物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
闘技大会の布告から開催まで、本当にあっという間だった。帝国の民が成り上がりを求めているというのが、よく分かる。
だが、力こそ全てという価値観では国は運営できない。力はもちろん大事だが、他の評価軸も持たせなければ。農業や畜産業を軽視する国にでもなれば、それこそ終わりなのだから。
まあ、それはいずれの話だ。まずは、闘技大会で力の差を見せつけないとな。絶対に勝てないと思わせてしまえば、話は早い。改革を断行する一手になるはずだ。
やってきた本番、俺は闘技場の中心に立って宣言する。参加者も観覧者も多くて、人口密度が過密になりそうなくらい。盛り上がりという意味では、完璧だ。
「さあ、ここに闘技大会の開催を宣言する! 優勝した者には、俺に挑む権利がある!」
「うおおおお!」
「俺が新しい皇帝になるんだ!」
そんな声が聞こえてくる。俺以外の皇帝を生み出すことはできないから、全力で潰すが。王国との関係を考えれば、いま皇帝の座を降りるのは論外だ。せめて、信頼できる誰かに託せるようになるまでは。
俺は絶対に勝つと気合いを入れつつ、腹に力を入れて演説していく。
「まずは、俺に挑む価値があると示してみせろ。それができなければ、話にならない」
「あの前皇帝を倒したんだろ……? 勝てるわけが……」
「俺はやるぜ。どうせ、真正面からなら弱いに決まっている」
俺の評判も、いろいろなようだ。まあ、実態が分からないまま皇帝になった存在なわけだからな。俺の力は、帝国の民には分からない。戦う姿を見たことがないのだから、当然だ。
だからこそ、優勝者を圧倒的な差を見せつけて倒すことが大事になる。力こそ全てというのなら、俺に従ってもらおう。力を信奉している限り、他に道などない。
参加者もいろいろ居るという感じのようで、俺をにらみ付けている者から熱っぽく見てくる者、横目でチラチラ見てくる者もいた。
そんな中で気になったのが、なんとなく俺に注目していない様子の人たちだ。
「皇帝を目指さなくても、生きるためには勝つしかないか……」
「楽に勝てると、いーんだけど。めんどーなのは、ゴメンかも」
ふたりとも女の人なのだが、なんか他の人と雰囲気が違う。魔力を探った感じだと、他より頭ひとつ抜けている様子でもあった。
闘技大会に参加しているのに、燃え上がるような熱が見えない。擬態なのか、本心なのか。いずれにせよ、注目すべき。
ただ、俺の仕事は司会進行でもある。まずは、さっさと進めないとな。
「まずは、雑兵を排除することからだな。集団で戦って、勝ち残った数名のみが進出だ」
いくつかの予選があり、それぞれで集団の中から数名のみ選出される。人数を確定させていないのは、見どころのある人を引き立てるためらしい。
とりあえず、期待外れならひとりだけ。豊作なら多くなるという感じだ。
俺の注目している人たちは、同じ組に入った様子。まずは、そこの試合をしっかりと確認する。
「女が多くて、楽そうな限りだ。良い組に入ったな」
「皇帝の前に、腕鳴らしと行くか。この程度で負ける俺じゃねえよ」
それぞれに武器を構えて、笑ったり周囲をながめたりしている。まあ、いま聞こえたセリフを言っている人たちは、魔力的にも構え的にも勝ち目はないだろうが。
俺の仲間たちが例外なだけで、そもそも属性の壁を超えるのは不可能じみた難題なんだよな。みんなと一緒にいると、当たり前に壁を超えすぎて忘れそうになるだけで。
まあ、よく考えたらゲームの主人公パーティみたいな人ばかりだ。外れ値なのはある意味当然か。
「はぁ……。さっさと終わらせて、次に体力を温存しないと……」
「ねえ、協力しなーい? あたしも、楽したいしさー」
