物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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485話 クリスの想い

 私は、アカデミーでレックス様と出会ってから人生が変わった。それはきっと、間違いのないこと。ソニアだって、同じ気持ちだと思う。

 

 能力も人格も、何もかもを当たり前のように受け止めてくれる。それがどれほど嬉しいことか、私の心には刻まれているから。間違いなく、今は幸せだと言い切れる。少なくとも、今までの人生で一番ってくらいには。

 

 私は、ただのクリスで居ていい。それだけのことが、ずっと求めていたことだったんだよ。やっぱり、私はただの女の子だったんだろうね。

 

「レックス様、思っていた以上に優しかったねー」

 

 私もソニアも、とても大事にされている。貴族の当主様になんて、本当は言えないことを言っているけれど。それでも、私たちのことを否定しない。

 

 分かっているんだ。生意気だって思われてもおかしくないし、無礼だって言われても当たり前だってことくらい。それでも、私はレックス様に同じ態度を取り続けた。

 

 もしかしたら、怖かったのかもしれない。レックス様が、私たちを否定する瞬間が。だから、今回も大丈夫だって示してほしかったのかも。

 

 年齢が逆なんじゃないかって思うくらい、情けないんだろうね。でも、私の本当だから。レックス様は、受け止めてくれるから。だから私は、今でも自分が好きで居られるんだ。いや、きっと違うね。今だからこそ、自分が好きになれたんだ。

 

 レックス様が、私のことを認めてくれる。それだけで、ここにいて良いんだって思えるから。

 

 私は、ずっと求めていたんだ。魔法が使えなくても、私を否定しない人を。私の心を、抱きしめてくれる人を。弟としても歳が離れている子に、何を言っているんだって話ではあるよ。きっと、親に求めるべきことなんだから。

 

 だけど、私の両親は認めてくれなかった。アカデミーに入学させて、後はずっと放って置かれたから。きっと、必要なかったんだろうね。

 

 けれど、そんな私をレックス様は大事にしてくれる。だから、今はとっても楽しい。

 

「サラちゃんが好きになるのも、納得どころじゃないかもー」

 

 最初の頃は、ブラック家って言われて困ったりもしたけれど。偏見に負けなくて、良かったよ。逆に、レックス様は私に偏見なんて持っていなかった。所詮は魔法を使えない人のままごとだって、そんな目で見られることはなかった。

 

 サラちゃんだって、とっても愛されている。ワガママを受け止めてもらって、満足気に抱きついていることは知っているから。

 

 やっぱり、とっても素敵な人だと思う。これで魔法の天才なんだから、どこの物語から出てきたんだってくらい。私には、妄想することすらできなかったよ。

 

「ほんと、サラちゃんのおかげだねー。信じて良かったよー」

 

 サラちゃんに騙されているんじゃないかって気持ちも、少しはあった。別の可能性として、サラちゃんが騙されているって思うことも。

 

 だけど、レックス様とサラちゃんがお互いを見る目は、深い信頼に包まれていた気がしたから。だから、信じることにしたんだ。

 

 私にとっても、ソニアにとっても、大きな賭けだったよ。人生というか、命すら賭けるくらいの気持ちだったんだから。レックス様やサラちゃんには言えないけれど。私たちの抱えておく秘密だね。

 

 レックス様に、最初から軽い態度を取っていた。そんな私だから、信じられないかもしれないけれど。それで機嫌を損ねるようなら、逃げた方が良いかもって思っていたんだ。

 

 結果は、もう分かりきっているよね。レックス様を選んだことで、私は勝った。

 

「レックス様って、かなり面白いよねー」

 

 私が結婚なんかを持ち出すたびに、とっても焦ったりして。可愛らしいなって思う。確実に困っているんだけど、その瞬間も私達との大事な時間なんて感じていそうというか。タジタジになっているのに、時々愛おしそうな目をしちゃうんだよね。キュンキュンしちゃう。

 

 本当に、どこまでも遊べそうな人。そんな気持ちを抱くのも、本当は恐れ多い立場なんだけれどね。

 

 だからこそ、踏み込みすぎちゃったんだと思う。どこまでも、私を受け入れてくれたから。

 

「ただ、からかっているだけだったんだけどなー」

 

 その気持ちが変わったのは、いつからだろうね。結婚してほしいって言葉も、最初は冗談だったはずなのに。ちょっと、自分に呆れちゃいそうなくらい。

 

 今でも、遊びたい盛りの子だと思う。そんな子に、何を考えているんだろうね。

 

「まさか、私の方が本気になっちゃうなんてー」

 

 ただ、私の気持ちが分かる人も居ると思う。少なくとも、レックス様と接していたのなら。

 

 とっても強くて、それでいて優しい。私のことを心から大事にしてくれて、私の全部を受け入れてくれる。しかも、からかいがいまである。深みにハマっちゃうのも、仕方ないっていうか。

 

「でも、今のままじゃ難しいよねー」

 

 きっと、この恋は叶わないんだと思う。というか、本当は叶っちゃダメだよ。私みたいな年上よりも、もっと素敵な人と出会える人なんだから。

 

 レックス様が結婚できる歳になったら、私はただの行き遅れ。そんな現実は、分かりきっているのにね。

 

「歳上すぎるし、他の子もいっぱい居るみたいだしー」

 

 あらゆる現実が、私の恋を否定する。結ばれるべき相手じゃないんだって、全力で叫んでくる。

 

