物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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429話 モニカの永遠

 わたくしは、レックスちゃんの母。それは、何があっても変えられない事実。ですが、それだけですべては決まらないのです。

 

 だって、レックスちゃんはわたくしの想いに応えてくれましたもの。本来ならば、応えられないはずの想いに。

 

 わたくしだって、分かっているのです。母を名前で呼ぶことが、どれほど難しいかなんてことは。父なんて、名前で呼びたくないのですもの。レックスちゃんだって、きっと似たようなものですわ。

 

 だからこそ、レックスちゃんの素晴らしさがよく分かるのです。わたくしの気持ちを、絶対に裏切らない人なのです。そう、魂で理解できたのです。

 

「ああ、レックスちゃん……。あなたにモニカと呼んでもらえるなんて……」

 

 呼ばれた瞬間から、自室に戻った今でも。ずっと、頭の奥にビリビリとした感覚があるのです。これまで感じてきたどんな快楽よりも、果てのないもの。

 

 わたくしは、レックスちゃんの言葉だけで、高みまで上り詰めることができるのです。それこそが、証なのです。レックスちゃんとわたくしの絆の。つながりの。愛情の。そして何よりも、誓いの。

 

 唇が釣り上がるのを、抑えきれそうにありません。はしたなく、顔を歪めてしまいます。

 

「やっぱり、レックスちゃんはわたくしの運命なのですわ……」

 

 いま鏡を見たら、きっと私は恍惚とした顔をしているのでしょうね。ですが、仕方のないことです。わたくしの理想とした、いえ、それよりも遥かに優れた殿方と出会えたのですから。

 

 他の誰が、わたくしの求める美を与えてくれたのでしょうか。美を求める心に、寄り添ってくれたのでしょうか。考えるまでもありませんわよね。

 

 レックスちゃんのためなら、美しさなんて捨てても良い。それでも、レックスちゃんの前では最高のわたくしで居たいという気持ちもあるのです。魔法でわたくしの体をほぐしてくださる時間が、待ち遠しくもあります。大切な、つながりですもの。

 

 わたくしは、どこまでも満たされているのです。レックスちゃんとの逢瀬を重ねることで。それだけで、良いのです。

 

「だけど、甘えてばかりもいられませんわ。レックスちゃんは、優しいもの」

 

 わたくしが寄りかかれば、どこまでも支えてくれるのでしょう。だからこそ、レックスちゃんは苦しんでしまう。敵に囲まれて、苦しみの中で立つレックスちゃんが、もっともっと。

 

 そんなこと、許せるはずがないのです。ただでさえ、父を殺すという苦しみを味わわせてしまったのですから。レックスちゃんは、泣いていたのですから。

 

 わたくしのすべきことは、レックスちゃんを支えること。闇の中でも、ずっと抱きしめてあげること。簡単なことなのです。

 

 母としてのわたくしだって、消えたわけではないのです。いつか結ばれるとしても、レックスちゃんをわたくしの胸で抱きしめてあげたい。優しく受け止めてあげたい。そんな気持ちだって、抱えているのですから。

 

「そう。レックスちゃんの力になってみせますわ。わたくしの美しさを、武器として」

 

 誰もが振り向く、この美貌。それこそが、わたくしの武器。男なら、必ず惹きつけられるのです。わたくしに愚かな欲望を抱いた人が、どれほど居たことでしょう。

 

 ブラック家の女と知っていて、それでもわたくしを理想の女と信じた。笑えてしまいそうですわよね。ですが、男というのはそういうもの。レックスちゃん以外はすべて。

 

 だから、わたくしを求めておけば良いのです。決して手に入ることのないものを、無意味にね。

 

「誰を選べば、中核にたどり着けるでしょうか……?」

 

 レックスちゃんに敵対する意図を持った人は、必ずいる。誰かが、裏で糸を引こうとしている。ならば、わたくしはその糸をたぐり寄せるだけ。首を絞めて、引き裂いて差し上げましょう。

 

 そう、少女のように微笑みましょう。母のように見守りましょう。妹のように目を向けましょう。その全てを嘘だと知らぬまま、おぼれなさいな。

 

