物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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52話 未来のために

 とりあえず、新しい教師も迎えて、学校もどきの活動は順調に進んでいると言って良い。だが、前回魔物に襲われた時の黒幕は分かっていない。だから、気を抜くことはできない。今後に向けてどうするべきか。学校もどきに通い詰めながら、対策を考える日々が続いていた。

 

 ただ、ジュリア達も似たようなことで悩んでいる様子だ。少し、元気がない。心配してしまうが、表に出すこともできない。難しい状況に、頭を悩ませるばかり。

 

「うーん、僕には魔力が無いのかな? それとも、訓練が足りないのかな?」

「それは私も悩んでいるのよね。何をすれば良いのかしら? 瞑想だけでは、足りないのかしら?」

 

 少なくとも、ジュリアは訓練でどうにかなる問題なのかは怪しいんだよな。そして、シュテルは原作では魔法を使えなかった。それだけで、絶対に使えないと断言できるものではない。だが、難しいだろうな。

 

 2人とも、本気で俺の役に立とうと頑張ってくれているのは伝わる。だから、報われてほしい。俺の役に立ってほしい気持ちもある。が、単純に喜んでいる姿を見たいというのが大きいな。

 

「急いでも仕方ありません。あたしも協力しますから、訓練を続けましょう。あたしなんて、魔力が目覚めるまで、1ヶ月もかかったんですよ」

 

 それを考えると、俺やメアリは相当な才能があったんだな。2人とも、1日かかっていないし。とはいえ、今の状況にはちょうど良い言葉だ。2人が自分を悲観するのを、軽減できるかもしれない。

 

 俺としては、あまり思い詰めてほしくはない。確かに、協力者が欲しくて学校もどきを立ち上げた。だが、親しい相手を苦しめたくはないんだ。それくらいなら、俺1人で戦ったって良い。

 

「でも、それじゃレックス様のお役には立てないよ。魔物が現れたときだって、何もできなかったんだ……」

「私も、同じ気持ちよ。妾なんて、高望みが過ぎるかしら。こんな私じゃ……」

 

 こんな風に沈まれるくらいなら、あまり役に立とうとしてほしくない。俺としては、2人には幸せに生きてもらいたいんだ。もう、ジュリアもシュテルも、俺にとっては大切な相手なんだから。

 

 他の人にも考えたことだが、好意を素直に表に出せないのは、とても苦しい。こんな世界じゃ、いつ死ぬかなんて分からないんだから。

 

 相手に本心を言えないまま別れることになってしまえば、後悔じゃ済まないだろうな。とはいえ、状況が悪い。好意を表に出してしまえば、ジュリア達が危険な目にあう可能性だってあるんだ。

 

 ハッキリ言って、父は信用できない。俺が平民に心を砕いていると知れば、原因を殺そうとしてもおかしくはない。つまり、ジュリア達を殺されかねない。だからこそ、本心を隠し通す必要がある。悲しいことだがな。

 

「そんな事はございませんよ。現に私は、魔法が使えませんが、レックス様にお雇いいただきましたから。教師として、ですが」

 

 ジュリア達を慰めているのは、学校もどきの新しい教師、ミルラ・ティーナ・オレンジ。貴族ではあるが、魔法を使えない珍しい存在。だからこそ、簡単に雇うことができた。この国では、魔法を尊んでいるからな。使えないだけで、要職には付けない。ちょうど良いからと、引っ張ってきてもらった。

 

 学術機関であるアカデミーで、片手で数えられるほどの上位の成績を残していた才媛だ。最低限だけ整えられた黄色い髪と、青い瞳を持っている。真面目な印象の人だ。メガネとか、かなり似合うと思う。

 

 才色兼備と言っていいのに、魔法が使えないだけで、閑職に回されそうになっていた。そこを、ラナにスカウトしてもらった。いずれは、俺の仕事も支えてほしいと言っている。どう考えても、俺より政治は得意だろうからな。右腕になってほしい。

