物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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431話 誓われること

 工場にゴミをばらまかれるという問題が発生して、その犯人を捕らえた。似たような事件がいくつか起こり、また犯人を捕らえていく。

 

 そんな状況が続く中で、俺は不穏さを感じていた。まあ、当たり前といえば当たり前だ。実際に事件が起きているのだから。小さな規模とはいえ。

 

 ジャンやミルラ、その配下である工場建設の責任者ジェルド。末端も含めれば、それなりの人数が動いている。そして、ある程度調査の成果が出たようだ。ジャンとミルラから、報告を受けることになった。

 

 俺はしっかりと耳を傾けていき、ジャンもミルラも神妙な顔のまま話が始まった。

 

「兄さん、捕らえた人たちを尋問しましたが、面白いことを言っていましたよ」

 

 どう考えても、裏で何かがあるという話だ。少なくとも、犯人が反省しているという話でないことは分かる。

 

 聞いてみなければ分からないが、誰か裏切り者でも居たのだろうか。ブラック家や学校もどき、アカデミーの人員だって、完全に掌握できているとは言い切れないからな。

 

 疑いすぎるのは良くないが、無条件に信じるのも問題だ。表向きには、信じる俺と疑うジャンたちで役割分担するのが良いとは思う。ただ、憎まれ役を任せることにもなる。

 

 そういう仕事は、当主が実行するとまずいんだよな。嫌われ者のリーダーでは、人はついてこない。優しいリーダーと厳しい副長の集団が多い理由でもある。だからこそ、心苦しくても代わることはできない。代わってはいけない。

 

 ジャンたちだって、そのあたりは分かっている。だから、俺はジャンたちをしっかりと大事にすれば良いんだろう。今回の事件についても、任せつつ褒める。それが妥当なはずだ。

 

「良い意味では、無いんだろうな。さて、聞かせてもらおうか」

「では、私から。どうやら、暴動の計画が進んでいたようでございます」

「工場に集団で襲いかかって、動きを止めようということらしいですね」

 

 大変なことだ。闇魔法を侵食させた道具はあるから、こちら側に死人は出ないとは思う。それでも、襲われたという事実が残る。

 

 戦い慣れていない人なら、武器や悪意を向けられたという恐怖は確実にある。怪我を避けられるとしても、心に傷はついてしまうだろう。

 

 だったら、事前に防ぐのが理想のはずだ。難しいのは、分かっているが。

 

「なら、今すぐ止めないと。とはいえ、どうやって証拠をつかんだものか」

「僕としては、こちらの人員を送り込んで誘導させたいですね」

「被害がなるべく減るように、こっちで狙った形で暴動を引き起こさせると?」

「その通りでございます。未然に防ぐより、かえって効果的かと存じます」

「見せしめを出した方が、抑止には繋がりますからね」

 

 言っている意味は、分からなくもない。ブラック家に被害を出すものは許さないという姿勢を見せるのは、恐怖政治に近くなるが、それでも大事なことではある。

 

 いくら犯罪を犯しても罰せられない社会なんて、どう考えても成立しない。そして、今の社会では法律や罰則について知る機会は少ない。だからこそ、大きな犯罪に対して大きな罰を与えるというのが効果的なのだろう。

 

 綺麗事ばかり言って、現実的な統治の手段まで避けるべきではない。だから、実際に暴動が起きたならば、厳罰まで視野にいれるべきだ。だが、超えられない一線はある。

 

「まあ、見せしめはまだいい。いいが、俺のもとで仕事をしてくれている人たちの被害を許容するのはな」

「問題ありません。こちらで、工作要員に入れ替えておきます。本当の意味でただの従業員には、被害は出ません」

「レックス様の望みは、存じているつもりでございます。精神面も、しっかりと守ってみせます」

 

 ジャンとミルラは真剣な顔でこちらを見ている。まあ、妥協点ではあるだろう。事前に暴動を防ぐのは、計画の程度にも寄るが難しいはずだ。少なくとも、罪を犯していない段階で捕らえて解決とはいかない。

 

 爆薬でも持っていれば、話は別だろうが。まあ、ただの民衆が入手しているとは考えづらいな。なら、今の案は許可して良いはずだ。

 

「なら、最悪の場合はそれでいい。だが、暴動を止めるための努力はしたい。分かってくれるな?」

「それがレックス様の意志ならば。私たちは、ただ従うだけでございます」

「こちらの配慮を無視したという形になる方が、僕たちとしても都合が良いですからね」

「一方的な裁きとなると、民衆だって反発するだろうからな。分かっているのなら良い」

「そうですね。正当性というのは、とても大事です。軽んじるべきではありませんよね」

「レックス様の評判に傷がつくようなら、命でお詫びしても足りぬものでございます」

 

 どちらも真顔で言っているが、意味が違う。ジャンは効率の話をしていて、ミルラは俺への忠誠の話をしている。

 

 ジャンの言う事は、まあ別に構わない。倫理観を理解できなくても、下手な悪行は効率が悪いと分かっているのだから。

 

 問題は、ミルラの方だ。本当に腹を切りそうな顔をしている。だが、そんな事は認めない。情を抜きにしても、ミルラが命で詫びるということにはデメリットが多いのだから。もちろん、大切な相手だということは変わったりしないが。

 

 とはいえ、今回言うべきことは俺がミルラを大事に思っているという話ではない。むしろ、俺が大事にしていると感じているがゆえに、俺を汚すようなことが許せないのだろうから。

 

 なら、俺はジャンを説得するようなことを言えば良い。どうするのが効率的なのかということを。

 

「これだけは言っておく。死をもって償おうとするな。失敗した時にすべきことは、生きて挽回することだ」

「かしこまりました。レックス様のお心に、歓喜の至りでございます」

「実際問題、僕たちの仕事を代われる存在は、そういませんからね」

 

 ジャンは良いことを言ってくれた。まさにそういう方向性で説得したかったんだよな。俺がミルラの命を犠牲にした未来に何の意味も感じていないことは、ミルラ本人だって分かっているはず。それでも、強い忠誠心が歪みを生んでいるのだろうから。

 

 だからこそ、俺のやるべきことは歪みに合わせることだ。否定することでも、ただ肯定することでもなく、ミルラが歪んでいる前提で最高の道を探す。それで良い。

 

 俺はミルラの目をまっすぐに見て、言葉を紡いでいく。

 

「ああ。だからこそ、軽率な行動はしてくれるなよ。お前たちの手に、俺の、ひいてはブラック家の命運がかかっているんだ」

「レックス様の御為に、すべてをかける所存でございます」

「兄さんが倒れたら、僕たちの行き場もないですからね。良くも悪くも、一蓮托生です」

「ああ。だからこそ、慎重に動いてくれ。今回は、布告を出そう」

「善良な市民に対しては、生活を保証する。その程度で良いでしょう」

「まあ、妥当なところか。善良の解釈について、極端に小さくするなよ」

 

 ジャンもミルラも頷いていた。実際、これ以上のことは事前にはできないだろう。あらゆる市民の生活を保証するのは、厳しい。

 

 とにかく、できる限り良い方向に進むように。そう願いながら、俺はふたりに頷き返した。

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