物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

580 / 622
579話 ふたつの国の間で

 皇帝としての仕事として、俺はひたすら書類にサインをしている。話す相手といえば、ジャンとミルラ、モニカ、そしてユフィとロニアくらいのもの。今のところは、これで回っている。

 

 俺に会いたいという相手は、まだモニカやジャンが弾いてくれているみたいだ。いずれは、社交の場にも出なければいけないのだろうが。考えただけで、ため息をつきたくなる。

 

 そして、ミルラから直近における重要な仕事が告げられた。ミーアとリーナが、皇帝の座についた祝いを送りに来るのだという。もちろん、他の話もあるだろう。

 

 ということで、通話をすることになった。事前に話を通しておけるのが、便利なところだな。俺は、すでに決まっている話を人前でするだけでいい。

 

「ミーアもリーナも、近いうちに来るんだな。基本的には、嬉しいが……」

「今となっては、他国の王族だものね。ただの友達として話すのは、難しいわ」

 

 ミーアの言葉が、本当に突き刺さってくる。これまでも、王族と貴族ではあった。だから、ただ友情を楽しむわけにはいかなかった。とはいえ、今回は明らかに立場が変わってしまったからな。

 

 俺は帝国の利益を追求しなければならない立場だし、王女姉妹は言うまでもない。そうなってくると、気軽に話すと面倒なことになるのが目に見えている。いっそふたつの国がひとつにでもなれば、また話は別なのだろうが。

 

 やはり、権力というのは良いことばかりを運んでこない。ただ友人とお茶会をするのも、難しくなってしまう。

 

「通話が使える分には、そこまで困りませんけどね。盗み聞きができない場所で話せばいいので」

 

 リーナの言うことは、せめてもの救いだな。通話なら、友達としての話ができる。面と向かって会えないとはいえ、声は聞けるからな。

 

 やはり、闇魔法を持っていることは大きい。これがなければ、間違いなく今の俺はなかった。

 

「また、面と向かって笑い合えたら良いんだが。まだ、遠そうだな」

「私たちの望みも、同じです。レックスさんは、大切な人ですから」

「そうね。レックス君は恩人で、友達で、ずっと一緒にいたい人。リーナちゃんも、同じなのよ」

「勝手に私の気持ちを決めないでください。まあ、大きく間違ってはいませんけれど」

 

 リーナはとても冷たい声を出している。そっぽを向いているのが、目に見えるようだ。素直じゃないところはあるが、結構表に好意を出してくれるんだよな。なんだかんだで、友情を感じるところ。

 

 ミーアの明るさが目立つが、リーナは口調の割には気配りがしっかりしているというか。表向きツンケンしているだけで、やはり優しい。

 

 そういう友達だからこそ、気軽に話せる関係のために頑張らないとな。帝国と王国がいがみ合う未来は、なんとしても避けなくては。

 

「だからこそ、帝国と王国の関係をしっかりさせないとな。もう二度と争わなくて良いように」

「何もなしで手打ちとはいかないけれど、十分に配慮するつもりよ」

「見栄えの良い大金で済ませましょう。帝国の領土を切り取る気はありませんよ」

 

 領土を切り取った方が見栄えが良い気はするが、帝国としても反発が大きいだろうからな。その辺の判断は、かなり難しいところだ。

 

 まあでも、分かりやすい手段はあるんだよな。帝国から取った賠償を国民に給付金みたいな形でばらまくこと。メディアの発達していない世界でなら、目に見えて恩恵を手に入れたと思えるだろう。

 

 直接金を届けることが難しい場合でも、まあやりようはある。炊き出しなんかが目に見えやすいところか。とにかく、パッと見で利益がある形を演出すればいい。

 

 ミーアとリーナなら、もっと良い手段も思いつくだろう。それなら、確かに大金は見栄えが良いのかもしれないな。

 

 となると、最大の問題は帝国がどれだけ賠償を支払えるのかということだが。

 

