物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
王女姉妹との話し合いは、あっさりと終わった。要約すると、全力で手伝うから皇帝として頑張ってくれとのこと。王国にとって利益が大きいのは、帝国を接収することよりも俺が正しく統治することなのだとか。
まあ、言わんとすることは分かる。領土を分け与えないと反発する家臣というのが、現状いない。そうなってくる状況で帝国を切り取れば、誰がどの領を得るのかという火種が生まれかねないのだろう。
とはいえ、見える形で王国に利益をもたらすのも大事なようだ。おそらくは、賠償金かそれに近い何かになるだろうな。
「結局、俺が皇帝になるのか……」
玉座に座りながら、俺はうなだれていた。とりあえず、ジャンとミルラがサポートのために来てくれた。王女姉妹からも、方針を伝えられているらしい。
残りの戦力は、今は王国に帰っているようだ。元は王国の人間なのだから、長居はできないということなのだろう。俺は、うっかり皇帝の条件を満たしてしまっただけで。
「兄さんにだけ、負担をかけさせませんよ。兄さんに潰れられたら、困るのは僕ですからね」
「レックス様のために、最善を尽くす所存でございます」
ジャンとミルラが相変わらずなのが、安心できるところだ。このふたりが疲れた顔をしていたら、俺は終わりに近い。これからも、よく顔を見ていかないとな。
うっかり倒れられでもしたら、比喩でもなんでもなく詰みかねない。美容魔法なんかを応用しつつ、ふたりの健康には気を使いたい。
もちろん、実利だけではないのだが。苦しむ姿なんて見たくないし、万が一のことが起こったら立ち直れないのだし。
「ジャンもミルラも、ありがとう。とはいえ、どうしたものか……」
「ひとまずは、役職に誰をつけるかというのが問題ですね」
「そうか。皇帝の配下を殺してきたから、人がいないんだな」
「というより、もともと武官しか優れた人員はいないようでして」
俺はため息を抑えきれなかった。前途多難どころの話じゃない。優秀な文官がいないと、論外じゃないか?
今の段階でいないということは、探すことから始めなければならない。教育だって必要になるはずだ。いや、どうしろと。俺には、解決策なんて思いつかないぞ。
「それで、どうやって国が回っていたんだ?」
「回っていないから、王国から奪おうとしたみたいですね」
ジャンとミルラしかいないということもあって、本気で頭を抱えた。少なくとも、俺には解決できそうにない。ふたりなら、名案を持っていたりするのだろうか。
地道に積み重ねるしかないのだろうが、その積み重ねる時間を帝国は耐えられるのか? かなり、大変だ。
「終わりじゃないか……。ここから、どうやって挽回すれば良いんだ?」
「国庫をギリギリまで解放する必要があるでしょうね。とにかく、今は余裕がありません」
それはおそらく、王国への賠償も含めてという話だろう。そうじゃなかったら、本当に詰む。あるいは王国以外の国から借金するという手もあるかもしれないが。
ただ、他国にも嫌われていそうな気がして仕方がない。力こそ全てという価値観で、周囲を味方につけられるかは怪しいのだから。生産者を軽んじれば、国の土台が崩壊するだろうに。
皇帝を殺せたことだけは、本当に良かったかもしれない。ただ、民衆の考えを変えられなければ同じことだ。まだまだ、課題は立ちはだかっている。
「金でどうにかなるのなら、まだマシではあるか。食料は、足りそうなのか?」
「幸い、民衆から奪ったものが多いようでございます。かろうじて、当座は凌げると存じます」
その当座の間に、食糧生産を回復しなければならないと。魔道具にも、頼る場面かもな。天候の影響を少しでも抑えられるだけで、とんでもなく大きい。
今回ばかりは、不作に耐えられる状況ではなさそうだ。輸入する資金もないとなると、確実に成功させなくてはならない。
王国からの人道支援は、さすがに民が許さないはずだ。仮に余裕があったとしても、期待はできない。
まあ、この段階で皇帝を討ててマシだったと言うしかない。もっと後だったら、本格的に帝国は終わっていた。
「なるほど。結果としては、悪くないわけだ」
「はい。ただ、果断な改革が必要でしょうね。兄さんには、負担をかけることになります」
ジャンはじっと俺を見ている。それで、意図は伝わった。まあ、仕方ない。
「無理やり力で抑え込んででも、改革を実行すべきだということだな」
「その通りでございます。まずは、レックス様のお力を示すことと、人員を采配することを同時に実行すべきかと」
とにかく、今は独裁みたいな形にしてでも国を立て直すべき。そうしないと、完全に手遅れになる。ミルラとジャンの抱えている危機感は、そういうことだ。
できることならば手段を選びたいが、話を聞くだけでも余裕がない。民衆の密告や極端な処刑は避けるべきだが、力ずくでというのは必要になる。
俺も、歴史に悪名を残しそうだな。だが、構わない。それで、俺の仲間たちの未来がつながるのなら。
「理屈は分かったが、手段はどうするんだ?」
「皇帝の座を狙おうとするものも、集めます。つまり、闘技大会ですね」
皇帝の座を奪うために、俺を倒そうとする相手が出てくる。民衆も、戦いを見る。その場で、俺の圧倒的な力を見せつけるということ。
間違いなく、恐怖での支配に近づくはずだ。だとしても、俺がやるしかない。ミルラとジャンから見て、俺が嫌いな手段でも取るべきと判断する状況なんだから。
「ああ、かつての帝国で開催されていたものか。心を折ってしまえと」
「はい。レックス様のお力で、反抗の意欲を削いでしまいたいということでございます」
「分かった。派手に実行しないといけないか。ただ、殺せないんだよな……」
「闘技大会での上位者に、役目を付ける予定です。必要な相手は、拾ってほしいですね」
人道的な理由でないのが、逆に納得できる。ジャンらしいというか。帝国の価値観を利用して一手目を進めて、そこから大きく変えていくと。
上位者が俺の指示に絶対に従うのなら、もっと下も必然的にということ。苛烈にならないように、バランスを取る必要はあるが。俺を恐れるあまりに民衆を潰されては、本末転倒なのだから。
「武官ならともかく、文官もそれで良いのか?」
「宰相に関しては、名目上だけの役職にする予定です。言わば、餌ですね」
「ああ、強いものを優先しているという体面だけを取るのか」
「その実、文官の権限を増やす予定でございます。レックス様のお力を、背景として」
民衆に夢を与えつつ、実際には文官による統治を実現する。ジャンやミルラの意向が帝国の政となる形で。
ふたりの負担も相応に大きいが、本人が提案するくらいだ。ちゃんと、見込みはあるのだろう。
「つまり、俺の命令だということを最大限に利用するわけか」
「そういうことです。兄さんが絶対だと刻み込みさえすれば、動きやすいので」
「分かった。ミレアルに関しては、どうするんだ?」
「ひとまず、情報を集めております。現状では、他の動きは見えておりません」
急に魔力が増えた存在の噂なんかは、引っかかってもおかしくない。それが見つからないということは、少なくとも現段階で動いている可能性は低い。
ミレアルの意図が分からないことだけが怖いが、考えても無駄でもある。原作知識を持っている俺にすら分からないのだから。
「なら、まずは目の前のことだな。さて、どうやって勝つか……」
できるだけ派手に、なおかつ殺さない。なかなかの難題に、俺は頭を悩ませていた。