物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
私は、レックスさんを皇帝にするために、その先の未来で結ばれるために、あらゆる手段を取り続けていました。
王国に隙を作ることも、帝国に私の配下を潜り込ませることも、経済的に追い詰める計画も、他にも思いつくことすべてを。
ただ、そんな計画とは関係なく、帝国は王国に狙いを定めたようでした。皇帝が、鶴の一声で。王国を討ち滅ぼして、さらなる栄華を得るのだと。そんな情報が、当たり前のように私のもとに届く。
もはや、帝国の地盤は緩みきっていました。独裁と呼ぶには支配が足りず、だからといって帝国を変えようとするものも現れない。いずれ沈みゆく運命だと、見る目のあるものには分かる有様。
レックスさんが皇帝になれば、帝国は変わるでしょう。それは、おそらく歓迎されるでしょうね。なにせ、力を信奉するものには夢を見せきれず、だからといって弱者に救いがあるわけでもない。あまりにも中途半端な、くだらない状況でしたから。
「帝国というのは、思っていた以上に単純でしたね」
本当に、力こそ全てという価値観に飲み込まれているだけの国。情報操作として夢を与えているというわけでもない、自家中毒を起こしているだけの存在。
当然と言えば、当然なのでしょうね。皇帝は、実際に代替わりしてきた。特段教育を受けたわけでもない、ただ強いだけの存在が上に立つ。それで、まともに国を支配できるはずもないんです。
結局のところ、力は反抗を潰す上では役立ちます。ですが、国を発展させる上での役割は限定的。せいぜい、国が積み重ねた努力を奪われないようにするためのもの。無論、重要な役割ではありますが。
ただ、力は何も生み出さない。食料も、便利な道具も、娯楽も、何も。だから、力こそ全てという国の定めなど、最初から決まっていたのですよ。いずれ行き詰まる。それが、今だったというだけ。
どの道、帝国の定めは決まっていたということ。皇帝の末路も、同じこと。単純な話です。
「こうも簡単に、皇帝の心理を操作できるとは」
自分こそ世界のすべて。疑いなく、そう信じているのでしょう。たかが
私には、どこまでも上がいた。周囲の無理解には苦しんでいましたが、姉さんやレックスさんのような存在がそばにいたことは幸運だったのでしょう。慢心とは無縁でいられますから。
上には上がいる。それが分かるだけで、慎重に動けるのです。努力を重ねられるのです。皇帝とは違って、ね。
「もはや、何も考えずに動いているとすら思えてきますよ」
本当に何も考えていないのなら、ある意味では面白いですね。そんなバカが敵だと、何をするか分からなくて怖いですけれど。最低限の道理もなく動くようなら、わけの分からない行動をされかねません。
基本的には、防衛すべき場面での突撃あたりに気をつけるべきなのでしょうか。想定外のバカというのは、本来取るべき手順を捨てるから厄介なんですよね。
やはり、先制攻撃すべき。その結論は、揺るぎませんね。自国の領土を消耗させるような戦いを避ける以外にも、理由ができました。
帝国にとっては、良い機会なんじゃないですか? 力の差が、分かるのですから。
「力こそすべてであるのならば、弱いものからはどれだけ奪っても良い」
そんな理屈をもとにして、帝国は、そして皇帝は動いています。王国を弱きものとみなして、奪おうとしているということ。
勝てるのならば、都合の良い理屈ですよね。自分が強者の立場である限り、どれほどでも自由にできるのですから。
ただし、負ければすべてを失う。帝国の民も、皇帝も、おそらくは理解できていないのでしょう。
「ふふっ。レックスさんに負けるのならば、すべて奪われても良いということですよね?」
力こそすべてとは、そういうことです。地位も名誉も、そして命も。皇帝の持つすべては、奪われてしかるべきもの。だって、今の私より弱いんですから。レックスさんに、勝てるはずがありません。
でも、そんなことを想像すらしていない。違うのならば、王国に攻め入ろうとなんてできないですよ。レックスさんの力は、もう何度も振るわれている。本来ならば、他国に隠せるほどの活躍じゃない。だというのに、気にもしないんですから。
「どれだけ自信があるのか。うぬぼれにしても、度が過ぎています」
なにかしら、自信の根拠があるのかもしれないですけれど。遺物かなにかでも手に入れて、力を増したとか。ただ、仮にそんな物があったところでという話です。レックスさんを超えるほどの力を持てるというのなら、周囲に伝わるに決まっているんですから。
