物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
玉座に座った男は、肩肘をついたまま。立ち上がろうともしない。察するに、自分の強さを信じ切っているのだろう。
それがミレアルの加護によるものなのか、あるいは研鑽によるものなのか。態度からして、前者でしかないように見える。
さて、どの程度の実力だろうな。ミレアルの加護がどの程度かによって、俺の取るべき手段が変わってくる。ひとまず、様子見からか。
とりあえず、もっと大事なことがあったな。確認するだけ、しておこう。
「一応、聞いておく。お前が、皇帝か?」
ゆっくりと、相手は頷く。俺のことを見下すような目を向けながら。正直な気持ちを言えば、今の段階で嫌いになりそうだ。まあ、敵なんてどれだけ嫌いになっても良いんだが。どうせ殺し合うのだし。
「そうだとも。この世で最も強い存在。それが余だ」
なんというか、うぬぼれのようなものが見える。闇魔法の力に溺れていれば、俺も同じようになっていたのだろうか。こうはなりたくないと思える姿というか。
人の振り見て我が振り直せだ。俺も、ちゃんと謙虚でいないとな。みんなに助けられて、ここに居るのだから。
皇帝と和解する道筋は、ない。これまでの戦いで出た犠牲も、全部無駄になるからな。この期に及んで命乞いをする程度なら、すぐにでも首を落としたいくらいだ。
余計な妄想はこれまでにして、さっさと準備に入るか。そうしないと、始まらない。
「これも、聞いておく。戦いをやめる気はないか?」
「勝てる戦を止めるほど、余は愚かではないよ」
頬杖をついたまま、語っている。まったくもって、気に入らない。部下は足止めするために必死で戦っているのに、この態度。仮に皇帝に仕えたとしても、忠誠に報いる判断はしないだろう。
こんな存在が皇帝だというのなら、俺は帝国に生まれなくて良かった。王国で、ミーアとリーナに出会えて良かった。王としての器など、もはや比べるまでもない。
ただ与えられた力に溺れただけの、くだらない存在。少なくとも俺には、そう見えている。
「そうか。それが遺言で、良いんだな」
「貴様ごときに殺されるほど、余は弱くないとも。
五属性の魔力を収束した刃が、飛んできた。フィリスの魔法だ。このまま受ければ、広範囲に爆発が広がってしまう。俺は防御魔法で耐えられるが、みんなも同じとは限らない。
今すぐにみんなに防御魔法を張るか? いや、もっと良い手段があったな。
俺はミュスカの魔法を使って、敵の魔力を闇の魔力に取り込んでいく。そのまま、霧散させていった。ひとまず、周りへの被害は抑えられたみたいだ。
「
「余の攻撃で沈む程度の存在なら、その程度の弱きものだということ。それだけだ」
部下たちごと巻き込んで戦うつもりのようだ。思い込みで嫌っているだけではなさそうで、何よりかもな。これで、遠慮なく殺せる。
ただ、少しだけ厄介だ。みんなを守ることを考えながら、俺は戦わないといけない。転じて、敵は被害なんて気にせず戦ってくる。さて、どうしたものか。
「ずいぶんと、自信過剰なことだな。ただの猿真似で。なあ?」
「安い挑発だとも。使いこなせてこそ、力。余が最強の力を持っているというだけ」
「なら、俺に手傷のひとつでも負わせてみせることだ。口だけではないのなら」
「これを受けてみるが良い。
今度は連続で魔力の刃を飛ばしてくる。だが、同じ場所を狙ってくるだけ。火力に頼っただけの、単純な運用。まるで見どころのない使い方だ。
確かにフィリスの魔法を再現できていることには、賞賛を与えても良い。自力であるのならだが。ただ、この下手くそな運用を見る限り、お察しだ。
俺はさっきと同じ対処をするだけ。敵の魔法を魔力で包み込み、制御を奪って霧散させるだけ。
「
「結局、貴様も余を倒せておらぬではないか。口だけなのは、どちらだ?」
また、敵は魔力の刃を飛ばしてくる。俺も、同じように魔力を奪う。だが、敵の魔力が減っている感じがしない。
なにか、タネがありそうだ。それが分かるまで、なるべく情報を集めていくか。仮に魔力が無尽蔵なら、同じことを繰り返していても負けるだけ。というか、魔力が無限なら誰も勝てない。
さすがに、どこかに弱点があるはず。ミレアルの加護があることは、確定みたいだが。というか、加護以上の何かかもしれない。
皇帝に関しては、特別扱いしているのだろうか。まあ、ミレアルの思惑は後で考えよう。魔力を供給しているだけなら、出てくる可能性は低いのだから。
「好きに言えばいいさ。結果が、お前の無力を証明するだけ。そんな無様な魔法で、フィリスを超えたと思ってもらっては困る」
「羽虫とは言え、あまりうるさいと不愉快なものだ。
また、同じ技をお互いに出すだけ。それで気付いたのだが、何度繰り返しても威力が上がっていない。となると、見えてくるものがあるな。
魔力を一度に使える量には、限界があるらしい。なら、仮に無限だとしても対処できる。敵の魔力の最大値を割り出して、それを超える攻撃を叩きつければ良い。
なら、もう少し探っていくか。まだ、魔力には余裕があるのだから。
「
「貴様こそ、同じ手を繰り返してばかりではないか。真に芸のないのは、貴様ではないのか?」
敵の魔力に集中しながら、同じような戦いを続けていく。なるべく、相手が油断してくれるように。俺に打つ手がないと誤解してくれるように。
同じことを続けていれば良いと判断するのなら、そこが隙だ。そして、今の皇帝は甘い判断をしそうに見える。
だが、油断は禁物。しっかりと、演技をしておかないとな。
「お前の打つ手が単純すぎて、他の手が必要ないだけだ。まだ、繰り返すか?」
「構わぬぞ。余はお主が潰れるまで、同じことを繰り返せば良いのだから。
敵の魔力は、魔法を放った瞬間に減って、また次の瞬間には元に戻っている様子。ミレアルから継続的に魔力を渡されていると見るのが妥当か。
これは、ミレアルの手加減かそれとも限界か。いずれにせよ、有効活用させてもらおう。
「
「分かったところで、どうする? 貴様には、対処する手札などない。
同じ動きをすると見せかけて、俺は軽く剣を振る。その流れに合わせて、魔力の刃に自身を溶け込ませる。魔力との合一をして、全力で敵の魔法ごと皇帝を切り裂く。
結果は、あっけないもの。皇帝は、防御に移ることすらできなかった。
「
「なっ、余の無限の魔力が……。おのれ……」
そう言い残して、皇帝は事切れていく。周囲を警戒するが、ミレアルはさらなる干渉をしてくる様子はない。
ひとまず終わったと判断して、俺は次の動きを考えていった。
「与えられた力に頼るだけの愚か者には、似合いの末路だよ。さて、みんなのところに行かないと」
これで、帝国との戦いに区切りがつく。その後は、どうなるだろうな。