物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
ジュリアの正体が、性別が変わった主人公だという可能性も、俺の頭の中にはある。そうだとして、俺はどうしたいのだろうか。悩ましい問題だ。
「原作通りに進めば、俺は主人公に殺される。だが、その未来は回避できるはずだ。もし、ジュリアが主人公になにかの関係があったとしても、敵対しなくて済む手段はあるはず」
というか、そのために行動しているんだ。できるだけ善行をして、王家から討伐指令が出されないように。仮に出されても、敵対をためらってもらえるように。
だからこそ、ジュリアが主人公に関係があるのかは、重要な問題ではある。だからといって、色眼鏡で見たくはなかった。慕ってくれる相手を疑うなんてこと、苦しいだけだから。それに、ジュリアに対して変な目で見てしまうと、好意に悪影響を及ぼしかねない。
「今のところは、ただの懐いてくれる相手。それで良い。疑いすぎるのは、良くないからな」
無属性の魔力を持っていると分かれば、また変わってくるだろうが。それまでは、素直に生徒として接する。それが一番のはずだ。
ということで、生徒達を育てるための手段を考えている。急ごしらえだから、いろいろと足りていないんだよな。時間がなかったから、仕方のない部分はあるのだが。
俺が頼れそうな相手は少ない。誰かに教えるだけの知識や技術を持っていて、親しい相手。そんなの、フィリスとエリナくらいしか居ないからな。魔法の師と、剣の師。
だから、2人に相談するしかない。今後のためにも、生徒にどんな才能があるのかを、割り出していきたいからな。
「さて、フィリス、エリナ。俺の計画を手伝ってもらおうか。学校もどきの生徒を、軽く見てもらえればいい」
「……条件。レックスの魔力を全力で込めた道具を渡して。それが報酬で良い」
「了解だ、レックス。高い金をもらっているのだから、寄り道くらいは構わない」
軽く同意を取れたので、生徒達の才能を見てもらう。結果としては、方向性が見えたくらいだったな。
「とりあえず、ジュリアは剣が得意で、シュテルは弓が得意。本人の趣向とも合っているな」
これまでの人生で訓練してきたからだろうか。本人のやっていることと才能が一致しているのなら、ありがたい話だ。無理に軌道修正しなくて済む。
「クロノは、土魔法を使えるのか。やはり、探してみるものだな。意外な才能の持ち主は居るものだ」
原作では出てこない人間の才能なんて、俺には分からない。だからこそ、しっかりと探ることは大事なんだよな。平民に魔法使いは少ないが、居ることは居る。それを実感できた。
他にも、魔法を使える人間は、何人か生徒には居るからな。その人達のうちの何人かを、アストラ学園に送り込みたい。
とりあえず、受験資格には魔法が必要だ。とはいえ、魔法が使えるかどうかは、使える瞬間までは分からないというのが常識だ。あるいは、知る手段もあるのかもしれないが。
いや、思いついた可能性がある。闇の魔力を侵食させれば、体の中の魔力を探れないか? まあ、最後の手段になるだろうが。そのうち、フィリスに相談しておこう。
フィリスとエリナは帰っていって、俺はラナが授業をする様子を眺めていた。授業が終わると、ジュリアとシュテル、ラナとクロノが近づいてきた。正確には、クロノはラナに着いていっているだけかもしれないが。
「レックス様、僕もあなたみたいな剣技を覚えたいよ。何か、アドバイスを貰えないかな?」
「ジュリア、失礼よ。ただでさえ恩ばかりなのに、更に求めるなんて」
別に気にしなくてもいいのだが。というか、遠慮されて伸びないでいる方が困る。とはいえ、どう説明したものかな。
「レックス様、どうされますか? あたしの方で、教官を手配しておきましょうか?」
「ラナ様、どうしてそんなやつに……」
ラナはどうやって教官を手配するつもりなのだろうか。それ次第では、今後の方針が変わりそうだ。ただ、まずはジュリアの方が先だな。
「俺は最強なんだから、お前達程度で追いすがれやしない。ただ、そうだな。お前は手に意識を向けすぎだ。もっと全身に神経を張り巡らせろ」
「ありがとう、レックス様。全身だね。こんな感じかな?」
ただの一言で、明確に動きが変わった。やはり、才能がある様子だ。主人公かどうかを抜きにしても、期待したくなる相手だ。
「敬語を使いなさいよ! レックス様は、私達の主人なのよ?」
「今更の話だ。それに、たかが平民ごときに、礼儀なんて期待していない」
「ありがとうございます、レックス様。ご迷惑をおかけして、済みません」
そんな事を言いつつ、シュテルは期待を込めたような瞳でこちらを見ている。間違いなく慕ってくれているし、アドバイスが羨ましいのかもしれない。そう考えたら、すぐに言葉が出てきた。
「シュテル、お前は曲射を覚えられるか? 斜め上に矢を撃って、遠くに当てる技術だ」
「ご指摘、ありがとうございます。必ずや、習得してみせます」
見るからに、目に力が入った。俺は正解を選べたみたいだな。この調子で、もっと成長してもらいたいものだ。もし仮に、この子達がアストラ学園に入学できないとしても、慕ってくれる人間が増えるだけでも、価値があるんだから。
「レックス様が、自分の手で教えるってことでいいですか?」
「さてな。ラナ、お前はどう考えているんだ?」
「王都のアカデミーには、伝手があります。あたしの病気を癒やすために、いろいろと関わっていましたから。そこからなら、教官を雇うこともできるかと」
アカデミーは、確か学術機関だったよな。正式名称はには、スヴェルアカデミー。魔法の研究もするし、科学の研究もする。最高峰の知恵の集団ではあるのだが、アストラ学園よりは軽く見られていたはずだ。
まあ、魔法で癒やせない病気なら、他の技術にも頼りたくなるか。それなら、関係を持っていてもおかしくはないな。だったら、都合が良い。アカデミーに人を送り込むことができたなら、それだって大事なことだ。俺はアカデミーの入学基準を知らないから、伝手は大事だろう。
「魔法使いは、お前が居るからな。武術に関しては、エリナが時々は面倒を見るようだ。他の技術を使える人間がいい。そうだな。学術に優れた人間はいるか?」
「かしこまりました、レックス様。あたしに任せてください」
ずいぶんと、協力的になったものだ。俺が本気で学校もどきの運営に取り組んでいると、理解されたのだろうか。何にせよ、ありがたいことだ。俺1人では、限界があるだろうからな。
「ラナ様、お体は良くなったんですか?」
「クロノ、あなたには関係のないことです。余計な詮索はやめなさい」
あまりラナっぽくないセリフな気がするが、なぜだろうか。違和感を覚えていると、クロノが離れていき、そのままみんな離れていった。空気が悪かったし、そのせいだろうな。
ということで、俺も帰路について、ゆっくりとしていた。
「さて、優秀な教官が来てくれればいいが。アカデミーだから、学問においては優秀なはずだ。ちょうど良いだろう」
ハッキリ言って、ラナが居なければ思いつかなかった。というか、思いついても実行できなかっただろうな。ブラック家の人間は、魔法を使えない人間を軽んじているから。父に提案しても、否定されたはずだ。
そう考えれば、ラナが来てくれたのは、相当に都合が良かったな。今後も、うまく関係を作っていきたいものだ。