物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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15章 作られる未来
511話 不穏な声


 行き場を失った奴隷に関して、すでに集めた人たちには良い仕事をしてくれる人も増えてきた。誰かに教えられるような人に余裕が出てきたことで、次の動きも考えられる段階になっている。

 

 まあ、最終的な理想はもともと奴隷だった人たちが教える立場に回ることだ。それには、まだしばらくの時間が必要だろうな。少なくとも、数年単位で見ていく必要がある。

 

 ということで、今は次の動きを練っている段階だ。民衆の反乱もあったことだし、そういう人達への対応も必要になってくる。

 

 優先順位としては、自領の人を優先する方が良いだろう。そこまでは方針が立っていた。

 

 そんな感じで、少しずつ動きを深めている段階。突然、通話が飛んできた。

 

「レックス君、今は空いているかしら?」

 

 ミーアから聞こえてきたのは、いつもの明るい声ではなく、どこか沈んだような声。明らかにおかしいと分かるくらい、いつもと違った。

 

「その声……。何かあったのか?」

「まあ、そうね。ちょっと、困ったことになったの」

 

 普段とまるで違って、テンションが低い。これは、よほどだろう。あの明るいミーアに影が差すほど。つまり、俺に助けを求めている可能性が高い。

 

 とはいえ、まずは状況の確認が先だ。俺が飛んでいってどうにかなるとは限らない。どうにかなるとしても、備えがあるのとないのとでは違う。

 

 まずは、ミーアに問いかけることにした。

 

「それなら、今すぐ向かった方が良いか?」

「ひとまず、家の人達に話を通しておいてほしいの。もしかしたら、協力を頼むかもしれないわ」

「つまり、それだけ人手がいる事態なんだな? 説明も、難しそうか?」

「できれば、面と向かって話したいわね。急ぎではあるのだけれど、1秒を争う状況でもないわ」

 

 強がっている様子もないし、本音だろう。ひとまず、朗報と言って良いのか。まあ、ミーアが苦しんでいるのは間違いない。まだ喜べるような状況ではないな。

 

 とはいえ、かなりの大問題なのだろう。今すぐ言えないことも相まって、相当根が深そうだ。

 

 なら、ジャンやミルラに相談するのが妥当だろう。というか、たぶんミーアは相談しろと言っている。

 

「分かった。いったん相談して、それからそっちに向かうよ」

「ええ、お願いね。じゃあ、また後で」

 

 通話が切れて、俺はすぐに動き始めた。ジャンとミルラに、通話を飛ばす。いつでも転移できるように準備しながら。

 

「ジャン、ミルラ。今、ちょっと急ぎの相談があるんだが。構わないか?」

「兄さんが急ぎというのなら、よほどでしょうね。分かりました」

「レックス様が望むのならば、いつでもお声がけください」

 

 ということで、まずはふたりのところに転移する。すると、真面目な顔で出迎えられた。もはや、転移では驚くこともないらしい。まあ、何度も何度も使っているからな。今更の話だ。

 

 それよりも、なるべく早く話を進めないとな。1秒を争う状況ではないとのことだが、早いに越したことはないのだから。

 

「じゃあ、まずは本題から入ろうか。ミーアが、困ったことになったと言ってきてな」

「詳しい話は、されていないんですか? ああ、分かりました。そういうことですか」

 

 ジャンは一度俺の顔を見て、すぐに頷いた。察するに、顔に出ていたのだろう。話が早いのは良いが、あんまり優秀すぎても怖いというのも分かってしまった。

 

 なんというか、ほとんど情報がないのに勝手に話が進んでいる。どれだけ考えていれば、そんな事ができるというのか。本当に、ジャンが味方になってくれて良かったというか。敵だったら、力の差を超えて殺されかねないとすら感じる。

 

 まあ、今は頼もしいだけだ。しっかりと、力を借りよう。

 

「どういうことだ? 何か分かったのか?」

「つまり、兄さんが即座に転移したら問題になるということ。可能性は、絞られますね」

「内部に転移の事実を隠したい相手がいるか、私たちの協力も必要かが有力でございます」

 

 ふむ。裏切り者を警戒しているのか、あるいはミーア自身が監視でもされているのか。いずれにせよ、タイミングを図りたいということだろう。

 

 というか、ミーアも言っていたことがある。それを軸に考えるべきか。

 

「確かに、協力を頼むかもしれないと言われたな。最悪、両方の可能性もあるか」

「ですね。となると、僕たちの方でも準備が必要そうです。ひとまず、動きを手配しておきますね」

「といっても、何も説明を受けていないだろう。それで、有効な手配ができるのか?」

「僕たちの手が必要という時点で、状況はある程度想定できます。となると、いくつか手を止めるべきことがありますから」

「私たちが直接指示しなくともできることだけを、運用しておく。そういう形になると存じます」

 

 まあ、猫の手も借りたい状況なのは間違いない。それほどのこととなると、よほど大きなことなのは確定と言っていいな。

 

 やはり、ミーアが深刻そうな声を出していたという感覚は正しかった。そうなってくると、ブラック家も大規模な協力が必要だろう。期間次第ではあるが、いくつかの事業は後回しになるのか。

 

 少なくとも、今すぐ新しい奴隷たちを受け入れることは不可能になった。他にも、いろいろと影響が出てきそうだ。それを少しでも抑えるために、今から動くということだろう。

 

 学校もどきの授業なんかも、停止する可能性がある。魔道具工場は、むしろ高稼働するかもしれないが。

 

 全体として、ある意味やることがハッキリしてくると言える。だから、想定できると言ったのか。

 

「ああ、逆に方針が立てやすいのか。ブラック家の力を総動員するみたいに」

「そういうことですね。といっても、総動員は逆に無駄ですが。人員の損失にしかなりません」

 

 農民や技術者が死ねば、今後のブラック家の運営に大きな影響が出る。そして、この世界の戦いは個の力の方が重要だ。

 

 となってくると、動員できそうな人間も限られてくるな。というか、戦いが前提ばかりになっていたが、今回もそうなのだろう。まったく、ため息をつきたくなってくる。

 

「つまり、戦いが起きる可能性が高いと。やはり、そうなってくるか……」

「ですから、最低限の防備も固めておく必要があります。あくまで、時間稼ぎが目的ではありますが」

 

 まあ、俺が転移で飛んでいくまでの時間を稼ぐことが目的なのだろう。そうなってくると、やることは分かりやすい。できる限り防備を固めて、敵の妨害に終止する。勝つことにこだわらず、ただ援軍が来るのを待てば良い。それなら、ある程度は実現可能なはずだ。

 

 ただ、俺レベルの戦力が居れば、また話は別になってくるのだろうが。まあ、それで情報が飛んでこないことはないだろう。どの道、備えても無駄ということもある。

 

 できることをやるという観点では、今やるべきことは分かりやすいということだな。

 

「結局のところ、圧倒的な戦力が居るかどうかだからな」

「そういうことでございます。ひとまず、こちらでできる用意はお任せください」

「兄さんから声がかかる頃には、ある程度形になっていると思います」

 

 ふたりの言葉に、俺は頷く。さて、ミーアに何が起こったというのだろうか。しっかりと確認しないとな。

 

「分かった。じゃあ、行ってくるよ」

 

 その言葉を言い終えて、俺はミーアに転移のタイミングを問いかける準備をした。

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