物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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588話 できる範囲のこと

 サジタリウス聖国の件に関しては、かなりの緊急事態だとは思う。実際になにか大きな行動ができるかはともかくとして、今すぐ対策を考え始めなければならないレベル。

 

 ということで、転移を活用して実際に王女姉妹と会いに行く。お互いの顔を見ながら直接情報交換できるのは、とても大切なことのはずだ。

 

 さっそく情報を伝えたのだが、ふたりは難しい顔をしている。まあ、当然だよな。ミーアはちょっとためらうように視線を揺らした後、こちらを見て話し始める。

 

「私たちにも、今回の支援は難しいわ。直接戦う理由も、まだ弱いもの」

「フィリスは私たちにとっても英雄ではありますが、だからこそ扱いが難しいんですよね……」

 

 ふたりの意見は、分かる話ではある。サジタリウス聖国は、領土として切り取ることも難しい場所だからな。かなりの森林地帯だから、人間が入植するには相当な開拓が必要だ。王国としての利益は、あまり見込めない。

 

 そして同時に、現状ではフィリス個人の問題に近いからな。戦争が起こるかもしれないというのは俺の見立てであって、周囲を十分に説得できるだけの証拠は出せない。

 

 フィリス派が王国内で動きでもすれば、話は別なのだろうが。今のところは、フィリスの言葉しか材料がない。国を動かす立場としては、周囲の説得ができないということ。

 

「なまじっか名声があるがゆえに、王になるという未来にも現実味が出るだろうからな」

「本人には、その意思はないんでしょうけれどね。周りは、そう見ません」

 

 額を抑えてため息をついている。まあ、本人の意志なんて誰から見ても分かるからな。王様なんて、絶対にガラじゃない。

 

 それでも、王という立場は普通の人から見れば魅力的ではある。だから、チャンスがあれば狙うと見る周囲も多いのだろう。まったく、困ったものだ。団結して脅威に当たれば、大きな問題にならずに済む可能性も高まるのだが。

 

「サジタリウス聖国も、面倒なことをしてくれたものだ」

「本格的に聖国が攻め込んでくるようなら、私たちが出る理由にもなるんだけど……」

 

 まあ、要するに戦争になったらという話。無いとは言い切れないのが、本当に厄介なところ。エルフのというか、サジタリウス聖国の考えが見えてこないからな。裏にいるであろう、女神ミレアルも。

 

 帝国と戦ったばかりで、聖国とも戦う。王国にとっては、良くない未来になる。

 

「その場合は、王国の被害も大きくなる。俺としても、避けたいところだ」

「つまり、経済的に多少の圧力をかけるのが限界でしょう。レックスさんには、申し訳ないですけれど」

 

 頭を下げてくれるのだが、むしろこっちが申し訳なくなる。俺の話は、王国を巻き込もうとしていると言っても過言ではない。だからこそ、ふたりは頷けないのだから。

 

 皇帝としての役割を果たしていて、分かる。国を背負う時には、個人の意志ばかりでは動くことはできない。いくら国の頂点だとしてもというか、国の頂点だからこそ周囲のことを考えなくてはならない。

 

 おそらく、王女姉妹は王家という立場でさえなければ、喜んで協力してくれたはずだ。それも分かるだけに、何も言えない。

 

「いや、ふたりの立場は分かるつもりだ。皇帝としての仕事を、多少なりともこなしたからな」

「分かってくれたのは、嬉しいわ。ただ、立場の苦しさを感じるわね……」

「ただの個人であれば、遠慮なく力になれたんですけれどね。難しいものです」

 

 さっき考えた通りのことを言ってくれた。俺だって、逆の立場なら同じことをするだろうからな。仕方ない。お互い、個人として好き勝手に動ける立場ではないからな。

 

 だが、それでもサジタリウス聖国に対抗する手段を見出さなければならない。そうしなければ、俺はフィリスを失うだろう。

 

 まあ、だからといって無理やり周囲を巻き込むこともできない。となると、俺がどうにかするしか無いのだろうか。足りるのならば、それでも構わないのだが。やれるか、俺に?

 

「これまで、ふたりの立場には何度も助けられた。都合の良いところばかりを得るつもりもない」

「そういうところが、レックス君の良いところよね。やっぱり、最高よ」

「王女としての立場と小娘としての弱さを同時に利用しようとされるのは、よくある話ですから」

 

 王女として、権力を使わせたい。同時に、小娘として軽んじた扱いをしたい。そんなところだろうな。単なる一貴族だった頃にも、少しばかりは経験したことがある。王族だというのなら、比較にはならないはず。

 

 それを分かっていて、利用するというのもな。俺としては、やりたくない。

 

「困ったものだよな……。となると、戦いに出るのはできれば避けたいな」

「こちらから出せる戦力も、そう多くはないですからね……。近衛騎士も、難しいでしょう」

 

 そうなんだよな。近衛騎士というのは、王族を守るための存在。あくまでフィリス個人の問題となる以上、動かすのは難しいというのは当然だ。

 

 こうして考えてみると、家族ですらも気軽に助けに行けないのが立場ということになる。カミラなんて、俺の姉なわけだからな。そして、ツンケンはしているものの俺を愛してくれている。きっと、本心では助けたいと思ってくれているはずだ。

 

「王国の国難とは言い切れないからだな。何事をするにも、立場がついて回る」

「面倒ではあるのだけれど、無視するともっと面倒になるもの。レックス君には、納得してもらうしかないわ」

 

 強権を押し通して今回だけ助けるということは、不可能ではない。それは、俺にも分かる。だが、そう何度も使える手ではない。相手も対策するだろうし、そもそも人望という大事な財産を失ってしまう行動だからだ。

 

 総合的に考えて、今後に損が大きくなる。そういうことになる。

 

「まあ、分かっているつもりだ。だからといって、王国を巻き込めないのだから」

「いっそエルフが周囲を全力で敵に回せば、話は別なんですけど」

 

 エルフが敵視されて、民意がサジタリウス聖国の排除に向かうということ。そういう展開になれば、エルフが虐殺されるような未来になりかねない。

 

 サジタリウス聖国に攻め入って現地に住む人を殺すような展開も、あるはずだ。そしてそれがまだマシと思える未来が、王国に住むエルフまで殺されたりするようなこと。

 

 前世の歴史を考えても、可能性としては十分にありえる。だからこそ、良くない。

 

「それはそれで避けたいな……。フィリスやアリアのような仲間もいるんだ。エルフそのものが悪く見られるのはな」

「レックス君は、いろんな立場の人と仲良くしているものね。私も、目指すべきものだわ」

「とはいえ、今回の話には関係がありません。まあ、これ以上言えることもないんですけど」

 

 ということは、王国の動きは経済的に軽く締め付けるのが限界ということ。それだって、相手の暴走を誘発するだけになりかねない。効果的な一手とは、必ずしも言えないもの。

 

 つまり、王国を頼りにすることは難しいということ。まったくもって、大変と言うほか無いな。

 

「帝国から戦力を出すのも、避けたいところだ。戦争続きというのは、良くない」

「王国も似たようなものなのよね。本当に、困ったものね……」

「友達の問題に、何も手出しができないわけですからね……」

「その気持ちだけで、俺は嬉しいよ。となると、次はどうしたものか……」

 

 とりあえず、少しでもエルフについて知りたい。そうなってくると、思い当たる相手がひとりいた。

 

 メイドのアリア。彼女に、少し話を聞いてみよう。

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