物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
私の計画通りに、帝国との戦争は勝利へと導くことができた。王女としての役目は、しっかりと果たせたと言っていいでしょう。
そして、私たちの派閥に手柄を立てさせることもできた。結果としては、私たちの反対派に手柄を焦らせて、危険な任務で削り取ることにも成功した。
総合的に、戦果は上々といったところ。王国にとっても帝国にとっても、悪くない未来へ向かうでしょう。
「レックス君が、皇帝になった。ある意味では、釣り合うようになったんだけど……」
裏切り者という声が出ないように、情報操作も意見の封殺も行っているわ。王国の貴族が皇帝になったことで、帝国を支配下に置くことを望む声も出ているけれど。適度に煽りつつ、適度に注目をそらしましょう。
民も貴族も、私とレックス君が結婚することを王国の利益だと考える。それが狙うべき未来よ。王国が覇権を狙うことを望む人たちを、うまく満足させながらね。
敵対派閥は、ほとんどを潰すことができた。少なくとも、表向きに私の邪魔をしようとする存在は。腹に一物を抱えている相手は、まだいるでしょうけれど。
レックス君の持つ力は、とても大きくなった。もともと、戦力としては圧倒的だったけれど。今は、権力まで持ち合わせている。その牙が向かないか、恐れている人も多いのよね。
だからこそ、結婚が手段となりうる。レックス君という強大な存在を、王国の味方として活用できるのだもの。かりそめの希望だとしても、ね。
ただ、帝国や他の国の人間も同じことを考えかねないのよね。レックス君の価値は、そこまで高まっている。
「今度は私が足りなくなった可能性もあるわよね。油断するには、まだ早いわ」
いずれ王になる存在である以上、そう簡単に価値で負けることはないでしょう。レックス君と釣り合うかどうかという点では、少し怪しくなったけれど。
最強の魔法使いで、かなり汎用性が高くて、その上皇帝。王国での名声を操作したことも相まって、英雄なんてものでは足りないかもしれないわ。
だからこそ、結婚まで持っていくことができれば、ほぼ確実に祝福されるでしょう。少なくとも、王国の民には。
逆に、手が届かない可能性も出てきたけれど。歯噛みしそうな気持ちも、少しはあるわ。
「しっかりと王国を安定させて、足場を固める。そこからよね」
王国の民に賛同を得るためにも、帝国を納得させるためにも。私がしっかりと立場を持っていなければ、目標を果たせないもの。
私は、もともと光魔法使いとして祝福を受けて生まれてきた。今は、その貯金で一歩進んでいるだけ。私の真価は、これから問われていくことになるわ。
王国民に、心から慕われる。そんな国主になることができれば、思うがままに進めるの。
「だからこそ、帝国に対する好感度を高めないと」
帝国を、王国の敵としてはいけないわ。今すぐに仲良くするという姿勢を取るのは、難しいけれど。
攻め込まれてすぐに手を取り合うことは、被害者が納得しないでしょう。今回は先手を打って攻めたとはいえ、戦争での犠牲者も、その家族もいるのだから。切り捨てていいほどの少数ではないわ。
けれど、帝国を敵視させ続けるつもりもない。そんなことを、許したりしない。
「あまり反発心を高めてしまったら、結婚には遠ざかるのだもの」
他ならぬ、私のために。王国と帝国は、同盟関係を結ばなければならないわ。今すぐではなくても、そう遠くない未来に。
そのためにするべきことは、しっかりと利益を手に入れること。利益を享受している者が、被害者の感情を無視しようとするだけの。そして、大勢が利益を得ること。被害者が少数派になるほどの。
ちゃんと、道筋を作らないといけないわよね。もちろん、無策ではないわ。
「共同事業なんかをできれば、都合が良いわ」
王国と帝国が協力することで、お互いの国が発展すること。その事実を、大勢が知ること。達成できさえすれば、私の計画は完成する。
もちろん、当てはあるわ。そうなるように、前もって準備をしてきたのだから。
「帝国にあって、王国にないもの。王国にあって、帝国にないもの。どちらも大事よ」
