物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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581話 皇帝としての役割

 帝国に、王女姉妹がやってくることになった。迎え入れるための式典を、行っていくことになる。といっても、あまり多くを話したりしないが。裏ならともかく、表ではそれっぽいことを言うだけ。

 

 もう完全に台本は決まっているし、その通りに進行していく。ミルラとジャンが用意してくれたので、ただ暗記して読み上げる。

 

 お互いに何人かを引き連れて向かい合い、それぞれに軽く礼をする。まずは、俺から話し始めた。

 

「ようこそ。歓迎するよ、王国の王女たち」

「ありがとうございます。あなたが皇帝になった未来に、期待させてください」

「皇帝レックス。あなたの治世が、良きものであることを願います」

 

 俺の言葉に、ミーアとリーナが返してくる。俺はタメ口に近くて王女姉妹が敬語なのは、予定通りだ。本人に相談した上で、そうなった。

 

 なんとなく、上下関係みたいなものができる気がするんだが。そんな疑問もあったのだが、帝国内でのパフォーマンスという形らしい。どうせ、王国の民には届かないからと。

 

 確かに、真実を知るものは多くない。この場にいるのは、俺の知り合いが中心だし。とはいえ、周囲に触れ回る人間がいてもおかしくはないのだが。特に、帝国の人間は。

 

 まあ、王女姉妹が納得しているのなら、相応の理由があるのだろう。俺には分からない何かが。ひとまず、納得しておこう。

 

 台本通りに俺は頷いて、まっすぐに宣言していく。

 

「もちろんだ。俺は、そして帝国は、力の正しい使い方を見つけてみせる」

「あなたが素晴らしい皇帝となるのであれば、王国と帝国は良き隣人となれるでしょう」

 

 一応、表向きは敬語というだけで本心では従っていないみたいなアピールなのだろうか。それとも、俺に期待しているというメッセージを出しているのだろうか。

 

 細かいことは、どうしても分からない。俺の足りなさを実感するが、いま考えたところでという話か。

 

 まあ、今回は予定通りに進めるだけだ。アドリブなんてすれば、間違いなく失敗する。

 

「そうなってみせようとも。少なくとも、民に犠牲を強制する皇帝にはならない」

「あなたを、信じます。帝国と王国に、最高の未来があらんことを」

 

 そんな会話をして、ひとまず式典は終わった。まあ、そんな長時間も行うほどの関係ではないのだろう。王国と帝国は、戦争をしたばかりなのだから。

 

 王女姉妹は用意した部屋に泊まるとのことなので、もてなしてもらっている。俺から会いに行くのも難しいので、とりあえずは俺の仕事に移る。

 

 今は、皇帝の部屋でユフィとロニアに話を聞いているところ。国民の感覚を確かめる上で、大事な仕事だ。

 

 式典にも参加してもらっていたので、どういう感想かを知りたい。それが、今後につながるはず。

 

「とりあえず、大きな問題が起きなくて良かった。ユフィとロニアは、どう思った?」

「安全に過ごせるのなら、それが一番です……。レックス様が、そうしてくださるのなら……」

「ま、戦いなんてだりーもん。面倒なことなんて、無いのが一番でしょ」

 

 ふたりとも、望みは似たものという感じだ。それで闘技大会に出るのだから、よほど帝国の現状に不満があったのだろう。

 

 前皇帝は、味方を平気で使い潰すような存在だった。王国にも攻め込もうとしていた。まあ、ろくな存在じゃなかった。

 

 だからこそ、俺の動きが大事になってくる。帝国は、変わる必要がある。

 

「なるほど。もちろん、俺も努力しよう。だが、お前たちの働きも大事になる」

「分かっています……。ただ待っているだけでは、平和は訪れませんから……」

「それをだりーって言ってたら、もっと面倒なことになるし。仕方ないよね」

 

