物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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586話 エルフの動き

 フィリスは、大事な話を聞かせるためにこちらにやってくるらしい。ひとまず、自室を空けて迎え入れるだけの準備をする。

 その瞬間に、飛んできた。転移について、完全に使いこなしているようだ。

 

 ひとまず、顔を見られたのは安心したい。ただ、しかめっ面をしているのは分かる。さて、しっかり話を聞かないとな。俺は姿勢を正した。

 

「フィリス、いったいどうしたんだ? 何があった?」

「……勧誘。サジタリウス聖国に来ないかと誘われた」

 

 少し、心臓が跳ねた気がした。フィリスが遠くに行ってしまうとなれば、寂しいどころの話じゃない。

 

 どれだけ、俺がフィリスに人生の指針を示してもらっているか。依存すらしているかもしれないと、自覚できた。

 

 まあ、今は俺の感情に向き合うべき状況じゃない。しっかりと、どうなっているかを確認しないと。冷静に対処できなければ、間違いなく良くないことになる。

 

「確か、エルフの国だったよな。だから、フィリスの故郷だと?」

「……類似。私を、サジタリウス聖国の王にしたいらしい」

 

 フィリスは淡々と語っているが、かなりの大問題じゃないだろうか。誘った人個人レベルで動いているのか、それとも集団なのか。

 

 仮にフィリスが受けないとしても、彼女を危険視されかねない。王位を奪おうとする敵と認識されたら、大変だ。

 

 とはいえ、まずは確認からだ。勢いだけで動けば、失敗する。適切な対処をするためにも、正しい情報を知らなくては。少なくとも、フィリスの意思から確認したい。

 

「確かにフィリスは最強のエルフだが、今更の話じゃないか?」

「……同意。そもそも、私にそのつもりはない。レックスの師として、これからも関わるだけ」

 

 優しい目で見られている。俺は、まずほっと息を吐く。ひとまず、フィリスが俺から離れていこうとしているわけではないみたいだ。

 

 だが、気になることも増えたな。それも確認しなくては。

 

「それでも俺に話を通してきたということは、断って済む話じゃないということか?」

「……正解。サジタリウス聖国の中で、大きな動きがあるらしい」

 

 確実に、面倒なことになるやつだ。フィリスを王様にしようとする動きが、ある程度形になっているということ。

 

 サジタリウス聖国の内部で起こっている問題では済まない気がする。極端な話、過激派がフィリスを奪いにきかねないし、もっと言えば現王派閥がフィリスを排除しようとする可能性もある。

 

 とにかく、良くない状況だ。フィリスの意思と関係のないところで、大きな陰謀が動いているのだから。

 

「なるほどな。フィリスの意思を無視するというのなら、俺にとっても他人事じゃない」

「……疑問。私が乗り気だったら、受け入れていた?」

 

 フィリスは、俺をまっすぐに見ている。心から納得して別れを受け入れていたとは、思えない。さっきだって、胸が跳ねたくらいなのだから。

 

 だが、フィリスの望みを無視することができたかは怪しい。俺のエゴのためにフィリスの人生を邪魔して、それで良いとは思えない。

 

 今は答えがハッキリしているから、いくらでもフィリスの力になれる。それが、とても嬉しいんだ。

 

 俺にできるのは、素直な気持ちを伝えることだけ。飾らずに、本心を。きっと、フィリスと俺の関係なら一番いい答えのはず。

 

「寂しいとは思ったはずだ。断りたいとも思う。実際どうしたかは、分からないな」

「……納得。レックスらしい答え。もう、私の意思は決まっている」

 

 フィリスはしっかりと頷いた。強い意志を秘めた目が見える。サジタリウス聖国からの提案を受けることはない。きっと、どんな障害が待っていたとしても。

 

 なら、俺も応えるだけだ。それだけの、単純な話。帝国や王国については、考えないといけないが。やるかやらないかではなく、どうやるかを決めるだけ。

 

 おそらく、あまり多くの戦力は出せないだろうな。ユフィやロニアは、帝国の守りとして必要だ。その配下だって、しっかりと仕事をしてもらわないと。

 

