物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
私の計画を動かす中で、帝国に向けて先制攻撃することになりました。予定通りに、相手から宣戦布告をしてくれましたからね。こちらの工作がうまく行った結果ですけれど。
そして、私たちはレックスさんの転移を活用して敵将を討っていきました。正確には、私の仲間たちはですけれど。王族である私と姉さんは、指揮に注力していましたからね。
敵国での工作と分断。レックスさんを皇帝にするための根回し。反戦感情のばら撒き。いろいろなことをしていましたよ。
そんな中で、フィリスからある報告を受けることになります。とても厄介な事実でした。
「まさか、女神ミレアルが出てくるとは……」
フィリスのことですから、無根拠に報告はしないでしょう。レックスさんに対する心配も見えましたし、相当警戒していたということ。
確かな事実として、私の調査より帝国の将が強いということがありました。もちろん、情報操作を受けた可能性はあります。ただ、それにしては帝国の内情が筒抜けだったんですよね。本命の情報だけを誤魔化していたにしては、どうにも精度が甘い。
それに、ミレアルの存在を前提に調査しだしてからは、すぐに情報が集まってきました。どんなタイミングで強くなっていたのか、誰の様子が変わっていたのか、いろいろなことが。
つまり、皇帝そのものが情報工作をしていた可能性は低い。あるとすれば、ミレアルが意図的に開示したということでしょうか。事前に隠しておいて、隠す必要がなくなった段階で明かすように。
他の情報も調べてみると、皇帝は急に言動が変わったようなんですよね。人格が変化したと言うよりは、他者を見下すような行動が増えたという。これまで敬意を払っていた相手に、ただの弱者に向けるものと同じ目を向けていたそう。
つまり、実力が急に高まったという裏付けになるんです。あるいは、ミレアルに人格操作されていたか。
どちらにせよ、第三者の干渉はほぼ確定していました。それがミレアルかは、完全に確信を持てなかったにしても。
「情報の確度は、相当高いですね。まったく、困ったものです」
ため息をつきたい気分ではありましたけれど、必ずしも悪いことばかりではありません。皇帝はさらに嫌われていたので、レックスさんを歓迎する土台は整っていた。
そして、強化されたといっても限度が見えていること。レックスさんに勝てるほどの力は与えられていない。調査の結果、分かったことです。
ですから、私の予定は大幅に狂ったりはしませんでした。レックスさんが皇帝を打ち破り、新たな皇帝となる。その未来は、待っていると思えましたから。
ミレアルが何を考えているか次第では、土台からひっくり返されかねない。そんな懸念も、ありましたけれど。
「ただ、なんとなく分かるんです。ミレアルは、レックスさんを殺したいわけじゃない」
魔力を通してと言えば良いのでしょうか。ミレアルの感情が、どこか伝わってくるような気がしたんです。レックスさんに好意的な気持ちが。
そう。私の感覚が正しいのならば、ミレアルはレックスさんを愛でたいだけ。愛し子として、どこまでも見守りたいだけだったんです。なんとなく、共感できる気もしました。レックスさんが戦っている姿は、確かに素敵でしたから。
同時に、私に感情が伝わってくることを利用できないかも考えました。例えば、逆にこちらの考えを送りつけるとか。もっと私に感情が届くようにして、共謀できないかとか。
ミレアルに念じるような心地でいると、レックスさんへの強い感情が届いてきたんです。つまり、私は正解に近いところを選べているということ。つい、笑みが浮かんでしまいましたね。
「それなら、利用できる部分もあるかもしれませんね」
念の為に、私の感覚が正しいのかどうかの検証も行う必要がありました。白羽の矢が立ったのは、ミュスカさんです。邪神と関係が深いという疑惑が、高まっていますからね。ミレアルについても、詳しい可能性が高かったんです。
話をすると、私の仮説について採点をしてくれました。おおよそ当たっているとのこと。つまり、ミレアルの感情は本当に伝わってきているということ。
レックスさんをこの世界に連れてきたのが、ミレアル本人。そうだとすると、とても感謝しないといけません。
とにかく、ミレアルはレックスさんを愛でたいだけ。その感覚は、正しいと太鼓判を押されました。
「ミュスカさんとも、見解が一致しましたか。さて、どうしましょうか」
舵取りが難しいところではあります。ミレアルは、レックスさんを傷つけようとはしていない。伝わる限りだと、レックスさんの周囲を排除しようともしていない様子。
つまり、かなりの部分で協力できそうな相手だということです。私は、レックスさんと結婚する未来がほしい。ミレアルは、レックスさんが輝く姿を見たい。それを同時に叶えられるのならば、手を取り合えるはずなんですから。