 ふたりの言葉には、実感がこもっている。実際に、皇帝に振り回されていた民ならではの視点だな。だからこそ、自分が皇帝になってでもと考えていたのかもしれない。本心を話してもらうには、まだ時間が必要だが。

 

 少なくとも、俺が前皇帝を討たなければ戦争は終わらなかった。それは、みんな分かっていたみたいだ。

 

「王国だって、勝てなければ倒れていただろうからな。帝国も、外敵に襲われる可能性はある」

「前皇帝は横暴でしたから、恨まれていそうですね……」

「ほんと、うっとーしい感じだったよ。正直、仕えたくはなかったねー」

 

 死んでからも、厄介なものを残してくれた。帝国の評判が悪いとなると、今が弱ったタイミングだと判断されかねない。

 

 ミレアルの狙いにも寄るが、また戦争が起こってもおかしくはないよな。加護によって力を与える対象は、おそらく誰でも良いのだろうし。

 

 少なくとも、まだ直接出てくる段階ではない。それだけは、救いではあるか。本気でミレアルが気まぐれだというのなら、完全に安心はできないにしろ。真っ当に手順を踏むタイプなら、次の段階があるはずだ。

 

「まずは、帝国の信頼を取り戻すところから始めないとな。国民の反発も、防ぎつつ」

「分かりました……。レックス様とは、話が合いそうです……」

「悪くないんじゃなーい? あたしも、嫌なことは嫌って言うし」

 

 今のところは、賛同してもらえているようだ。本人たちにも、何らかの狙いはあるのだろうが。ユフィは安全を、ロニアは面倒くさくないことを望んでいるように見える。

 

 つまり、俺が戦争をするようなら敵になるかもしれない。気をつけておいて、損はない。まあ、俺だって戦争は嫌だから、最後の手段にするつもりではあるが。

 

「そうだな。部下の意見を完全に無視するほど狭量ではないつもりだ」

「無視すべきだと思ったら、無視するということですね……」

 

 少しだけ不安そうに、ユフィは俺のことを見ている。今の言葉には、言われた通りの裏はあるからな。正しい警戒だ。

 

 とはいえ、できる限り聞こうとは思っている。帝国の価値観を知る存在として、大事な意見になるはずなのだから。

 

「まあ、今すぐ給料を10倍にしろとか言われてもな。限度や方向性というものはある」

「給料10倍、かなりいーんだけど。残念だなー」

 

 ロニアは脚をブラブラさせている。本当に残念そうで、笑いそうになってしまう。まあ、給料10倍は魅力的だよな。分かる。

 

 とはいえ、さすがにどうにもならない。可能性はなくはないが、かなり低い。

 

「無い袖は振れないからな。帝国が発展すれば、可能かもしれないが」

「つまり、努力しろということですね……。納得です……」

「だりーけど、何もしないのもダメだってことくらい分かるしー。やるかー」

 

 やる気になってくれたのなら、何よりだ。とりあえず、帝国が良い方向に進んでいけば。ユフィとロニアの仕事も、とても大事になる。

 

 もちろん、俺の責任が一番大きいのだが。なんで、皇帝になんてなる羽目になったのだろうか。他に任せられそうな人が思いつかないから、やるしかないとはいえ。

 

「お前たちには、期待している。さっきの王女たちじゃないけどな」

「分かりました……。頑張らせていただきます……」

「まー、ほどほどにねー。あたしも、適度に頑張りまーす」

 

 ひとまず、ユフィとロニアとは良い感じに話せたと思う。そんなこんなで、俺は残りの仕事であるサインを終わらせていった。

 

 夜になって、俺は少しだけ風を浴びようとする。バルコニーに向かうと、すでに先客がいた。リーナだ。

 

「レックスさん。今夜は、良い夜ですね。月が、とても輝いています」

「そうだな。お前と見られて、嬉しいよ」

「せっかくですから、話でもしましょうか。どうですか?」

 

 そう言って、そっとはにかむ。なにか、楽しい話でもできるのかもしれない。そんな気がした。

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