物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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542話 ミュスカの真実

 レックス君とお茶会をして、終わって別れて。私は、自室でのんびりとしていた。

 

 全部、私の予定通りに進んだと言っていいかな。少なくとも、欲しかったものは全部手に入れることができた。レックス君との関係、魔法でのつながり、信頼も。

 

 自己評価は、100点かな。パーフェクトだよ。私は天才なのかもって思っちゃう。なんて、そこまででもないんだけどね。

 

 魔法使いとしての本質的な才能は、レックス君には劣る。策士としては、ミーアちゃんには負けるかな。でも、私には邪神の持つ力があるから。圧倒的な力さえあれば、細かいことなんて全部押し切れる。

 

 それが分かったのは、とても大きいよ。やっぱり、私は悪い子だったみたい。レックス君が思っていたより、ずっとね。

 

 つい、笑いが抑えられなくなってきたよ。もう、楽しくって仕方ないから。

 

「ふふっ、レックス君は、ちゃんと私を信じてくれたみたい」

 

 言葉だけじゃなく、心の中でも。深層心理まで読み取っても、しっかりと信じてくれていた。正確には、疑念を抑え込んだ部分もあるんだろうけれど。

 

 私を信じたいって気持ちが本物なのは、確かに伝わってくる。だから、良いんだ。私にとっては、レックス君の真心だよ。

 

 それにしても、単純だよね。私は、嘘は言わなかったけれど。本当のことも、言っていないのに。昔の私だったら、レックス君は破滅一直線だったかな。

 

「ミーアちゃんたちを襲わせていないのは、本当だけどね」

 

 邪神の眷属は、誰かの指示でミーアちゃんを襲ったわけじゃない。ただ生まれて、そばに驚異的な存在がいたから攻撃していただけ。

 

 それってつまり、邪神の眷属が生まれた場所が悪いってこと。どうして、そんなところに生まれたんだろう。そこに疑問を持たれたら、ごまかすのには苦労したんだけど。

 

 本当に、ちょろい。だからこそ、今の私はレックス君が好きなんだけどね。私の本性を知っていて、あそこまで簡単に騙されるなんて、愛おしさがあふれて止まらないよ。可愛くて可愛くて、仕方ないんだ。

 

 いつか、レックス君を抱きしめてあげたいな。闇にまどろむように、穏やかな気持ちにさせてあげられるよ。

 

 その瞬間も、レックス君は私を信じ続ける。とっても、素敵なことだよ。

 

「誰が邪神の眷属を生み出したのかは、聞かれなかったもんね?」

 

 私には、邪神の眷属を生み出す力がある。操る力も。それを使って、ミーアちゃんたちの周囲にいる人々を眷属に変えていった。

 

 ただ、操るまでもなくミーアちゃんに向かっていっただけ。光魔法という、闇にとって恐れるものが目の前にあったから。

 

 ミーアちゃんに頼まれたことでもあるんだけどね。事故を装って、敵を消してほしいというのは。

 

「ミーアちゃんたちの敵でもあるから、都合が良かったんだよ」

 

 ミーアちゃんには、レックス君を英雄にするという目的がある。それに向けて進んでいただけ。利用するのは、お互い様だし。

 

 私たちには、どっちにも目的がある。だから、それを叶えるために周囲を使うだけ。

 

 レックス君にとって、大切な人より優先するものはない。みんな分かっているから、お互いに潰し合わないだけなんだよ。結局のところ、最後の最後には協力できない部分も出てくるからね。誰が一番になるのかとか、特に。

 

 だけど、その瞬間までは協力する。レックス君が誰を選んでも、恨みっこなし。そんな協定は結んでいるけれど。まあ、いざという時に感情が抑えられるのかは、ちょっと怪しいけどね。

 

 でも、今は手を取り合えるってことも、大切な事実だから。

 

「私はレックス君を誘惑できる。ミーアちゃんたちは邪魔者を消せる。みんな、得してるんだよ」

 

 だから私はミーアちゃんの敵を殺したし、ミーアちゃんは私に大事な役割を任せた。お互いにとって都合の良い状況を作るために。

 

 結果的には、ふたりとも欲しいものを手に入れた。レックス君は、大事な人を守りきれた。協力することの大切さにも、気づけた。

 

 これって、レックス君が言うみんなが得をする取引ってやつだよね。そう思わないかな?

