物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
闘技大会の優勝者であるユフィには、俺から皇帝の座を奪おうとする機会が与えられる。見た感じ、戦って負けることはまず無いだろうな。
ということは、どうやって周囲に力を見せつけるかが問題になる。圧倒的な差を思い知れば、余計なことを考えるやつも減るだろう。暗殺なんかを狙われると、面倒だからな。防御魔法は常時まとえるから、俺個人としては対応できる。だが、周囲はそうではない。
人質なんかを取ろうとしてこられて困るし、とにかく心を折っておこう。皇帝の座を狙うようなやつから、先手を取って。
「さて、ユフィ。俺に挑んでくる覚悟は、あるか?」
「はい……。私は、挑むだけ……」
ユフィは剣を構えている。やる気みたいだ。なにか事情がありそうではあるが、気にしても仕方ない。まあ、たぶん将軍の位を与えることになるんだが。その時に聞ければ上々といったところ。
とにかく、今は俺の力を示す時。他のことに意識を割けば、結果的にユフィ本人だって苦しむことになるだろう。なにせ、皇帝の座というのはもろい立場だからな。圧倒的な力がなければ、簡単に追いやられる。そうなった後にどうなるかなど、語るまでもない。
ユフィ程度の実力なら、上澄みには負けることもある。つまり、気の休まらないまま命を狙われ続ける未来が決まったも同然。ユフィのためにこそ、俺は勝たなければならないんだ。
「なら、いつでも来い。俺が、お前のすべてを受け止めてやろう」
「それなら、遠慮なく……。
さっそく、魔法が飛んでくる。四属性の魔力を収束させて、属性同士の反発を解放する技だ。フィリスの技の劣化版でしかないが、まあ十分に強い。
ただ、俺に届くことはないな。本家本元、
「
あっさりと、俺の魔法に押さえつけられていく。魔力を取り込んで、それで終わり。ここから反撃することもできるが、まずは圧倒的な防御力を示すのが先だ。
ユフィは明らかに動揺しているという様子で、目を真ん丸に見開いている。まあ、少しの手応えすら感じられなかったはずだ。妥当なところ。
「なっ……。なにか、タネが……。
もう一度撃たれて、同じように防ぐ。正確には、さっき張った魔法で引き続き防御できた。正直に言って、俺の仲間たちのいる領域には程遠い。一般的には強者なのも、間違いないが。
自分に合ったオリジナルの魔法を作るところからが、課題だな。まあ、本人が何を選ぶか次第ではある。
「良い魔法ではある。確かな才能と研鑽に支えられているな。だが、俺には届かない」
「
何度も撃ち続けてくる。手段としては妥当なところだ。俺には通じないというだけで、普通は防御魔法でも展開し続けると消耗するからな。
まあ、正確には俺も消耗するのだが。言ってしまえば、省エネなんて考えていない時代の機械と最新の省エネ家電よりも効率に差がある。先に魔力が尽きるのは、ユフィの方だ。
そもそも論として、魔力量にも圧倒的な差があるからな。どうあがいても、ユフィでは俺に勝てない。魔法との合一を初見で出されたら、話は別かもしれないが。それほどの練度は感じないし、無いだろう。
「連発しても、変わらない。一定以下の威力ならば、自動的に無効化してくれるからな」
「嘘でしょ……。本当に、何も通じない……」
一歩下がる姿が見えた。心が折れる寸前なのかもしれない。やじが飛んでくるのが聞こえるが、しばらくしたら理解できるだろう。いま皇帝となっている存在が、どれほどの実力者なのか。
自分で実力者と言うのは恥ずかしいが、もはや客観的な事実だからな。ミレアルの加護を受けた前皇帝も、つまり帝国の最強も、あっけなく倒せるのだから。
ただ、いま降参されてはまずい。反抗の心を折る程度には、力を見せつけないといけないからな。
「諦めたのか? まだ、お前の底は見せてもらっていないんじゃないか?」
「そう言うのなら……。
同じ場所に、複数の魔法を同時に出す。魔力の収束によって爆発をする魔法なのだから、積み重ねれば当然威力は上がる。
地面すら震える爆音とともに、俺のところまで爆発が届く。ただ、防御魔法を重ねがけするまでもない。ただ、ユフィの魔法はかき消された。
「なるほど、同じ魔法を重ね合わせるのか。良い工夫だ。十分に、見せてもらったぞ」
「これで終わり……? こんなに、あっけなく……?」
ユフィは震えている様子だ。恐怖すら感じているのかもしれない。何一つとして、俺の防御魔法を破ることはできなかったのだから。
まあ、力の差を見せつけるという意味では正しい。忠誠心を稼げるかで、ちょっと気になるところだが。
「では、俺の力も見せてやろう。この場にいる全員に届くようにな」
「あっ、ひっ……。なに、その魔力……」
一歩、二歩とユフィは下がっていく。そして、顔を歪めていた。俺は魔力を集中させているから、それを感じているのだろう。
なまじ強いからこそ、俺の魔力が異常だということも分かるのだろうな。フィリス・アクエリアスにすら勝つ俺の力。存分に見せるとしよう。なるべく、分かりやすいように。
「安心しろ。ケガひとつ、させないさ。行くぞ。
魔力を込めた剣を、一気に振り抜く。ユフィにも、観客にも当たらないように。同時に、威力を示せるように。
つまり、闘技場の舞台そのものにぶつける。すべてを消し去るような魔法を、全力で。
俺とユフィが立つ部分だけを残して、舞台はあっけなく消え去っていった。
「なっ……。跡形も、残っていない……。舞台の、全部……」
「言っただろ? ケガひとつ、させないと。だが、力の差は分かったんじゃないか?」
「こんなの、勝てるわけがない……。誰だって……」
「降参、するか? 俺には、わざわざいたぶる趣味はないんだが……」
「分かった……。降参、する……。これ以上は、無理……」
ユフィは両手を挙げた。その瞬間、会場はひたすらに静かだった。誰もが、声を出すことすら恐れているように。
つまり、狙い通りだ。分かりやすく圧倒的な力を示せたのだから、十分だろう。
「そうか。なら、俺の勝ちだな。さて、お前には、望みはあるか?」
「望み……? 何の話……?」
ユフィは目を揺らしながら、困惑したような顔を向けてくる。まあ、単純な好感度稼ぎだからな。将軍として雇うことは決めているので、少しでも乗り気になってほしいというところ。
「せっかく、闘技大会で優勝したんだ。相応の何かを、叶えてやれるぞ」
「それは……。なら、私は立場が欲しい……。明日をも知れない生活は、したくない……」
あまりにも、都合の良い望みが来てしまった。笑いそうになったくらいだ。そんな感情を真顔に隠しつつ、俺はユフィに手を伸ばす。
「なら、俺のもとに来い。将軍の位を、開けている。その価値は、分かるだろう?」
「将軍……。確かに、生活には困らない……」
「どうだ? 受ける気は、あるか? 他の望みも、うまくやれば叶えられるかもしれないぞ?」
「分かった……。私は、あなたに従う……。その代わり、どうか守って……」
命をであり、生活をでもあるのだろう。そっと、ユフィは俺の手を取っていた。なら、期待に応えないとな。俺に従えば良い生活ができると思わせるのも、大事なこと。要は、アメとムチだ。
「ああ、約束させてもらおう。俺は、配下の命を使い捨てるつもりはない」
「今は、信じる……。よろしく、レックス様……」
さて、ユフィがうまく仕えてくれると良いのだが。そんな感情を隠しつつ、俺はユフィの手を握り返した。