「レックスさんに試練を与えること。それが望みだというのなら……」
おそらくは、もっと強い敵と戦うことになるのでしょう。あるいは、女神を信奉するものを尖兵として送り込んでくるのかもしれません。私たちの力を合わせた総力戦になる可能性は、高いですね。
最終的には、ミレアル本人が戦う。そんな気もします。ただ、殺してはいけない。女神の存在は、この世界にとって重要な鍵なんですから。下手をしたら、世界そのものが消えて無くなる可能性すらあります。
ただ、ミレアルだって死にたくなんて無いでしょう。そして、レックスさんを犠牲にしたいわけでもない。それなら、十分です。策を練ることはできます。
「私たちの方で、適切に情報を与える。そうすれば、誘導できるかもしれません」
レックスさんに注目しているというのなら、私たちから情報を集めるのは当然のことでしょう。ミレアルの力がどの程度か次第ではありますが、直接見られていてもおかしくありません。
もしかしたら、邪神のように魔力を通して人に干渉することができるのかもしれませんね。だとすると、ミレアルの考えが伝わってくる気がするのは……。
まあ、考えても仕方ありません。ミレアルと私の関係がどうであれ、私のするべきことは変わりませんから。
「次の舞台は、どこでしょうか。おそらく、リブラ教国は最後でしょう。女神教の総本山なんですから」
私が女神の立場なら、自分を最後の試練とするでしょう。その前に段階を踏ませることになるはず。帝国に続いて脅威になりそうな存在、他にある。
といっても、何の関係もない敵を用意するというのも違うでしょう。レックスさんに関わるところで、何らかの試練をぶつける。そうなってくると、選択肢は絞られてきますね。
「エルフのサジタリウス聖国か、あるいは獣人のアリエス連邦か。どちらかでしょうね」
エルフにも獣人にも、レックスさんは因果を持っている。そこから、問題をぶつけていくのでしょう。どう乗り越えるかを、楽しみにしながら。こう言ってはなんですが、ミレアルも邪神という名にふさわしい神かもしれませんね。
おそらくは、レックスさんの人生を徹頭徹尾もてあそんでいる。人を慈しむ神のすることではありません。私に被害が出ないのなら、どうでもいいんですけどね。レックスさんと私が幸せになれるのであれば。
そして、ミレアルはレックスさんを観察し続けるのでしょう。その命が尽きるまで。あるいは、魂すらも奪って。それとも、命を引き伸ばしでもするのでしょうか。
いずれにせよ、レックスさんの乗り越えるべき試練には、私も協力しないといけませんね。絆を深めるための、良い機会です。
「都合の良いことでもあります。フィリスもエリナも、それぞれの国に大きな知名度がありますから」
つまり、王国が他国に干渉するだけの理由を作れるということでもあります。逆に、相手国が王国に難癖をつけるための理由にもなります。
そうなると、なんとなく見えてきた気がしますね。おそらく、ミレアルが次に出す試練の形は決まっている。
「ああ、そういえばフィリスは……。アクエリアスは、確か古い王族の姓でしたね」
サジタリウス聖国は、正当な王家から王座を奪い取ったと言われていたのでしたか。復権運動が起こっているというのは、聞いたことがあります。
そして、フィリスを王国が抱えている。舞台を動かすには、ちょうど良いでしょう。
「でしたら、次はエルフを扇動するのでしょうか。魔法を強化することもできるんですから」
ミレアルは、おそらく魔力に干渉することができる。邪神が闇の魔力を通して誰かに干渉していたように。
あるいは、邪神のように新しく力を与えることもできるのでしょうか。そうだとすると、獣人にも大きな動きを起こせますけれど。アリエス連邦は、乱れるでしょうね。
「ある程度は、見えてきた気がしますね」
レックスさんに訪れる試練は、おそらくフィリスとエリナを通してなのでしょう。彼女たちを守り抜くために、レックスさんは戦う。ミレアルの思惑通りに。
そして、それらを乗り越えた先で、いずれ女神と対峙するのでしょう。最後の試練として。それすら打ち破ったのならば、おそらく。
「レックスさんは、最終的に女神に祝福される」
感覚として、正しいと分かる気がします。ミレアルの干渉は、私にも届いているのでしょう。そして同時に、私も共犯者になるのでしょう。
ミレアルの試練を超えた先で、女神の祝福が与えられる。とてもいい考えが、思い浮かびましたね。
「なら、私たちの結婚も祝福してもらいましょう。良い情報を、手に入れられました」
女神が私たちの結婚を祝福するのならば、誰にも文句はつけられないでしょう。そうなった未来が、楽しみですね。
私たちで、幸せになれるんですよ。レックスさん、待っていてくださいね。