 

「それにしても、レックス君は優しいよね。ずっと、私への疑いを消そうとしていたんだし」

 

 心の中で、私がもしも裏切っていたのならという疑いはあった。けれど、信じるという気持ちを貫き通してくれた。それって、ただ疑わないだけよりもずっと素敵なことだよ。レックス君自身の意志で、私を信じるって決めてくれたんだから。

 

 それどころか、私が邪神に乗っ取られないかをずっと心配していたんだよ。どれだけ私を大事にしてくれているかなんて、何よりも伝わってくるよね。

 

 レックス君は、私を失いたくないって思ってくれている。そのために、どれだけでも頑張ろうとしてくれている。どんな言葉よりも雄弁に、気持ちが届いたんだよ。

 

 私は、その気持ちがほしい。だからこそ、レックス君のそばに居たいんだ。

 

「やっぱり、信頼って心地良いかな。私は、ちょっとだけ裏切っているんだけど」

 

 もう、邪神としての力は使える。レックス君を利用もした。苦しい戦いに、追い詰めもした。

 

 だから、本当の意味でレックス君の信頼に応えられているとは言えないかな。もちろん、墓場まで持っていくつもりだけど。

 

「レックス君が本当に悲しむ未来にはさせない。だから、安心してね?」

 

 私は、レックス君の泣き顔を見たいわけじゃないし。苦しんでほしいわけでもない。ましてや、死ぬなんてこと。

 

 だから、ちゃんと引くべき一線は守るよ。それが、お互いに幸せになる秘訣ってものだよね。

 

「私が、邪神として目覚める日。楽しみだよね。レックス君だって、喜ぶよ」

 

 邪神の脅威は、もうレックス君を傷つけたりしない。仲間たちだって。それって、とっても幸せなことじゃないかな。

 

 まあ、レックス君の言う原作の脅威は、他にもあるけれど。私だって手伝うし、原作よりは楽になるんじゃないかな。女神ミレアルが手を出さない限りだけど。

 

 ミレアルは、レックス君のことが大好きなんだと思う。だからこそ、別の世界からこの世界に呼び出した。

 

 けれど、ミレアルの愛は歪んでいるから。きっと、レックス君を輝かせるために試練を与える。その時には、私に手出しをさせないように策を練るだろうし。

 

 でも、私にもできることがある。それは、変わらないかな。

 

「闇魔法の一切は、邪神が与えられる。レックス君は、どこまでも強くなれるんだから」

 

 私が、力を送り込むことで。レックス君の体を奪えないことは、少しだけ残念だけれど。私にレックス君が溶け込むのも、きっと楽しかったとは思うから。

 

 でも、今は肉の体を持って触れ合えることを喜んでおけばいいよね。いずれ結ばれるのなら、そういう感覚も楽しいだろうし。

 

「最後に残る闇魔法使いは、ふたりでいい。そうだよね、まだ目覚めていない私」

 

 邪神そのものと、レックス君。そのふたりだけが、闇魔法使いになる。私は、どこまで変わるのかな。

 

 きっと、そんなに変わらないけれどね。いつか聞こえてきた声は、邪神のものだから。私達が考えていることは、同じだから。

 

「あなたと私が望むものは、ただひとつ。レックス君の心だけ。それだけなんだから」

 

 邪神も私も、ずっと愛されなかった。それが、歪みを生んでいた。だけど、今は違う。もちろん、歪みそのものは残っているんだけどね。そうじゃなきゃ、眷属がレックス君を襲う状況なんて作らないし。

 

 でも、私がレックス君を思う気持ちは本物だよ。幸せを願う気持ちもね。

 

「私は、ずっと変わらないよ。レックス君が、ずっと私を好きでいてくれる限りね」

 

 胸に、そっと手を当てた。暖かいものが、伝わってきた。この胸のうちにあるものが消えない限り、私は自分を好きでいられるんだよ。

 

「だから、いつまでも一緒だよ。あなたの身も心も、私のものなんだから」

 

 体にも心にも、闇を侵食し尽くしてあげるね。レックス君がレックス君の形を保てる限界まで。私にレックス君のすべてが伝わるようになるまで。

 

「闇魔法を通して、私たちは繋がり続けるんだ。楽しみだね、レックス君」

 

 その時には、とっても幸せにしてあげるから。身も、心もね。

 

 約束だよ、レックス君。

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