 

「ミルラさん……。そうね。こんな所で立ち止まってなんて居られないわ。レックス様のお役に立つためにも!」

「僕も負けていられないよ。必ず、強くなるんだ」

「あたしも、しっかりやらないと。教師の役目は、ミルラさんに任せられるんですから」

 

 ラナも、まだ俺達と同じ年の子供だからな。教師役は、大変だっただろう。そう考えると、苦労に報いたいところだ。良い手段が思いつかないから、おいおいになるだろうが。

 

「ラナさんには、感謝の念に堪えません。こちらに誘っていただいて。おかげで、望外の喜びを得られました」

 

 ちょっと大事な仕事を任せたいと言うだけで、優秀な人を雇えるんだから、楽という他ない。正直に言って、見る目のない周囲に感謝したい部分もある。まあ、本人の前では言えないが。

 

「しっかりと、俺に尽くすことだ。そうすれば、認めてやろう」

「もちろんでございます。私を認めてくださった、あなた様には、全てをかけて尽くさせていただきます」

「私も、アカデミーに行くという方向性もあるのかしら……」

「お言葉ですが、妥協で通える場所ではございませんよ。人生をかける覚悟がなければ」

 

 まあ、そうだろうな。現実で言うなら、最高クラスの大学みたいなものだろう。そんな簡単に入れる場所じゃない。とはいえ、焦りは視野を狭めるものだ。シュテルを責める気にはならないな。というか、俺の方が失敗している。食事や寝床を用意する恩を軽く見すぎていた。あるいは、ジュリアやシュテルの高潔さを。

 

 そうだよな。善性と言える人間なら、恩を大事にするのは当然のことだ。主人公の疑惑がある相手と、その人生に影響を与える幼馴染だぞ。

 

「そうですね。あたしも、難関だということはよく知っています」

「済みません、ミルラさん、ラナ様。軽率でした」

「いえ、お気になさらず。気持ちは、十分に理解できるものでございます」

「そうですね。あたしだって、どうやってお役に立つのかは、しっかりと考えたいですから」

「僕は、絶対に強くなってみせるよ。それが、一番だからね。レックス様を守るためには」

 

 ジュリアもシュテルも、やる気に満ちあふれている。だからこそ、ちゃんと応えたい。俺の方でも、なにか手段を考えておきたい。アストラ学園に通えなくても、俺に恩を返せる方法を。あるいは、もっと強くなる方法を。

 

「さて、これからどうしたものかな。ミルラは相当優秀みたいだし、ある程度は任せても大丈夫だろう」

 

 ありがたいことだ。俺だけでは、アカデミーから人を雇うという発想は出てこなかった。ラナには感謝しないとな。

 

「問題は、ジュリアだよな。無属性の魔力は、強い感情で目覚める。だからといって、原作と同じ条件は使えない。親しい人の死なんて、検討する価値もない」

 

 魔力のためにシュテルを死なせるなんて、ありえない。どう考えても、実行する意味はない。そんなことをして手に入れた未来に、何の意味があるというのか。

 

「そうなると、瞑想で目覚めさせるのも難しいんだよな。フィリスに相談するのも、なぜ知っているのかと尋ねられたら終わりだ」

 

 だが、他の手段は思いつかない。最悪の場合、無属性の魔力に頼らず、原作の事件を乗り越える必要がある。俺にやれるのか?

 

「というか、根本的に、ジュリアは主人公なんだろうか。そこがハッキリしないと」

 

 そもそも、俺が見当違いの考えをしている可能性だってある。それは頭の片隅においておくべきことだ。あらゆる可能性を想定するのは、大事なんだから。

 

「だが、どうやって確かめるべきなのか。難しい問題だ」

 

 まさか、とりあえず目覚めさせるという手段は取れないからな。悩ましい。それでも、立ち止まる訳にはいかない。俺にとっても、ジュリアにとっても、大切なことなんだから。未来をつかむために、これからも考え続けるだけだ。

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