帝国には、圧倒的な武力がある。もちろん、無視できない事実よね。レックス君を抜きにしても、戦士が多い国だもの。そして同時に、軍馬や武器の総数も多い。輸入も含めてだけれど、多いという事実が大事。
王国の武器は、帝国と比べて豊かな大地。多くの食糧生産。そして、動き始めた魔道具。どれも、大きな手札よ。
それらを組み合わせて、事業をおこなう。戦士を輸送に転用することは、ある程度は可能でしょう。傭兵がおこなうような仕事にも、似たようなものがあるのだから。
王国は、食料と魔道具を輸出する。帝国は、武器や軍馬、そして武力を売っていく。そんな形になるでしょうね。
結果として、魔道具が両国の暮らしを豊かにする。それが、王国の利益。私の望む未来につながる道。
王女である私と、皇帝であるレックス君が協力する証でもあるのよ。必ず、実現しないとね。
「レックス君が皇帝になった事実は、民衆を操作するのにも使えるわ」
ここにきて、レックス君の名声を高めた事実が効いてくるわ。王国の危機を止めるために、立ち上がった。そういう事実を広めたおかげで、皇帝になった事実にも納得しやすい物語が作れるもの。
「そう。王国の英雄が、帝国を立派な国に変えるのよ」
王国を守るために、帝国を内側から変えていく。そんな物語を、流していきましょう。大きくは間違っていないもの。レックス君は、私たちのために選んでくれたんだから。
やがて帝国は、レックス君のもとで支配されるでしょう。ミルラさんやジャン君、モニカさんがいる限りね。
だけど、多くの帝国民にとっては悪くないはずよ。レックス君は、民が傷つくことを望まないのだもの。少なくとも表に見える場所では、みんなが幸せな国という形になるでしょう。
その中にどんな犠牲があろうと、関係のない話よね。王国の民は、知る必要すらないわ。
「お互いに利益のある取引というのは、とても大事よね」
レックス君の主義だけれど、本当に役に立つ考えよ。一方的な搾取というものは、長続きしない。少なくとも、大きな力の差がない限りは。
王国には、帝国を下敷きにするほどの力はない。だからこそ、ちゃんと対等な取引をしないとね。
「やっぱり、レックス君と出会えて良かった。今でも、私を支えてくれるんだもの」
リーナちゃんの命を助けてくれてから、ずっと。だから、私はレックス君が大好きなのよ。優しいだけじゃなくて、ちゃんと結果を残せる人だから。
私にとっては、希望そのもの。未来を輝かせてくれる人。そんなの、大切にするに決まっているわよね。
「帝国そのものは、もはや脅威ではないわ。レックス君が皇帝である限り」
他ならぬレックス君が、王国への敵対を許さないでしょう。闇魔法の力があれば、どんな抵抗だって無意味になる。王国に攻め込むことなんて、不可能になるわ。
「むしろ、国内をしっかりと警戒しないとね。特に、民衆を」
帝国に逆侵攻を狙ったり、王家に反乱を企んだり。そんなことをさせないように、しっかりと潰していかなくちゃね。
私にとって必要な民であるのなら、幸せにしてあげるのだけれど。そうじゃないのなら、無為に死んでもらうだけよ。
「やっぱり、敵対する貴族を処分したのは正解だったわね」
ミュスカさんに手伝ってもらったのは、とっても良かったわ。私の手によるものだと、誰も知ることがないんだもの。むしろ、私は被害者としての立場を取ることができる。欲望に溺れた愚かな貴族に、邪魔されただけだって。
帝国だって、良い悪者になってくれたわ。私が選んだことで死んだわけじゃないんだもの。
「手柄で誘惑して死地に送るのは、そう何度も使える手ではないけれど」
同じことを繰り返すためには、敵を用意し続ける必要があるわ。無意味そのものよね。いつまでも戦い続けてばかりでは、国は弱まる。レックス君と落ち着いて結婚することもできない。
だから、平和は大切にしないと、ね。私が生きている限り、ずっと続かせてみせるわ。
「ホワイト家とも連携して、盤石の支配体制を築きましょう」
闇魔法を運用して、内部の反逆者を事前に知る。有効なのは、当たり前よね。ルースちゃんも、見事な運用を考えたものよ。
「監視というのは、とても便利よね。良い仕組みを作ってくれたものだわ」
私とレックス君が結婚する未来を、絶対に作ってみせるから。
待っていてね、レックス君。