そして、帝国の情報はまるで隠されていない。だからこそ、余計に皇帝の自信を感じるところではありますが。新たに得た力を、隠しでもしているのでしょうか。だとしても、致命的な問題ではない。
「皇帝が多少の力を得た程度では、私にすら勝てないでしょうけれど」
「その程度の力で皇帝になれるのですから、生ぬるい国です」
力こそすべてと言いながら、所詮は弱者がうぬぼれるだけの国。アリを何匹潰せるかとか、自慢にならないんですよ。そんなことで競い合っているから、知るべき脅威を見ることすらできない。帝国は、レックスさんに潰されるんです。
私たちは、お互いに高め合っている。超えるべき壁を何度も超えて、それでも勝てない相手たちと。生きている世界が違うんですよ。
「本当の強さを、誰も知らない。だから、自分の力を信じられるのでしょう」
レックスさんの存在を知っていて、自分を強者だなんて思えやしません。私たちは、何度も救われているんですから。
だからこそ、皇帝との差は浮き彫りになる。力を私欲のために使う存在と、誰かを守るために使う存在とで。
うぬぼれているだけで、本当は井の中の蛙。私なら、生きていることが恥ずかしくなりますよ。
「いっそ哀れではありますが、都合が良いですね」
王国の敵は、レックスさんの敵。そう思ってくれる人だから、皇帝を打ち破るために戦ってくれるんです。
そして、レックスさんは皇帝になる。私の計画した通りの未来がやってくるんですよ。
「私の計画のために、皇帝たちには死んでいただきましょう」
どうせ、帝国にとっても王国にとっても害悪なんです。私の役に立てるだけ、良い死に方というものですよね。
私も、慈悲深いものです。ただの愚か者に、悪役という立場を与えてあげるんですから。
「もう少し。もう少しなんです。私はもうすぐ、手が届く」
レックスさんと結ばれる未来は、ほんの少しだけ先にある。状況さえ整えてしまえば、断ることなどできないでしょう。レックスさんは、責任感が強いですからね。立場上必要で、私を悲しませることも避けられる。そのふたつが揃っていて、私を拒絶できやしない。
だから、レックスさんには皇帝になってもらいます。きっと、望まないのでしょうけれど。それでも、私はあなたと結ばれたい。だから、許してくださいね。
「民衆に私の配下を潜ませるのも、簡単でしたからね」
帝国なんて、あらゆる意味で軽い国。私の計画に使い潰される程度で、ちょうど良いんです。他国を軽んじてばかりで、恨まれている。だからこそ、帝国を打ち破れば、むしろ感謝すらされるでしょうね。
私は、力を使った先まで考えていますよ。転じて皇帝は私欲に走るだけ。これが、器の差というものです。
「後は、レックスさんが皇帝になるのを待つばかり。楽しみですね」
順調に進んでいるんですから、祝杯でもあげたい気分ですよ。もちろん、まだ油断はしませんけれど。ちゃんと皇帝を殺して、帝国を安定させてからですね。
おそらくは、私が出ることはないでしょうけれど。王族というのは、後ろで構えているものですから。戦う時点で、最後の局面なんです。
ただ、私が戦うことになるのならば。レックスさんのために、すべての力を尽くしましょう。
「どれほどの敵がいようと、叩き潰すまでです。力でも、政治でも」
皇帝が何をしようと、関係ない。私は、ただねじ伏せるだけ。どんな手段を使おうと、成し遂げてみせます。
私の望む未来のために、皇帝には生贄になってもらいます。帝国は、皇帝になったレックスさんの慈悲にすがれば良いでしょう。私も、きっと手伝うのでしょうね。
「武者修行と言い張るだけで、帝国には入ることができる」
それだけ、民の管理が甘いということ。だから、いくらでも情報を操作することができた。皇帝に伝わるものも、民の望みに関わることも。
他の国が相手ならば、通じない手だったでしょうね。だからこそ、帝国の甘さが浮き彫りになる。
「そして、レックスさんを望む人たちの声が広がっていくんです」
レックスさんを皇帝にしたい民は、とてもたくさんいるんですよ。私が、送り込みました。周囲との関係も、深めさせました。
そう。一度流れさえ作ってしまえば、後は早いものです。レックスさんが皇帝になる未来は、決まっているんですよ。
「楽しみですね、レックスさん」
あなたと結ばれることができたのなら、どれだけだって尽くしますからね。