物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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576話 レックスの心配

 ユフィを将軍に、ロニアを宰相に任命した。後はジャンとミルラの方針に従って、法治国家としての形を実現することを目指す。

 

 おそらくは、いくらか血が流れるのだろう。だが、避けられることでもなさそうだ。犠牲者が少なくなる道を選ぶとなると、反抗する心を折るのは大事になってくるはずだからな。

 

 少なくとも、いつでもどこでも皇帝の命を狙うような状況だけは潰さなければならない。俺や配下の安全だけでなく、帝国という国が安定するためにも。

 

 強いやつこそがルールとなれば、下の人間はどれだけでも虐げられてしまう。俺のやることは、言わば最悪を避けるための手段だな。決して最善ではないが、少し前よりはマシだ。

 

 まあ、即座に反抗が起きるとは思わない。闘技大会で力を見せつけたのは、皇帝の座を狙うような人々だからな。俺にどう対策するかを考えもせずに俺の命を狙うようなら、普通に警備に潰されて終わりになる。

 

 ということで、ミレアルさえ急に動かなければ当面は落ち着くはずだ。忙しくはなるが、それでも極端な状況にもならないというか。

 

 そうなってくると、ブラック家の様子も気になってくる。ということで、ジャンとミルラがいる時に聞いてみた。

 

「そういえば、ブラック家はどうなっているんだ? ふたりは、分かるか?」

「現状、大きな問題はないようですね。母さんが、うまく仕切ってくれているようです」

 

 モニカは、俺が当主となる前から貴族としての活動をしていたわけだからな。技術面では、十分なものがあるのだろう。かつては、ブラック家の悪事に使われていただけで。

 

 そもそも、風呂を作れるだけのエルフの血を浴びていた原作だって、考え方次第では有能さの証明だからな。少なくとも、それだけの大掛かりなことができるだけの人数を動かせる。ただの凡人には不可能なレベルのとんでもない悪事。

 

 だからこそ、まともな方向に向きさえすれば、しっかりと成果を残してくれる。やはり、仲良くしておいて良かった。美容魔法を作った俺の判断は、結果論としては正しかったようだ。

 

「サラさんやシュテルさん、マリンさんやクリスさんにソニアさんも、大きな役割を果たしています」

 

 この場で名前が出てくるというあたり、おそらく人を指揮するような動きもしているということだろう。サラやシュテルは、情報収集や工作活動を直接する以外を。マリンたちは開発そのもの以外の運営などを。

 

 必ずしも良いとは言えないのだが、今回ばかりは良い方向性だ。プログラマーが人材マネージメントまでするべきか。人員が足りないのなら、せざるを得ないというのが結論になる。

 

 今のブラック家には、そこまで多くの人員がいない。つまり、今のブラック家としては良い方向性だ。まあ、専門分野に専念できる状況を作るのが理想ではあるにしろ。

 

「なるほどな。結果的には、ブラック家にとっては悪くなかったと」

「そうですね。個人としての成長のきっかけになったようです」

「レックス様を頼ることができないということで、独自の裁量で動いているようでございます」

 

 困ったことがあれば、俺の魔法で解決する。そういう状況は、確かに多かった。だからこそ、俺が最後になんとかするという考えがあったのかもしれない。

 

 あんまり邪推をするのも良くないが、理屈としては納得できる話だ。俺が逆の立場なら、きっと心のどこかに甘えが出ていたからな。みんながそうとは限らない。ただ、少しはあるのだろう。

 

「ふむ。甘やかしていたと言うと違うが、近い何かはあったのかもな」

「良くも悪くも、兄さんの力でどうにかしていましたからね。僕たちも含めて、ですけど」

「結果的には、殻を破る機会になった様子。レックス様のお力が、便利すぎたのでしょう」

 

 俺がいない状況で、判断を仰ぐこともできない。そうなってしまえば、個人の責任で決めて動くしかない。結果としては、責任者としての仕事ができるようになったと。

 

