物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
俺は皇帝を討った。まずは、それを伝えなくてはな。最後まで抵抗するのなら、しっかりとトドメを刺さなければならない。だが、殺さずに済む命があるのなら、そうしたい。
これまで多くの敵を殺してきたし、単なる自己満足ではあるのだろう。それでも、だからといって開き直りたくはない。今でも、殺さずに済む道を探す。俺は、最後の一線にしたいんだ。
だからこそ、俺は駆けていく。遠くまで声が届くように、城の頂上を目指して。
たどり着いた先から、魔法も使って俺は声を響かせていく。さて、どうなるだろうか。
「皇帝は、俺の手で打ち破った! お前たち、無駄な抵抗はよせ!」
「なっ……。あの皇帝が!?」
「証拠を見せろ! 本当に倒せたというのなら!」
少なくとも、城下にいる人々には届いたようだ。だが、疑われてもいる。俺がここに居ることが答えだとは思うが、納得できないのも分かる。
一応、備えておいて良かったな。皇帝が持っていた王冠を、俺は掲げていく。
「これが、その証だ! もう、俺たちが戦う理由はない!」
「あ、新しい皇帝が生まれたぞ! 真の強者が!」
そんな事を言って、駆け出していく人もいた。周囲に伝えようとしているのが、丸わかりだ。遠くにいるので、止めることもできない。そもそも敵ではないので、暴力に訴えかけることもできない。
手を伸ばしたまま何もできないでいると、もっと人々が動き出す。
「お、おい……俺は……」
「あなたは、なんと言うのですか? 教えて下さい」
気付いたら、俺の近くにまで来ている人までいた。油断していたと言わざるを得ないが、正直理解はしてもらえると思う。この状況で困惑しないやつがいるか?
とにかく、うまく頭が回らない。まったくもって、理解の外にある。
「レックス・ダリア・ブラックだが……ちょっと待て……」
「さっそく、皆に伝えなくては! 新皇帝は、レックスだと!」
そう言って、また人が駆け出していく。俺はまた手を伸ばして、つかむこともできなかった。そもそも、つかんで正解だったのかも分からない。
このままでは、俺が皇帝ということになってしまう。話が早すぎる。普通、もっと反対とか反抗とか起きるものじゃないのか。おかしいだろ。
「なっ、おい! ……くそっ!」
「まったく、気を抜きすぎなんじゃないの? 帝国の流儀は、分かっていたじゃないの」
「お兄様が皇帝なら、帝国はお兄様のものってこと?」
カミラとメアリが、俺のところまでやってきていた。様子を見る限り、ケガはしていないようだ。ひとまず、軽く息をつく。
かなり声を届けたつもりだし、聞こえていたのだろう。まずは、良かったと言える。
ただ、カミラの話は納得できる部分もある。皇帝を打ち破ったものが次の皇帝だとは知っていた。なら、想定してしかるべき状況ではあったのかもしれない。
メアリの無邪気な目が、逆に突き刺さってくる。俺は、どうしたら良いのだろうか。
「カミラ、メアリ……。無事だったのは何よりだ。ただ、困ったな……」
「レックスさんが皇帝となるならば、王国との関係も気になりますわね」
「ブラック家にも、どれほどの影響が出るでしょうか。あたしとしても、目を離せません」
フェリシアとラナも入ってくる。気配を探った感じだと、他の人達も近づいてきているみたいだ。勝てたんだな。
ということは、ひとまず気を抜いても良いのかもしれない。ミレアルの動きは、まだ感じない。こうなってくると、今の段階で手出ししてくることはなさそうだ。
完全にミレアルの存在を意識すると、24時間365日警戒していないといけないが、さすがに俺には無理だ。今日くらいは、意識していても良いかもしれないとはいえ。
そうだな。みんなが集まってしばらくするまでは、警戒を続けておこう。それ以上は、物理的に限界がある。
というか、フェリシアもラナも俺が皇帝になる前提で話をしていないか? そっちも気になるんだが。
「なんか、俺の意思が無視されていないか!?」
「だが、どうする? 代わりの皇帝を挙げないことには、帝国は乱れるだけだぞ」
「……同意。空いた皇帝の座を巡って、おそらく争いになる」
エリナとフィリスの言うことも、確かに正しいかもしれない。皇帝の座が空白になって、代わりもいない。そういう状況なら、立ち上がる人間は現れるだろう。
まあ、俺が皇帝になったところで狙われる可能性はあるのだが。そこは、皇帝を討った時点でという話ではある。帝国にとっては、明確に敵になる動きだったのだから。
「それは、確かにあり得そうだが……。となると、もう断る道は……?」
「帝国を見捨てる覚悟があるのなら、お好きにすればよろしくてよ。あたくしは、それでも構わないわ」
「レックス殿には、酷でありましょう。断れば戦いになると知ってしまえば……」
ルースの言うように帝国を見捨てられれば、どれだけ楽だろうか。だが、ハンナの言う通りなんだよな。俺や仲間の命を狙ってくる敵なら、いくらでも殺せる。だが、平和に生きていて関わりもした相手が死ぬとなるとな。
こうして帝国に関わらなければ、後継者争いが残酷になろうが気にもしなかったはずだが。俺の影響が明確に見えてくる分、責任を感じてしまう。
「なんか、みんな妙に乗り気だな……。俺は、器じゃないと思うんだが……」
「戦争の原因になった皇帝よりも、マシじゃないかな? それで、良いんだと思うよ」
「レックス様は大変そうだから、無理にとは言えないけど……。でも、僕もちょっと嬉しいかも」
ミュスカとジュリアには背中を押される。確かに、味方を平気で見捨てようとした皇帝よりはマシだと思える。だが、良い国にできるとも限らない。
まあ、それは何でも同じか。ブラック家だって、確実に良くできるという確信など何もなかった。何度か失敗もした。
「そうか……。なら、受けた方が良いのかもな……」
「……提案。まずは、ミーアとリーナに報告。それから、細かい動きを考える」
「私としても、賛成だ。王国が協力するのなら、話は早く進むだろう。レックスがどちらを選ぶにしてもな」
フィリスは良い案を出してくれた。そうだな。俺一人で考えても仕方ない。経験者に頼るというのも、大事だ。
そもそも、王の役割の先達というのが少なすぎる。それが友達に居るんだから、頼るのは当たり前かもしれない。なにせ、帝国が傾いたら王女姉妹も困るのだから。勝手な判断をするより、よほど良い。
「それもそうか。ミーアたちが統治するという手も、無くはないだろうし」
「形だけでも独立した国となるか、完全に王国に接収されるかですな」
まあ、俺は王国の人間だからな。実際のところ、王国を打倒するような狙いがあれば積極的に潰すだろう。実質的には属国となるのは、間違っていない。
ただ、体面だけでもキープするのは大事なんだよな。王国の支配下という状況が表に出れば、帝国は大変なことになる。そんな気がした。
「それは……かなり荒れないか? 抵抗部隊とかができそうな……」
「否定は、できませんわね。レックスさんが潰せば、終わりでしょうけれど」
「あたくしは、どちらでも構わなくてよ。ホワイト家の利益になるように、立ち回るだけだもの」
「ひとまず、報告するか……。いったい、どうなることやら……」
頭を抱えたい気持ちでいっぱいだったが、何もしないと余計に悪くなる。この重みを、せめて誰かに伝えたい。そんな気分だった。