物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
ミュスカの提案に乗って、襲われそうになっている帝国の村に転移する準備をしていく。魔力を飛ばさなければ、マーカーが働かないからな。
ちょっとだけ焦りはあるが、だからこそ落ち着くべき。そう言い聞かせながら、ミュスカの魔力を感じ取っていく。人の気配を強く感じて、目を合わせる。頷かれた。
そして、俺たちは転移していく。その近くには、逃げている村人の姿があった。やや遠くに、帝国兵だと分かる装備をしている人達がいる。完全に武装していて、襲う気満々のようだ。というか、すでに動いている様子。
あと少しで、本格的に誰かが殺される状況になっていただろう。
「間に合ったか! かなり、ギリギリだな」
俺達が転移してきたことで、驚いている村人が居た。ミュスカの方を見ると、帝国兵に目をやってから頷かれる。そっちは、ある程度任せていいらしい。
なら、俺は村人への対応に集中できる。まずは、様子をうかがうことにした。
「な、なんですか!? 新手ですか!?」
明らかに、困惑している様子だ。無理もない。俺達だって、敵に見えているのだろう。できれば今すぐ帝国兵に当たりたいが、その前に確認すべきことがある。
前提条件として、無実の村人を襲っているという証拠が必要なんだ。
「いや、おそらく違うはずだ。念の為に聞いておきたい。この村で、変な病気は出ていたか?」
「そんなこと、ありえませんよ! なぜそんなことを、この状況で!?」
怒りを秘めた目を、俺に向けている。妥当ではあるが、あまり反発されたくないのも事実。助けやすい動きをしてくれるかどうかで、かなり変わってくるからな。
ただ、何も確認しないのも違う。そこを間違えてしまえば、俺は単なる人殺しになってしまうだろう。
「相手が正当な理由を持って襲っている理由を消したいからだな」
「そんなことより、早く助けてくださいよ!」
「動きは止めている。見えるだろう?」
帝国兵の方を指差すと、魔力の壁に阻まれている姿が見えた。ミュスカの仕事ではあるが、俺の手ということにした方が話は早い。
後で謝る必要があるかもしれないが、とにかく今は即効性のあることが必要だからな。
村人は、帝国兵達を見て目を白黒させていた。
「ほ、本当だ……。どうして、そんな……」
「もうひとつ。いや、ふたつだな。犯罪者を匿っていたり、危険なものを製造していたりしないか?」
「そんなこと、ありませんよ……」
「レックス君、こっちで調べてみたけど、本当に無いみたい。問題なく、助けられるよ」
周辺から、ミュスカの魔力を感じる。侵食によって、調べてくれたらしい。これで、助けるだけの理由は整った。
あとは、遠慮なく敵を叩きのめすだけだ。明らかに、村人に対して攻撃の意思を見せていたのだから。
「そうか。なら、行くか。悪かったな、足を止めて」
「これで誰かが死んでいたら、恨みますからね……」
そんな声を背中に、俺は帝国兵のところへ向かっていく。帝国兵の壁になっている魔力をマーカーに、転移して。
敵兵たちは、明らかに怪しんだ目でこちらを見ている。武器や杖を向けている姿も見えた。
「さて、一応聞いておくか。何のために、この先の人たちを襲おうとしている?」
「そんなこと、お前たちごときに教えるはずがないだろう!」
そう言って、敵は魔法を撃とうとしてくる。これ以上の問答は、無駄だ。あとは、戦って終わり。それだけのこと。
「残念だ。ちゃんとした理由があれば、見逃せたのだがな」
「準備できたよ。全員、補足できたかな」
ミュスカは、それぞれの敵に攻撃が届けられるように、魔力でマーカーを設置してくれたらしい。
ならば、転移を応用して俺の攻撃を飛ばしていくだけ。それだけで、終わるだろう。
「分かった。じゃあ、行くか。
「あっ、が……」
いくつもの魔力でできた刃が飛んでいき、直撃したところから爆発していく。敵兵たちは一気に飲み込まれ、抵抗もなく倒れていった。
後には倒れた敵ばかりが残って、哀愁すら漂っていた。
「これで、終わりか。あっけないものだ。虫を潰すよりも……」
「簡単に人を殺せるのが、怖い?」
「そう、かもな……。だが、悠長に話し合いをしている余裕はなかった」
「うん。だから、レックス君は正しかったんだよ。ね?」
ミュスカは、俺を慰めようとしてくれているみたいだ。実際のところ、殺さない手段は思いつかなかったというのが実情だ。正確に言えば、殺さずに完全に丸く収める手段というか。
村人の心理的安全などを考えると、どうしても殺すことが正解に思える。俺の能力が足りないのか、単なる現実なのか。
まあ、今更か。何かを思いついたところで、手遅れでしかない。なら、切り替えていこう。
「分かった。なら、村人たちの様子を見に行くか」
ひとまず、村の中心の方へと戻っていく。すると、人々が集まっており、抱き合っているような人も居た。
とりあえず、犠牲者らしき人は見当たらない。ちゃんと助けられたと言っていいだろう。軽く、息をつく。
さっき話していた村人が、前に出てきた。
「あ、ありがとうございました……。みな、無事です……」
そう言って、深く頭を下げている。しばらく待っていると、頭を上げた。そして、今度は別の人が近づいてくる。
「話は聞きました。あなたは、我々の恩人です。少ないですが、これを……」
金銭を手渡される。断ろうかとも思ったが、まあ受け取った方が良いのだろう。これで縁が切れるのだし、後腐れはなくなった方が良い。
あんまり長く干渉しても、お互いにとって良いことはないからな。助けて金銭を受け取って、それで終わりでいいだろう。
「ありがとう。みんなが無事で良かったよ。じゃあ、これで」
「行こっか、レックス君。長居をしても、仕方ないからね」
「ああ。さて、次はどうしたものか……」
そして、俺たちはゆっくりとレプラコーン王国へと戻っていった。
成果を報告するために、王女姉妹に会いに行く。すると、明るい笑顔で出迎えてくれた。
「レックス君、ミュスカさん、ありがとう! おかげで、帝国に対処する見込みができたわ!」
「まあ、他人事じゃないからな。俺にできることを、全力でこなさないと」
「そうだね。レプラコーン王国には、愛着があるし」
「私たちの国を、土足で踏みにじろうとするわけですからね……。相応の対応は、必要です」
攻められることがなければ、外交の範囲で済むのだろうが。ただ、希望的観測だろうな。国境沿いの村が襲われていたというのも、きな臭い。
どう考えても、戦争の準備が進んでいると判断していいだろう。いつになるかはさておき、間違いない。
「まあ、そうだな。見る限りでは、動きがある可能性は高い。……正直、嫌いだしな」
「レックス君の気持ち、分かるつもりだよ。もし戦いになったら、頑張ろうね」
「お願いするわ! みんなのために、力を貸してね!」
そう言われて、俺は頷く。ミーアたちは、笑顔で返してくれた。
ただ、それから一週間もしない頃。
スコルピオ帝国から、レプラコーン王国に宣戦布告が出されることになった。