「とにかく、噂について調べなくてはなりませんわね」

 

 ブラック家の手によって、仕事が奪われるでしたか。具体性のない話ばかりが広まっています。レックスちゃんの魔道具について、理解できなかったのでしょうか。

 

 おそらく、内部犯の可能性は低いですわね。魔道具に関しての内容を話すことができれば、もっと説得力を持つのですから。どのような仕事が、どのような被害を受けるのかと。そう説明できた方が、よほど信じやすいですわよ。

 

 つまり、魔道具の詳細を知らないままに動いている。ただし、魔道具の存在そのものを知っている。ある程度、あたりがついてきましたわね。

 

「愚かなさえずりは、すぐに聞こえますもの。見逃したりは、しませんわ」

 

 候補としては、いくつか思い浮かびます。ブラック家には、敵が多いですもの。さて、誰を誘惑して、絞り込んでいきましょうか。

 

 わたくしが手に入ると、思い込めば良いのです。届かない夢を見て、空を目指せば良いのです。そして、無様に崖に転がり落ちれば良いのです。

 

「わたくしの手で転がりなさいな。そして、破滅へと突き進んでいきなさいな」

 

 どこまでも、突き落として差し上げましょう。地獄の底の底まで、届くように。そうですわね。犯人を殺せば、わたくしの好意が手に入る。そう思わせるのも一興でしょうか。

 

 わざわざ、わたくしが手を汚す必要などないのです。くだらない仕事など、くだらない男に任せれば十分でしょう。

 

「レックスちゃんの敵など、この世に存在していてはいけないのです」

 

 ですから、さっさと死んでもらわないといけませんわね。早く答えにたどり着いて、早く始末しなければ。

 

 わたくしは、レックスちゃんのためだけに尽くすのです。ね、レックスちゃん。

 

「わたくしの、最愛の人。すべてを捧げるべき殿方ですもの」

 

 どこまでも、わたくしを受け止めてくれる人。誰よりも、わたくしを愛してくださる人。強くて優しくて、そしてどこかにスキがある。愛しがいのある殿方ですわよね。

 

 ですから、わたくしは力を尽くしますわ。わたくしが持つ、すべてを尽くすのです。美貌も、知性も、魔法も、ツテも、そのすべてを。

 

「レックスちゃんに喜んでもらえるように。そして、隣で支えられるように。そうですわよね」

 

 レックスちゃんの幸せを、わたくしが作り出すのです。女として、母として、そして貴族として、魔法使いとして。どこまでも、レックスちゃんを満たしてみせましょう。

 

「愛する殿方を立ててこそ、良き女というものですわ。ねえ、レックスちゃん」

 

 わたくしは、あくまでレックスちゃんのために生きるのです。愛して、支えて、抱きしめる。それこそが、わたくしの生きる意味なのですから。

 

「わたくしの体も、心も、すべてはレックスちゃんのもの……」

 

 どこに触れてくれても良いのです。いいえ、あらゆるすべてに触れてほしいのです。あなたと結ばれるのならば、他に何もいらないのです。

 

 ねえ、レックスちゃん。わたくしは、あなたの全部を受け止めますわよ。欲望も、愛情も。どこまでもぶつけてくださいな。

 

「レックスちゃんは、きっとわたくしを強く抱きしめてくれますわ」

 

 強く、そして激しく。わたくしを求めて、愛して、奪ってくれるはずです。どこまでも深く、つながりあえるはずです。

 

 分かるのです。レックスちゃんは、わたくしを心から大事にしてくださっていると。だから、その未来は必然。決まりきっているのです。

 

「その時こそ、わたくしの愛を伝えましょう。言葉では伝わらない、すべてを」

 

 手で、唇で、そして、全身で。わたくしの想いが、どこまで深いかを。どこまで大きいのかを。そして、絶対に尽きることはないのだと。

 

「レックスちゃん。わたくしは、ずっとあなたのそばに……」

 

 誰がわたくしたちを引き離そうとしても、関係ないのです。例えどんな未来だとしても、どんな場所だとしても、ただ隣に立ってみせます。

 

 約束ですわよ、レックスちゃん。いいえ、レックス。ね?

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