物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
アリアに話をする必要があるということで、一度連絡をしてから転移で呼び出した。とにかく、今は少しでも情報が欲しい。
再会を喜んでいる暇もないというのが、悲しくはある。とにかく、さっさと解決して余裕を作らないとな。アリアやウェスの世話を受けるのも、大切な日常なのだから。
ブラック家で待ってくれていると思うのも、まあひとつではある。とはいえ、もっと気軽に会いたい。メイドたちが慕ってくれているのは分かるからな。ちゃんと、時間を作りたいものだ。
といっても、今は用件を果たすのが大事なのだが。さっそく、話を進めていく。
「アリア、久しぶりだな。急に呼び出して、申し訳ないが……」
「レックス様のお役に立つことこそ、私の役目です。お気になさらず」
うやうやしく、頭を下げている。こういう所作は、しっかりしているんだよな。長年ブラック家に仕えてきただけあって、慣れているのだろう。
とはいえ、それはサジタリウス聖国から離れている期間の長さを意味するのだが。それでも、実際にエルフに聞けるだけでも大きい。ひとまず、質問をしてからだな。分からなければ、後で考えよう。
「とはいえ、メイドとしての仕事ですらないからな。それでも、アリアに頼りたい」
「遠慮など、するような関係ではありませんよ。ただ命じてくだされば良いんです」
しっかりと、俺と目を合わせてくる。本気だということは、見れば分かる。だったら、その気持ちに応えるのが大事だよな。危険な目に合わせるわけでもあるまいし。
アリアの忠義は、本当に大切にすべきものだ。仕えることが喜びだというのなら、またメイドとしての仕事をできるように注力しないといけない。まあ、それは今すぐには無理だが。
帝国を空けてブラック家に帰るか、あるいはアリアやウェスを帝国に呼び寄せるか。いずれにせよ、できる限り早く実現したいものだ。そのためにも、なるべく早く終わらせないと。
「そうだな。なら、聞きたい。アリアは、サジタリウス聖国について知っているか?」
「おそらくは、レックス様よりは。ただ、完全に正しいとも言い切れません」
まあ、仮に知り合いから話を聞いていたとしても、多くは昔の話だろうからな。とはいえ、そんな情報でも欲しいというのが実情だ。
とにかく、取っ掛かりすらないというのが現状。どうにか方針だけでも立てられるように、少しでも情報を集めたい。
「それでもいい。まずは、聞かせてもらえるか? 当たり前のところから、順番に」
「では、まずは前提条件から。大きく広がる森林地帯を領土とした、エルフの国です」
「そうだな。エルフだけの国だと聞いている」
「もしかしたら、集落の中にひとりいる程度ならあり得るかもしれません。ですが、基本的にはエルフしかいません」
変わったエルフが人間と仲良くしている可能性はある。だが、国として人間を受け入れているわけではない。だから、集落に居る可能性ならというところか。かなり妥当なところに思える。
とにかく分かることとしては、エルフならではの文化や思想が中心になっているだろうということ。その具体的な内容に、少しでも触れたいところだ。
「だからこそ、人間の国とは文化も考え方も違う。合っているか?」
「はい。分かりやすいところで言えば、変化の緩やかさですね。当たり前のように、100年単位の計画をします」
「人間が10年単位の計画をする感覚で、100年単位の計画をするんだな」
「そういうことです。ですから、昨日今日の計画で動き出すことは、非常に稀です」
となると、古い情報だとしても価値があるかもしれないな。人間で言うところの10年前程度の情報なら、変わっていると言っても国民性がまるで別とも言えないみたいなラインだ。特に、急激な技術の進歩もないからな。もっと緩やかだと判断して良いかもしれない。
だからこそ、疑問もあるのだが。
「なるほど。となると、フィリスを王にしようというような大それた動きは……」
「おそらくは、相当長い期間を通して計画を練られていたのだと思います」
もしかしたら、俺どころかモニカが生まれる前からかもな。それだけ長い期間を通した計画となると、簡単には止まらないような気がする。
かなり、良くない想像をしてしまった。このまま、フィリスを奪うための行動がエスカレートしていくのではないかと。話を聞いていても、あり得ないとは思えないんだよな。少なくとも、現実的に起こり得る可能性だろう。
だとすると、戦闘は避けられないのかもしれない。そうなってくると、ミレアルが力を与えたことの意味も変わってくる。
「力を得たことは、あくまできっかけに過ぎないのかもな……」
「女神ミレアルの話でしたら、その通りかと。ただ、例外もあります。信仰心ですね」
「エルフは、ミレアルを強く信仰しているんだったよな?」
「はい。魔法に優れたエルフこそが、女神に最も愛された種族。そう信じているのです」
俺も知っている設定だ。人間は闇と光、無属性を使えるから自分たちが上だと思っている。エルフは全員が魔法を使えて、その中でも多くの属性を持った存在が生まれやすいから自分たちが上だと思っている。
実際のところ、上澄みからすれば誤差程度の違いしかないのが多くの人間とエルフではある。だから、正直あんまり意味のない話だとは思うんだよな。まあ、当人にとっては大事なことなのだろうが。
俺は大半のエルフを一方的に殺せるし、フィリスは大半の人間を寄せ付けることすらない。だが、それらが人間やエルフが優れているとする根拠には弱い。そしてそもそも、魔法だけが価値であるという考え自体が俺からすればおかしいというか。闇魔法に頼り切っていて何をと言われるかもしれないが。
ただ、魔法だけを基準とするのなら秘書としてのミルラや発明家としてのマリンは絶対に評価されない。俺としては、好きになれない考えだな。
「人間を見下しているエルフも、そう少なくないと思って良いのか?」
「サジタリウス聖国では、むしろ一般的かもしれませんね。良くも悪くも、エルフだけの国ですから」
「価値観が硬直しかねないみたいな話か。外部との交流が少ないというのなら、当然だな」
「はい。私やフィリスさんのように人間に好意的なエルフは、そもそも多くありません」
となると、対話から解決するのも難しいのかもしれない。まずは対話という姿勢は崩す気はないにしても、覚悟自体は必要なのかもな。
ただ、明確に敵意を持っているのと見下しているのとでは違う。そこも、確認しておこう。
「仮に嫌っていなくとも、無関心だということでいいのか?」
「はい。積極的に嫌う人も、少ないでしょうね。うっすらと見下すような感覚が、一番多いかと」
「なるほどな……。ありがとう、アリア。だいぶ、見えてきた気がする」
「いえ。レックス様のお役に立てたのなら、嬉しいです」
ひとまず、方針はおぼろげながら浮かんできた。フィリスにもう少し話を聞いて、決めてみよう。