 私だって、分かっているよ。正妻なんて不可能だし、側室だって特殊な趣味じゃないなら拒まれるだけだって。

 

「だけど、諦められない……」

 

 私は、諦めるべき。そんな理性は、感情に食い破られるだけだったみたい。今でも、心の奥で恋の炎が燃え上がっているんだから。

 

 好きって言ってほしい。手をつなぎたい。ふたりっきりで過ごしたい。キスだってしたい。その先だって。

 

 私の欲望は、留まるところを知らないよ。だけど、これが私の本当だから。もう、捨てることなんてできないんだ。

 

「初めてなんだから。ここまで本気で男の人を好きになったのは」

 

 これまでの恋が、くだらないものだったって思えるくらい。所詮は、子供の遊び。その程度の感情でしかなかったんだ。いっそ、良かったのかも。私に才能がないから、誰からも振り向かれなかったことは。

 

 私は、この恋にすべてをかけるよ。だって、もう二度と無いから。今ほど熱くなることは。それなら、全力で突き進むだけだよ。たとえ間違いだったとしても、変わらないんだから。

 

「気の迷いでもいいから、私に振り向いてくれないかなー」

 

 なんて失礼な考えなんだろう。そう思えるところもあるよ。レックス様は、本気で結婚相手を大事にする人のはずなんだから。

 

 だけど、私の望みだから。この気持ちにだけは、ウソはつけない。どんな未来が待っているとしても、絶対に。

 

「でも、どうすれば良いんだろ……」

 

 分からなくて、涙がこぼれそうにもなる。私って、弱かったのかもしれない。魔法使いとして見下された時にも、研究を否定された時にも、泣かなかったんだけどな。きっと、どうでも良かっただけだったんだ。

 

 私にとって、レックス様への気持ちは本気だから。そのせいで、簡単に心が揺れてしまう。知らないってことは、ある意味幸せなんだろうね。

 

 でも、私はこれでいい。たとえ不幸なんだとしても、レックス様と出会った今が良い。だから、迷ったりなんてしないよ。

 

 だけど、答えは見えてこないんだ。やりたいことは決まっていても、手段が思いつかない。

 

「ただ誘惑するだけじゃ、きっと弱いよ……」

 

 胸を見せたりしても、困らせるだけで終わっちゃうんだろうね。そもそも、人前で見せられるものでもないし。ふたりきりになるという壁が、まず待っている。

 

 いくらなんでも、他の人がいる前で本気の誘惑はできない。レックス様にだけ、見てもらいたいんだから。

 

「レックス様のことだから、結ばれたら大事にしてくれるはず……」

 

 それは、間違いないと思う。正妻にまでなれるとは思わない。けれど、捨てられることなんて無いとだけは言い切れるよ。

 

 だから、一度結ばれるまでが最大の壁なんだと思う。その先は、きっと楽なんじゃないかな。

 

「ただ、どうやって結ばれるかが、分からないよー」

 

 つまり、何も分からないんだよね。とにかく、私だけの武器と言えるものがない。知識や技術で言うのなら、マリンさんには勝てないし。色気で攻めるにしても、私は特別だとは言い切れないし。レックス様の周囲には、いろんな女の人が居るから。

 

 だけど、そんなことで折れたりしない。私は、絶対に諦めたりしないよ。だからこそ、やれることをしっかりとやらないと。一歩ずつ、確実に。

 

「とにかく、恋愛にうつつを抜かしすぎるのは良くないかなー」

 

 私の感情だけを押し付けちゃうのは、きっと良い手段じゃないから。だから、理性はどこかに残しておかなくちゃダメ。

 

 押して押して押しまくるのは、悪手に近いかもね。

 

「きっと、恋にかまけて仕事が雑だと、あんまり好かれないだろうし……」

 

 レックス様は、仕事に対して本気だから。私たちを捨てないにしても、成果を残せない人に大事な仕事を任せたりしないと思う。そこは、甘いだけじゃないように見えるかな。

 

 だからこそ、仕事で手を抜くことはできないよ。必要とされなきゃ、会える機会すら少なくなっちゃうんだから。

 

「いっそのこと、恋以外の全部を捨てちゃうとか……。ダメだよねー」

 

 ちょっとだけ、思ったことがある。際限なく堕落してしまえば、レックス様は仕方ないって顔をしながら面倒を見てくれるんじゃないかって。

 

 たぶん、当たっているとは思う。だけどそれって、対等な人を見るものじゃなくなっちゃう。

 

「レックス様に迷惑をかけたら、見てくれはするだろうけれど……」

 

 きっと、心のどこかでは本気で迷惑だって思われちゃうんだ。それは、嫌だ。想像しただけで、震えちゃうくらいに。

 

 だから、捨てるしかない道だよ。でも、いざという時には……。

 

「ううん、違う。私は、ダメな子だって思われたくない」

 

 首を振って、私は弱気を捨てたよ。レックス様には、素敵だって思ってほしい。好きでいてほしい。それが、私の本当の気持ちだから。

 

 どうしようもない人だから、仕方なく面倒を見る。そんな扱いは、されたくないんだ。

 

「本当に、罪な人だよー。責任、取ってほしいなー」

 

 私をずっと見てくれるだけで、良いよ。側室として、ずっと大事にしてくれるだけで。

 

 だから、ね?

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