物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

594 / 622
593話 わずかな希望

 いよいよ、サジタリウス聖国との戦いが本格的に動き出す。その前に、アリアやフィリスと最後の作戦会議だ。

 

 アリアの持っている情報をもとに、できる限り有効な策を練る。そして、なるべく犠牲が少なくなるように敵を討つ。

 

 きっと、完全に敵だけを殺せはしないのだろう。そこまで完璧な隠密は、無理だろうから。胸に、重いものが広がっていくような感覚がある。

 

 だとしても、もう止まれない。止まってしまえば、もっと犠牲が増えるだけなのだから。最善の道だと、信じるしかない。それだけ。

 

 呼び出したアリアは、穏やかな笑顔を浮かべている。戦士を送り出すかのように。その笑顔を、目に焼き付けた。

 

「レックス様、サジタリウス聖国に向かうのですね」

「ああ。こうなってしまえば、敵対は避けられない。なら、やるだけだ」

「……単純。レックスの敵を、打ち破るだけ。それだけの話」

「私の力では、おふたりの足手まといとなるだけでしょう。共に戦えないことは、心苦しくもあります」

 

 眉を困らせている。まあ、俺が逆の立場なら同じ事を考えたとは思う。それでも、罪悪感なんて抱く必要はない。

 

 俺は、あくまで自分のために戦うだけ。みんなとの時間が過ごしたいという欲望のために。だから、悲しい顔をされる方が嫌なくらいだ。

 

 それこそ、みんなが笑顔でいてくれさえすれば、どんな苦難だって報われるのだから。そんな気持ちを込めて、俺はアリアに向き合った。

 

「なら、こういう解釈はどうだ? 俺たちの帰る場所を、ずっと守ってくれているんだ」

「そうだとすれば、ウェスさんも大事な役割を果たせていることになりますね。きっと、喜びます」

 

 アリアは、俺の手を取ってそっと微笑んだ。うまく気持ちが伝わったみたいだ。

 

 ふたりが待っていてくれるのなら、俺は絶対に帰ろうと思える。ふたりだけがすべてではないとはいえ。

 

 だからこそ、本当に大切な役割なんだよな。少なくとも、俺にとっては。

 

「……本題。サジタリウス聖国に攻め込むために、できる限りの情報が欲しい」

「分かりました。用意したものは、手紙と地図だけですが……」

 

 そう言って、アリアは懐から数枚の封筒と紙を出していく。フィリスと俺は、それを覗き込んだ。封筒は、宛名だけが書かれている。そして地図には、森のどのあたりに何があるかが記されている。

 

 見た感じ、王都のような場所がある。そこを攻めていくことになるのだろうな。フィリスも、指差しながら頷いていた。

 

 おそらく、誘うからには拠点くらい伝えていると思うんだよな。となると、王都に拠点があるはずだ。ある意味、単純で分かりやすい。国家をひっくり返すために、そこを選んだのだろう。

 

「……十分。これがあれば、問題なく攻め込める。私も、まるで知らないわけではない」

「確かに、フィリスの故郷になるのか。なら、ある意味では帰省みたいなものか。なんて、冗談にするのは問題だな」

「……静観。私としては、別に気にしていない。軽口が叩けるのは、悪くない」

 

 相変わらずの無表情で、そう言われる。本当に淡々としているから、気にしていないように見える。とはいえ、あんまりデリカシーのない言い回しではある。今後は気をつけたいところ。

 

 うっかり妙な発言をしてしまう時もあるのが、困ったものだ。今のところは、みんなを怒らせないで済んでいるものの。

 

 ただ、アリアも穏やかな顔で頷いている。悪印象は与えていない様子だ。

 

「そうですね。戦場に向けて固くなるばかりでは、危険でしょうから」

「確かにな。油断も良くないにしろ、緊張ばかりしていても勝てない」

「……同意。レックスの気が軽くなるのなら、いくらでも言ってくれれば良い」

 

 俺のことを、優しい目で見ている気がする。あんまり、表情は変わらないが。それだけ、俺のことを大切に思ってくれている証。

 

 だからこそ、妙なことは言いたくないんだよな。俺を大事にしてくれる人を、相手がくれる以上に大切にする。それこそが、俺のやるべきことなのだから。

 

 どれほど手を汚そうとも、きっと変わらないこと。

 

「そうもいかないだろう。フィリスが傷つくようなことを言ってしまえば、士気が下がる」

「レックス様は、今でも素直ではありませんね。私は、好きですけれど」

「……愛嬌。私たちにとっては、そのようなもの。もっと見たい」

 

 明らかに、ふたりともが微笑ましいものを見る目をしている。母性すら感じそうなくらいだ。

 

 だが、かなり恥ずかしい。顔が赤くなっていないか不安になる。俺は一応、前世も含めれば大人なんだがな。困ったものだ。

 

「完全に子供扱いされている……。年の差を考えれば、当たり前なんだが……」

「ふふっ、女性に年の話をするのは、お子様の証ですよ。なんて、ね」

 

 そう言われて、胸に刺さったものがあった。いや、常識じゃないか。動揺しているとはいえ、なんてことを言ってしまったのだろう。

 

 ふたりとも、顔をしかめたりはしていない。だから、本気で傷ついたわけではない様子ではあるが。いくらなんでも、デリカシーがないぞ。もう、二回目なんだから。

 

「……奥手。だから、うまく接することもできない。もっと、慣れた方が良い」

「そういう意味でしたら、私の知り合いはちょうど良いかもしれませんね」

 

 アリアはそう言いながら、笑顔を深めた。なんとなく、背筋が冷えたような気がした。怒っている感じはしない。むしろ、楽しんでいるような気がする。

 

 おそらく、サジタリウス聖国で出会うことになる相手なんだろうが。妙に、怖い。

 

「どういう意味だ……? なんか、嫌な予感がするんだが……」

「とても女性らしい方ですから、レックス様にとっても良い経験になるかと」

「……理解。でも、アリアは構わないの?」

「私たちにとっては、悪くない案だと思います。レックス様の顔を、教えて下さいね」

 

 からかうような笑顔で、フィリスを見ていた。俺が妙な顔をするということと、女性らしい方ということ。なんか、思春期みたいな想像をしてしまうんだが。

 

 あんまり言葉にしたくはないというか、これもまたデリカシーの話になる。とはいえ、なんか誘導されている気もするんだよな。乗るべきか、乗らざるべきか。ええい、ままよ。

 

「なあ、もしかしてお色気の話だったりするのか? 違うよな?」

「ふふふ、レックス様もお年頃ですね。正解は、明かされるまでの秘密ということで」

「……期待。レックスが珍しい反応をするのなら、見てみたい」

 

 ふたりとも、本当にワクワクしたような目をしていた。俺は、うなだれることしかできない。クスクスという声さえ聞こえて、とどめを刺されているような気分になる。

 

 とはいえ、助かることもある。アリアがそういう反応をする相手ということは、仲良くできそうな相手ということ。できるだけ、いい出会いにしたい。

 

「ま、まあ、味方が増えるのなら……。しっかりと、仲良くしたいものだ」

 

 これから、戦いという場ではある。それでも、少しは希望を持つこともできる。

 

 アリアは、おそらく気づかってくれてもいるのだろう。その気持ちを無駄にしないためにも、しっかりといい関係を築かないとな。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。