物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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482話 シュテルの戦術

 私はレックス様のしもべとして、新しい人員に関する采配を任されていたわ。なんだかんだ言って、レックス様は私を信じてくれている。それが伝わるわ。

 

 狂信者みたいだという言葉は、否定する気はないけれど。レックス様は、私がすべてを捧げるべき存在。神よりも、よほど尊いのだから。

 

 ちょっとだけ、問題視されていることも分かるけれど。だけど、本気でダメなら止めてくるもの。今の私は、許容範囲なはず。それに、どんな私だとしても、きっと受け入れてくれるもの。

 

 だから私は、まず仕事を真面目にこなしたわ。適切に教育し、配置し、集団として力を発揮できるように。完璧ではないにしろ、一定の成果は出せたはず。

 

 ただ、まるで足りない。レックス様のお力ならば、簡単に実行できることでしかないもの。

 

「レックス様のために、私はしっかりと役立たないといけないわ」

 

 だからこそ、私は周囲の好感度を稼ぐために動いている。共感を示して、相手を良い気分にさせることを狙って。

 

 奴隷たちを私の道具として使えるようにすることが、理想ではある。ただ、急ぎすぎてはいけないわ。

 

 あまり利用しようとしていると思われると、周囲にも広まっていくもの。まずは信頼関係を築いて、そこから進んでいくべきよね。

 

 とにかく、好かれるということは便利だもの。私のために動いてくれるのならば、それをレックス様のために役立てるだけ。私を慕っていようが、関係ない。必要なのは、レックス様が求める成果だけ。

 

「ご心配をおかけしないように、ある程度は気をつけるけれど」

 

 やりすぎると恨まれると、注意を受けたもの。私が傷つかないようにとの言葉だから、無にはできないわ。

 

 レックス様は、本当にお優しい。私が怪我でもすれば、きっと傷ついてしまう。だから、自分を大切にすることも忘れてはいけないの。つい、なんでもしそうになってしまうけれど。

 

 私の存在そのものが、レックス様の幸福でもある。素晴らしいなんて言葉では言い表せないわ。そのお慈悲は、とどまることを知らない。

 

 だからこそ、恩返しをすることも大切なのよ。受け取るだけじゃ、女がすたるというものよ。

 

「やはり、情報を集めるのは大事よね。手を抜けないわ」

 

 そのためにも、できるだけ親身に接していく。レックス様が、かつて私にそうしてくれたように。もちろん、本気で好きなわけではないけれど。私の心は、すべてレックス様のものなのだから。

 

 とはいえ、痴情のもつれが起きない程度には制御するべきではあるわ。私に惚れて貢ぐというのなら、別に構わないけれど。だからといって、なびくことなんてありえない。ただ、面倒ごとのきっかけにもなる。

 

 私の心がレックス様のものだと知られると、逆恨みを引き起こしかねない。実際、私を好いているものも居るみたいだから。

 

「私への恨みが、レックス様に向かうと困るもの」

 

 私を恨もうが、知ったことではない。レックス様のお役に立てない存在がどうなろうと、興味なんてないもの。

 

 ただ、レックス様のご迷惑になるというのなら、話は別。そんなこと、許しておくはずがないわ。

 

 身の程をわきまえないような存在ほど、妙な好意を持つものよ。だから、線引きは大事ではある。女として私を求めるなど、不届きにもほどがあるのよ。私は、レックス様のものだというのに。

 

「必要なら、ちゃんと処分しないといけないわね」

 

 私を恨むにしろ、レックス様を恨むにしろ。だって、レックス様の邪魔になる存在なんて、必要ないもの。

 

 とはいえ、ある程度は好かれないといけない。面倒なものよね。

 

 ただ、方法論としては単純。そこだけは、ありがたい限りよ。

 

「基本的には、相手を持ち上げるだけでいい。楽ではあるわ」

 

 私が片手間でできることだろうと、できたならば褒める。自尊心を高めるように、相手の核に近いところから。

 

 生き方や感性、才能なんかを褒めていくのが良い。人によっては、努力も。適当に定型句を言うだけで、勝手に好き勝手な解釈をするのだもの。

 

 本当は、私の足元にも及ばないような存在ばかりだけれど。レックス様には、とてもふさわしくない。けれど、バカとハサミは使いよう。レックス様に近づけなくたって、運用する道はある。

 

「褒められ慣れていない相手が、狙い目よね」

 

 ちょっと優しくしただけで、簡単に好きになってくる。愚かすぎて、笑っちゃいそうなくらいよ。ただ食材を切れる程度のことを褒められて、よくも自尊心を保てるものだわ。

 

