物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
いよいよ、サジタリウス聖国との戦いが本格的に動き出す。その前に、アリアやフィリスと最後の作戦会議だ。
アリアの持っている情報をもとに、できる限り有効な策を練る。そして、なるべく犠牲が少なくなるように敵を討つ。
きっと、完全に敵だけを殺せはしないのだろう。そこまで完璧な隠密は、無理だろうから。胸に、重いものが広がっていくような感覚がある。
だとしても、もう止まれない。止まってしまえば、もっと犠牲が増えるだけなのだから。最善の道だと、信じるしかない。それだけ。
呼び出したアリアは、穏やかな笑顔を浮かべている。戦士を送り出すかのように。その笑顔を、目に焼き付けた。
「レックス様、サジタリウス聖国に向かうのですね」
「ああ。こうなってしまえば、敵対は避けられない。なら、やるだけだ」
「……単純。レックスの敵を、打ち破るだけ。それだけの話」
「私の力では、おふたりの足手まといとなるだけでしょう。共に戦えないことは、心苦しくもあります」
眉を困らせている。まあ、俺が逆の立場なら同じ事を考えたとは思う。それでも、罪悪感なんて抱く必要はない。
俺は、あくまで自分のために戦うだけ。みんなとの時間が過ごしたいという欲望のために。だから、悲しい顔をされる方が嫌なくらいだ。
それこそ、みんなが笑顔でいてくれさえすれば、どんな苦難だって報われるのだから。そんな気持ちを込めて、俺はアリアに向き合った。
「なら、こういう解釈はどうだ? 俺たちの帰る場所を、ずっと守ってくれているんだ」
「そうだとすれば、ウェスさんも大事な役割を果たせていることになりますね。きっと、喜びます」
アリアは、俺の手を取ってそっと微笑んだ。うまく気持ちが伝わったみたいだ。
ふたりが待っていてくれるのなら、俺は絶対に帰ろうと思える。ふたりだけがすべてではないとはいえ。
だからこそ、本当に大切な役割なんだよな。少なくとも、俺にとっては。
「……本題。サジタリウス聖国に攻め込むために、できる限りの情報が欲しい」
「分かりました。用意したものは、手紙と地図だけですが……」
そう言って、アリアは懐から数枚の封筒と紙を出していく。フィリスと俺は、それを覗き込んだ。封筒は、宛名だけが書かれている。そして地図には、森のどのあたりに何があるかが記されている。
見た感じ、王都のような場所がある。そこを攻めていくことになるのだろうな。フィリスも、指差しながら頷いていた。
おそらく、誘うからには拠点くらい伝えていると思うんだよな。となると、王都に拠点があるはずだ。ある意味、単純で分かりやすい。国家をひっくり返すために、そこを選んだのだろう。
「……十分。これがあれば、問題なく攻め込める。私も、まるで知らないわけではない」
「確かに、フィリスの故郷になるのか。なら、ある意味では帰省みたいなものか。なんて、冗談にするのは問題だな」
「……静観。私としては、別に気にしていない。軽口が叩けるのは、悪くない」
相変わらずの無表情で、そう言われる。本当に淡々としているから、気にしていないように見える。とはいえ、あんまりデリカシーのない言い回しではある。今後は気をつけたいところ。
うっかり妙な発言をしてしまう時もあるのが、困ったものだ。今のところは、みんなを怒らせないで済んでいるものの。
ただ、アリアも穏やかな顔で頷いている。悪印象は与えていない様子だ。
「そうですね。戦場に向けて固くなるばかりでは、危険でしょうから」
「確かにな。油断も良くないにしろ、緊張ばかりしていても勝てない」
「……同意。レックスの気が軽くなるのなら、いくらでも言ってくれれば良い」
俺のことを、優しい目で見ている気がする。あんまり、表情は変わらないが。それだけ、俺のことを大切に思ってくれている証。
だからこそ、妙なことは言いたくないんだよな。俺を大事にしてくれる人を、相手がくれる以上に大切にする。それこそが、俺のやるべきことなのだから。
どれほど手を汚そうとも、きっと変わらないこと。
「そうもいかないだろう。フィリスが傷つくようなことを言ってしまえば、士気が下がる」
「レックス様は、今でも素直ではありませんね。私は、好きですけれど」
「……愛嬌。私たちにとっては、そのようなもの。もっと見たい」
明らかに、ふたりともが微笑ましいものを見る目をしている。母性すら感じそうなくらいだ。
だが、かなり恥ずかしい。顔が赤くなっていないか不安になる。俺は一応、前世も含めれば大人なんだがな。困ったものだ。
「完全に子供扱いされている……。年の差を考えれば、当たり前なんだが……」
「ふふっ、女性に年の話をするのは、お子様の証ですよ。なんて、ね」
そう言われて、胸に刺さったものがあった。いや、常識じゃないか。動揺しているとはいえ、なんてことを言ってしまったのだろう。
ふたりとも、顔をしかめたりはしていない。だから、本気で傷ついたわけではない様子ではあるが。いくらなんでも、デリカシーがないぞ。もう、二回目なんだから。
「……奥手。だから、うまく接することもできない。もっと、慣れた方が良い」
「そういう意味でしたら、私の知り合いはちょうど良いかもしれませんね」
アリアはそう言いながら、笑顔を深めた。なんとなく、背筋が冷えたような気がした。怒っている感じはしない。むしろ、楽しんでいるような気がする。
おそらく、サジタリウス聖国で出会うことになる相手なんだろうが。妙に、怖い。
「どういう意味だ……? なんか、嫌な予感がするんだが……」
「とても女性らしい方ですから、レックス様にとっても良い経験になるかと」
「……理解。でも、アリアは構わないの?」
「私たちにとっては、悪くない案だと思います。レックス様の顔を、教えて下さいね」
からかうような笑顔で、フィリスを見ていた。俺が妙な顔をするということと、女性らしい方ということ。なんか、思春期みたいな想像をしてしまうんだが。
あんまり言葉にしたくはないというか、これもまたデリカシーの話になる。とはいえ、なんか誘導されている気もするんだよな。乗るべきか、乗らざるべきか。ええい、ままよ。
「なあ、もしかしてお色気の話だったりするのか? 違うよな?」
「ふふふ、レックス様もお年頃ですね。正解は、明かされるまでの秘密ということで」
「……期待。レックスが珍しい反応をするのなら、見てみたい」
ふたりとも、本当にワクワクしたような目をしていた。俺は、うなだれることしかできない。クスクスという声さえ聞こえて、とどめを刺されているような気分になる。
とはいえ、助かることもある。アリアがそういう反応をする相手ということは、仲良くできそうな相手ということ。できるだけ、いい出会いにしたい。
「ま、まあ、味方が増えるのなら……。しっかりと、仲良くしたいものだ」
これから、戦いという場ではある。それでも、少しは希望を持つこともできる。
アリアは、おそらく気づかってくれてもいるのだろう。その気持ちを無駄にしないためにも、しっかりといい関係を築かないとな。