注目株の人たちは、なんか手を組もうとしている。魔力量の差を見る限り、ひとりでも順調に勝てそうなものだが。
楽したいという理由だとしても、魔力に溺れない選択という時点で高く評価できる。これは、本当に期待して良いかもな。スカウト候補としては、かなり見どころがあると思う。
「分かった。じゃあ、あなたは向こう……。
「なるほどー。その程度に温存しても、大丈夫かー。
属性を圧縮して、反発による爆発を引き起こしていく。感じた魔力からすると、
つまり、手札を隠すという考えや魔力を温存するという考えもある。少なくとも武官としては、相当評価が高くなるな。
「こんなところで……俺が……」
「ちくしょう……。せっかく、良い機会だったってのに……」
そんなこんなで、あっさりと決着がついていく。みんな負けを刻まれているようだし、予選を通過させるのも問題だ。
つまり、俺が注目していたふたりだけが通過という結果になる。
「そこまで! 予選通過者は決まったな。残りも、順番に試合をしてもらおう」
そこからは、同じように予選が行われ、順調に試合は進んでいった。俺としては、そこまで見どころのある人は見当たらなかったという印象。ジャンやミルラなら、また別のものを見出すかもしれないが。
とにかく、例のふたりを気にしたいところ。単純な強さだけではない物を持っている時点で、今回の参加者では圧倒的に上澄みなのだから。
決勝トーナメントでは、まず片方。ちょっと無口というか落ち着いたトーンの話し方をしている人が出ていた。名前は、ユフィというらしい。
自然体に近い様子で構えていて、風格すら感じる。敵は普通の
「俺様とお前、同じ
「さっきの人に勝つには、ちゃんと温存を……。
「
同じ魔法がぶつかりあって、あっさりとユフィの魔法が敵の魔法を飲み込んでいく。爆発の出力は、拮抗すらしなかった。
「そこまで! 勝者、ユフィ! 決勝を、楽しみにしているぞ」
「私は、勝たなくちゃ……」
なんとなく、必死そうな目をしているような気がした。理由は分からないが、思うところがあるらしい。
まあ、良い。理由次第では、恩を売ることができるかもしれない。覚えておこう。
「……ふむ。なるほどな。次の戦いに移らせてもらおう」
次は、ちょっとやる気のない様子の人の出番だ。名前は、ロニアらしい。肩に剣を置いて、面倒くさそうな顔をしている。
「はー、だりー。決勝戦、疲れるの確定じゃん」
「何を勝てるようなことを。ここで負けて、終わりだ!
「
さっきと同じように、あっさりと決着がつく。やはり、このふたりが別格のようだ。
「勝者、ロニア! 次の試合まで、しばらく休んでくれ」
それからもトーナメントが進み、当たり前のようにふたりが決勝で戦うことになった。
ふたりは向かい合い、覇気のようなものをぶつけ合っている。落ち着いたユフィも、面倒くさそうなロニアも、どっちも本気らしい。
「さあ、ここからが決勝だ。勝ったものが、俺に挑む権利を持つ」
「やはり、あなたが……。大変そうね……」
「私もー。両方優勝なら、マシだけど。めんどーだよね」
「でも、負けられない。……行く。
「
四属性が収束した爆発が、お互いにぶつかり合う。余波だけで、床全体が震えるほど。激しい爆音が、耳をおかしくしそうなくらいだった。
ただ、互角の様子。さて、どう動くだろうか。
「なら、お互い全力の一撃で……。それなら、早い……」
ユフィの言葉に、ロニアも頷く。確かに、手っ取り早い手段だ。悪くない。
「めーあんじゃん。じゃあ、行くよー。
「
しばらく爆発がぶつかって拮抗し、最終的には片方が飲み込んでいく。倒れたのは、ロニアの方だった。
「そこまで! 勝者、ユフィとする!」
俺に挑む権利を得たユフィは、じっと俺のことを見ていた。強い意志を感じる瞳で。
これから、皇帝の座を狙うための戦いが始まる。さて、しっかりと力を見せつけないとな。