 能力が低い人ほど、どれだけ雑に褒めたって嬉しがるもの。あまつさえ、自分は優れているのだと自慢してくる始末。

 

 レックス様は、謙虚なものよ。私より遥かに優れた才能を持っていながら、それで自慢するでもない。ただ私たちのために、力を使ってくださるだけ。

 

 それと比べて、凡夫たちの見るに耐えないこと。だけど、構わないわ。私の道具として、使い潰すくらいはできるもの。

 

 道具にすらなれない愚か者も、存在するのだけれどね。

 

 いずれにせよ、私の手のひらで踊るだけ。それならば、まだ良いのだけれど。分不相応な望みを持つ存在も、居るようなのよ。

 

「どうせなら、お互いで争ってくれないかしら。それなら、処分の理由にもなるのに」

 

 私をどちらが手に入れるかとかで、勝手にケンカするとか。そんなことをすれば、レックス様だって嫌悪するでしょう。私の意志を大事にしてくださる方だもの。手前勝手な理屈で取り合うような男は、評価に値しないと判断されるでしょうね。

 

 レックス様に矛先を向けられるようなら、こっそり消すだけではあるのだけれど。ジュリアやサラだって、協力してくれるはずよ。

 

 まったく、くだらないわ。ただ褒めただけのことで、好意があると誤解するような連中は。

 

「まあ、良いわ。それなりに、良い情報も手に入れられたもの」

 

 かつての敵領で、どのような話が流れていたか。どんな生き方をしていたか。聞いていけば、つながってくるものもあるもの。

 

 私の能力だけでは、限界もある。それでも、情報を引き出せることの意味は大きいわ。

 

「ジャン様やミルラさんに共有しておきましょう。精査された情報が、レックス様に届くはずよ」

 

 私から直接伝えるより、無駄がないはずよ。ジャン様やミルラさんは、手柄を奪うような人でもないもの。

 

 有益な情報を手に入れられたのなら、私の活躍だって話に入ってくる。その結果として、レックス様に褒めていただくこともあるでしょう。

 

「それにしても、王家とブラック家に噂が立っているなんて」

 

 誰かしらの意図を感じるところではあるわね。おそらくは、二者の関係に影響を与えたい誰か。もちろん、市民の噂だけで全貌が見えてくることはない。それでも、分かることはある。

 

 ミーア様が、闇魔法について警戒している。ブラック家の急拡大を、王家が恐れている。だから、ミーア様が監視している。その噂を総合すれば、つまり。

 

「不仲だというのは、どこから飛んできた情報かしら。なんて、いまの私が考えても無駄ね」

 

 既成事実として、王家とブラック家の関係を引き裂きたいのだとは思う。だとしても、どこに裏があるのかは分からない。かつての当主が流したのか、別の誰かなのか。

 

 根本的に私の持っている情報では足りないから、答えにはたどり着けないでしょうけれど。もっと上の、貴族としての情報が必要でしょう。ただ、私でも役に立てる部分がある。それで十分よ。

 

「引き続き、情報を集めていきましょう。アカデミーと違って、技術は盗めそうにないけれど」

 

 ブラック家に今後根付くというのなら、内偵の代わりにもなるでしょう。誰と誰が派閥を作ろうとしているか。どんな敵対関係があるのか。何を企んでいるのか。それらが分かるだけでも、大きいことよ。

 

「この調子で、もっとレックス様のお役に立たないとね」

 

 ただ与えられた仕事をこなすだけでは、まるで足りないわ。レックス様ご自身が、とても大きな活躍をしているのだから。

 

 戦闘でも、人材集めでも、私たちを支えることでも。レックス様にできないことは無いんじゃないかってくらい。

 

 だからこそ、もっともっと考えて動くべきなのよ。どこまでも、お力になれるように。

 

「サラには、だいぶ勉強させられたわね。親しさを演出するのが、こうも便利なんて」

 

 クリスさんやソニアさんを手に入れたのは、とても大きい。だからこそ、私はよく観察して学べるところを学んだわ。

 

 とにかく、気軽に話せる相手であることが大事。高嶺の花だと思われたら面倒。弱さすらも武器とするのが、手段だということ。

 

 それを活用して、まだまだ成長しないとね。レックス様に、喜んでもらうために。

 

「私の持てるすべてを、レックス様に捧げるだけ。簡単なことよ」

 

 魔法も、頭脳も、肉体も。私の能力で使えるものは、すべて使う。私自身を求められるのなら、応えるまで。

 

 レックス様のお役に立つことこそが、私の人生なのだから。

 

「あなた様のために、私のすべてがあるのです……!」

 

 ですから、私を使ってください。私のすべてを、あなたのものにしてください。

 

 それだけで、私は幸せになれるんです。

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