 良くも悪くも、俺が多くを決めていたからな。次いで、ジャンとミルラ。みんなが、自分の判断で動くこと。好きにとまでは言えないが、各自の意思で決めること。それが、必要だったようだ。

 

「人を育てるというのも、難しいものだな……」

「そうでございますね。私も、まだまだ学ぶことが多いです」

「立場に応じて、人は成長する。当たり前のことですが、ようやく実感しましたよ」

 

 まあ、当たり前のことではある。経験して初めて分かることは多いからな。実際に手を動かしてみたら、案外うまく進んだということ。

 

 失敗が危険な状況だったとはいえ、失敗を恐れすぎたのが失策だったのかもしれない。鍋をひっくり返すレベルの失敗はまずくとも、食材を切る大きさを間違える程度の失敗は恐れるべきではなかった。そういうことだな。

 

「俺も、とりあえずジャンとミルラに任せすぎたのかもな。もっと、他の人に頼れば……」

「今後の反省にすべきではございますが、後悔すべきでもございません」

「兄さんには、皇帝としての仕事がありますからね。前を見ましょう」

 

 振り返って後悔ばかりしていては、肝心要の未来が潰れる。嘆く時間もないとは、大変なことだ。

 

 まあ、おそらくはミレアルを乗り越えるまでの辛抱だ。それまで耐えれば良いと思えば、めどもつく。踏ん張るべき局面として、踏ん張るだけ。

 

「ああ、そうだな。後ろを振り返っている暇はない。まったく、困ったものだ」

「ひとまず、ブラック家は安定しているようでございます。今は、帝国に集中して問題ないかと」

「といっても、兄さんが最低限こなすべき仕事は終わったんですけどね。即時の対応が必要なだけで」

 

 俺のところに来た意見に、すぐに返事を返すこと。そして、俺の武力が必要な局面に向けて待機しておくこと。だからこそ、あんまり休める時間もない。常に動けるというのが、俺に必要な心構えだ。

 

 まあ、王の宿命だよな。俺の許可が出ないと動かせないことが多すぎるから、俺は常に許可を出す仕事をしないといけない。そして同時に、帝国の皇帝としては武力を示す場も必要と。

 

「俺の力を示して、方針も提示した。後は、その通りに進むのを待てばいいと」

「はい。問題が起こった時に、兄さんが直接潰す。それを徹底すれば、解決するでしょう」

「俺の力は実際に行使されるものだと、示すわけか。本当に、独裁という感じだな……」

「ですが、代替案がございません。レックス様がお嫌いなのは存じておりますが、それでも」

「帝国は、根っこが腐っていますからね。無理矢理に倒してでも、新しい形にしなければいけません」

 

 言っていることは、まあ分かるんだよな。今この世界で民主主義を広めたところで、そもそも民は教育を受けていない。投票する際の判断基準すらない。

 

 つまり、権力を持った人間がやりたい放題する後押しにしかならない。言ってしまえば、敵対する候補者の名前が広まらないように工作するだけで済むのだから。それで、民意を盾に独裁できてしまう。まあ、結果としては俺がやった方がまだマシか。自分でそんなことを考えるのも、嫌になりそうだ。

 

「果断が求められる状況で、周囲の納得を得る時間はないと。悲しいが、事実なのだろうな」

「成果さえ出れば、いくらでも手のひらを返す。それが民というものでございます」

「逆に、目に見える成果がなければ、どんな名君でも罵倒する。そういうものでもあります」

「だったら、好かれることに固執すべきではないと。そうだな。俺は、大切な人にだけ好かれていれば良い」

 

 帝国の民が不幸にならないように、最大限の努力はする。それでも、俺の居場所はブラック家だ。だから、どちらかを選ぶのなら仲間を選ぶ。単純な話。

 

 だが、俺はろくな死に方をしないだろうな。そんな諦観があった。

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