコさせながら食事を並べていき、アリアが食器などを整理している。もう、完全に役割分担がはっきりしているみたいだ。

 

 今となっては、ウェスも熟練のメイドといった感じだ。安心して見ていられる。

 

「獣人と、エルフ……? あっ、失礼したのです」

 

 マリンは目をぱちくりさせている。まあ、この国ではかなり珍しいと言えるだろう。特に獣人は軽んじられがちだからな。

 

 とはいえ、ウェスとマリン、そしてミルラは根本的には同じ悩みを抱えているはずだ。そこから、仲良くなってくれるとありがたい。

 

 あまり不躾な目でウェスやアリアを見るようなら、マリンを注意する必要はある。とはいえ、今の態度を見る限りでは大丈夫そうだ。少なくとも理性では、ふたりに丁寧に接しようとしているのだし。

 

「ご主人さまのそばにいると、きっともっとビックリしますよっ」

「私たちのような存在も、大切に扱ってくださる。素晴らしい主ですよ、レックス様は」

「なるほど……。やっぱり、レックス様は素敵なのです」

「そうですよねっ。ご主人さまのメイドになれたことは、私の人生で一番の幸せですっ」

 

 俺を褒め合う流れになっている。時々ある事とはいえ、困ってしまう。というか、なんで時々あるんだよ。いや、客観的には恩人だということは分かるが。でもメチャクチャだぞ。

 

「おいおい、持ち上げすぎないでくれ……。少し、恥ずかしいぞ……」

「そうですね、レックス様。マリン様の道具に関して、私たちでも使えないかと考えてみましょうか」

 

 俺が本気で困っていることを察してくれたのか、アリアが話題をそらしてくれる。本当に助かった。

 

「水を出す道具があれば、掃除に使えそうですっ。重さ次第ですけどねっ」

「とりあえず、やってほしいことがあったら言ってくれると助かるのです。案外、手持ちの道具でもどうにかなるかもしれないのです」

 

 理想としては、前世の機械を再現することだろうか。あるいは、もっとすごいものを作れるかもしれない。とはいえ、家事に役立つ道具か。洗濯機とかあれば、便利そうな気がしてきたな。

 

 まあ、俺が外で着るような服は、たぶん洗濯機に入れてはいけない類の服ではあるのだろうが。それでも、雑多なものを洗えるだけでも違うはずだ。もしかしたら、洗濯機では不可能なこともできるかもしれない。とりあえず、言うだけ言ってみるか。

 

「こう、服をまとめて放り込んで、水と一緒に回転させたりできないか? 安い服なら、手間が省ける気がする」

「それくらいなら、やろうと思えばできそうなのです。今すぐは、難しいのですが」

 

 上下運動はさせられているし、その仕組みを応用すれば回転くらいはさせられるだろうな。後は水を入れたり出したりできれば実現可能と。確かに、単純な仕組みではあるのか。

 

 洗濯機が実現すれば、アリアやウェスだって楽ができるだろう。仕事を奪うという懸念はあるが、そこまで万能にもならないだろうからな。少なくとも、高い服はほぼ確実に手洗いになる。まあ、今のところは問題ないはずだ。ミルラやジャンとも相談する必要があるだろうが。

 

「なら、他にも思いつきますね。火を起こして調整できれば、料理にも役立つでしょう」

「風でゴミを吹き飛ばしちゃうとかどうでしょうかっ。お掃除が楽になると思いますっ」

 

 ちりとりのようなものがあれば、飛ばす方でも良いのかもしれない。俺の頭には掃除機があるが、それが正解とも限らないんだよな。行き詰まってもいない段階で、ウェスの案を否定するのもな。

 

 基本的には、マリンに任せるのが大事になってくるはずだ。とりあえず、今は言わないでおくか。

 

「いろいろと案が出てくるものだな。全部を作れと言えば難しいだろうが、いくつかは試してみても良いかもな」

「はいです。今回の案を聞いて、思いついたこともあるです。やはり、人と話すのは良いです」

 

 発想の取っ掛かりくらいにはなったようだ。とりあえずは、良い方向に進んでいると思いたい。

 

「なるほどな。なら、メイドたちとも仲良くしてくれると助かる。お互い、良いことが多いだろう」

「そうですねっ。便利な道具があるのなら、ご主人さまのために時間を使えますからっ」

「私としても、レックス様にお仕えできる時間が長いのは嬉しいですね」

 

 メイドたちは、マリンの発明にも乗り気みたいだ。なら、そこまで心配はなさそうだな。仕事を奪うみたいな形で対立されたら、困っていたところだ。

 

 ひとまず、悪くない関係になりそうではある。俺の前とはいえ、和気あいあいと話しているからな。

 

「レックス様、本当に慕われているのです。これだけでも、雰囲気が伝わるのです」

「最高のご主人さまですからっ。これからも、たくさんご奉仕しますよっ」

 

 ウェスの言葉に合わせて、みんな笑顔になっていった。このまま、マリンが来たことでブラック家が良い方向に進んでいってほしいものだ。俺はそう祈っていた。

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