 総合的には、帝国の戦力には期待できないと思って良い。王国はどうなのかと言えば、ミーアとリーナ次第ではある。だが、何度も戦って疲弊していることもある。そう簡単に、頼ることはできない。

 

 まあ、まずは相談してからだ。勝手に動くのが、一番良くないのだから。

 

「そうか。フィリスが今後も俺の師でいてくれるのなら、それが一番だよな」

「……歓喜。こうして求められるのは、とても嬉しい」

 

 フィリスは薄く微笑んでいる。お互いに一緒にいることを望むのだから、離れ離れになんてなってたまるものか。絶対に、俺たちの未来を守り通してみせる。

 

「それは何よりだ。しかし、なぜこの状況で……」

「……仮説。私が、かつてアクエリアス聖国と呼ばれていた国の末裔だから」

 

 そういえば、そんな設定もあったな。フィリス・アクエリアス。王族の血統で、だからこそ大きな才能を持って生まれたのだとか。ある意味、ミーアやリーナと同じだな。

 

 ただ、もう滅んだ国の話だったはず。そんな話を持ち出すのは、歴史を見ればある話ではあるが。王族の親戚だとか言って新しい国を興したり反乱を起こしたり。

 

「確か、今はないんだったか。正当性は、あるのかないのか」

「……論外。アクエリアス聖国は、ずっと昔に滅びた。それこそ、今更の話」

 

 うんざりした様子で、首を振っている。それだけでも、フィリスの気持ちは明らかだ。だったら、王の座になんて就かせられない。俺だって、かなり大変な思いをしているのだから。そもそも、かつて滅んだ国という話だ。王族の責任も何も無い。

 

「そもそも、フィリスが望まないんだからな。根本的に、正当性なんてなかったな」

「……同感。都合よく私を担ぎ上げようとしているだけ。評価に値しない」

「手厳しいことだ。だが、困ったな。サジタリウス聖国は、どう動くのやら」

「……推測。おそらく、ミレアルが関わっている。エルフと考えても、魔力が多かった」

 

 深刻そうな顔で告げられた。なるほど。今度はサジタリウス聖国のエルフに力を与えていると。まさか、フィリスを餌にして俺を狙っているのだろうか。自意識過剰だろうか。

 

 いずれにせよ、ミレアルは俺を戦わせたいらしい。どんな狙いがあるにしても、フィリスが困るのだから。

 

 エルフが力を得たということは、その力を使う可能性も高い。気をつけなくてはならないだろう。

 

「なるほどな……。となると、攻撃的な動きに出てきてもおかしくないな……」

「……肯定。特にレックスは、狙われかねない。私との関係は、知られているから」

 

 フィリスが断ったことを逆恨みしたエルフが、俺を攻撃する。ありそうな話だ。そうなったのならば、遠慮なく戦うだけではあるが。

 

 とはいえ、帝国や王国を巻き込みたくもない。最悪、テロみたいな行動に出られかねないからな。今のところは、慎重に動きたい。

 

「師匠であることを隠したことは、ただの一度もないからな。裏目に出たか?」

「……微妙。どの道、レプラコーン王国を攻撃していたかもしれない」

「ああ、ありそうな話だな。前皇帝みたいな行動をしかねないか」

「……対策。相手がどう動くかを、しっかりと確かめなければ」

 

 とにかく、情報ということだな。俺も同意見だ。ジャンやミルラ、ミーアたちとも協力すべきか。

 

 サジタリウス聖国に対して、ある程度は後手に回るかもしれない。だからこそ、備えはしっかりとしておこう。

 

「そうだな。最悪の場合、またこちらから攻め込む必要があるだろう」

「……課題。サジタリウス聖国は、森に囲まれている。地の利は、向こうにある」

「その辺も含めて、一度相談したいところだな。さて、誰からにしようか」

 

 まずは、ジャンとミルラだろうか。どういう手順で連絡をするかも含めて、話をしておこう。

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