「ジャンやミルラと、話はまとめているんだよな?」

「ええ。帝国が潰れてしまっては、私たちも困るもの。レックス君になにかあったら、悔やんでも悔やみきれないわ」

「板挟みというのは、大変だよな。俺も、最近ちょっと分かってきた気がする」

「ええ、とても面倒ですよ。誰もが好き勝手に言うばかりなのは」

「今回も、特に活躍していないのに褒美を求めてくる家があったりね」

 

 ミーアもリーナも、うんざりしていそうな声だ。戦に勝利したら、褒美を求める動きは当然出てくる。その褒美を払いたくなくて処刑した話とか、歴史で聞くよな。源頼朝とか、有名だろうか。

 

 実際のところ、王女姉妹はどこまでやるんだろうな。今となっては、まるっきり反対するのは難しい。少しとはいえ国の運営に関わっていると、どこかで犠牲を許容しないといけないのはよく分かる。

 

 理想としては、すべての民が幸福になること。だが、現実的には予算や人手の都合もある。効果的な振り分けをして、届かないところは諦めるしかない。書類を見ているうちに、実感してきたことだ。

 

 だからこそ、国の運営を妨害する相手を処断するのも、必ずしも悪いことだとは言い切れない。やりすぎれば独裁一直線だが、それでも。

 

 特に、メディアが発展していない時代だと、真実を隠すことも難しくないからな。手段として有用なのは、分かってしまう。

 

 まあ、王国の問題は王女姉妹の考えることだ。帝国の皇帝という立場を得てしまった以上、あまり多くの口出しはできない。

 

「身の程をわきまえないやつは、どこにでもいるんだな……」

「レックスさんも、帝国にいる身の程をわきまえない存在を相手しなくてはいけませんよ」

 

 そうなんだよな。一応、闘技大会を見ていた人間には力を見せつけた。普通なら、反抗しようとは思えないだろう。

 

 ただ、噂話で聞いたくらいの人なら、所詮は噂だと判断しかねない。俺も、手段を考えないとな。

 

「頭が痛くなりそうだ……。王国なんて潰してしまえとか言われるんだろうな……」

「だからこそ、みんなには派手に暴れてもらったのよ。帝国の民が、恐れるくらいにね」

「ああ、簡単には勝てない国だと認識させたかったのか。そこまで考えるものなんだな」

「王族なんてものをやっていると、嫌でも先を読むことになりますよ」

「貴族との関係も、他国との関係も、先手を取る必要があるもの」

 

 実際に戦う前から、戦後に役立つ布石を打つ。負ければ御破算だとはいえ、必要な考えであることは間違いない。どれだけ多くを考えれば、目指すべき領域にたどり着けるのやら。

 

 本当に、頭を抱えたくなる。向いている人がいるのなら、任せたいくらいだ。たぶん、今の帝国なら俺が一番マシなんだが。だから、やるしかない。

 

「俺もそうしないといけないんだよな……。まったく、向いていないぞ……」

「ふふっ。こうして通話ができるなら、私たちに相談できるでしょ?」

「先に言っておきますけれど、レックスさんを誘導して帝国を潰したりはしません」

 

 まあ、多少の利益誘導はあるだろうが。それはどうせ、貴族と王族だった時からだからな。素人の俺としては、経験者に話ができるだけでありがたい。

 

 機密を話すようなこともあるだろうが、そのリスクを差し引いても雑な判断をするよりは良いと思うんだよな。素人が適当に決めるのは、とにかく危険なのだから。

 

「ああ、そこは信じている。今回も、相談みたいになったし」

「次に話すことは、単純よ。レックス君の好きなやり方よね」

「講和を目指しつつ、お互いの発展を目指すということだな」

「はい。とにかく、再戦はしないとお互いに誓いましょう」

 

 まあ、そのあたりが妥協点か。今すぐ仲良くするというのは、お互いの感情が邪魔をする。

 

 俺たちが表向きでも仲良くできる日は、いつ来るのだろうか。少しだけ、嘆きたくなった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。