物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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594話 人材の価値

 これから、サジタリウス聖国に戦いに行く。その前に、最後の仕事がある。帝国で、引き継ぎを行わないといけない。

 

 少なくとも、何も言わずに出ていくことはできない。だからこそ、俺の腹心であるユフィとロニアを呼び出した。

 

 ある意味では、無責任なのかもしれない。そうだとしても、やるしかない。ここで立ち止まってしまえば、帝国すら巻き込むことになる。せめて被害を抑えるためにも、俺たちがやり遂げなければ。

 

「ユフィ、ロニア。しばらく、離れる。後は任せた」

「そこにフィリス・アクエリアスがいるということは、関係あるのですね……」

「あー、あたしらでは役に立てそーにないねえ」

 

 大体察してもらえたみたいだ。フィリスほどの戦力をぶつける必要のある敵に、並大抵の腕では足りない。そのあたりの謙虚さこそが、ふたりを信頼できる理由でもある。

 

 どうしても、自信過剰な人は余計なことをするからな。勝てない敵に突撃していくのが分かりやすい。言い方は悪いが、正しく身の程をわきまえてくれている。

 

「……同感。悪くない腕をしているけれど、足りない」

「実力なんて関係なく、今の状況でふたりを連れていけはしないぞ」

 

 とにかく、今の帝国の上層部がこぞって抜けるようなことがあれば確実に乱れる。それを避けるためにも、ユフィとロニアというそこそこの強者が存在することは大事だ。なんだかんだで、ミレアルの加護でもないと勝てない程度の強さではあるからな。

 

 最低限、俺たちが戻るまでの時間稼ぎさえしてくれればいい。ふたりなら、功を焦るということもないはず。

 

「そっちもあったかー。これは、大変そうだねえ」

「レックス様のために、平和を守り抜くつもりです……」

 

 ロニアはおどけるように言い、ユフィはまっすぐに俺を見て言う。あんまり気合いが入りすぎると、それはそれで困る。ユフィは真面目だからこそ、ロニアが良い支えになってくれるはずだ。

 

 完全に実力順で選んだとはいえ、うまくふたりは噛み合っているように見える。今のところは、悪くない。

 

 おそらく、俺が離れている期間がふたりにとっての最大の試練になるはずだ。なんとか乗り越えて、成長につなげてもらいたいな。

 

「俺が離れていることに関しては、配下に隠しても良いし話しても良い。とにかく、うまくやってくれ」

「反逆の機会だと思われたら、めんどーだもんね。話す相手は、選ばないとかー」

 

 自分で言うのもなんだが、俺の圧倒的な力が抑止力になっている部分はあるはずだ。だからこそ、俺はほとんど誰にも告げずに出ていくのだし。

 

 ユフィやロニアにも、信頼できる部下はいるはず。そういう相手が本当に信頼できるのか試される機会でもあるな。とにかく、大変にはなるだろう。心苦しくはあるが、どうにもならない。

 

「……感心。レックスの部下は、しっかりと育っている」

「そうでしょ? フィリス・アクエリアスに褒められたって、自慢できそーだね」

「王国と帝国の関係を考えれば、使い所が大事になりますね……」

 

 俺が何も言わなくても、フィリスとの関係をどう利用するかをしっかり考えている。なんなら、俺よりも深く考えていそうなくらいだ。

 

 フィリスという存在は、とても大きな価値を持つ。いま、サジタリウス聖国が狙っているように。だからこそ、本当に使い所が大事なんだよな。まあ、証拠も必要ではあるものの。俺との関係を考えれば、軽い証拠で済みそうではあるか。

 

「ははっ、もう俺なんて必要ないくらいかもな。そうなってくれれば、助かりはするが」

「……否定。レックスの存在は、とても大切。見ているだけで、分かる」

「そーですよ。レックス様がいるのといないのじゃ、楽さが違うし」

「レックス様の威光があってのものですからね……。今はまだ、早いです……」

 

 こうして頼りにされているのは、悪くない。とはいえ、本来は俺が皇帝なんて間違っているからな。帝国のことは、帝国の人間が決めるべきだと思う。

 

 まあ、今すぐにどうにかできることではないが。ひとまずは、帰ってきてからだな。ユフィやロニアが自分たちで国を回していけるように、手伝っていかないと。

 

「なら、できるだけ早く戻ってこないとな。とはいえ、どれだけかかるか分かったものじゃないが」

「……課題。サジタリウス聖国を落とすだけなら、そう難しくはないはず。問題は、その後」

 

 実際、フィリスがどの程度本音を言っているのかは怪しい。いや、ミレアルの加護がなければ楽だというのは分かるが。加護があった帝国ですら落とせたんだから、問題ない。

 

 とはいえ、その加護が大きな問題なんだよな。どこまでミレアルが本腰を入れるか次第で、まるで変わってくる。

 

 まあ、ふたりの前で言うべきことではない。それは、俺にも分かる。不安にさせないという意味でも、政治的な意味でもだな。

 

「なるほど……。サジタリウス聖国に、攻め込むのですね……」

「レックス様に敵対したら、大変だねえ。エルフも一緒に攻撃してくるかもしれないんでしょー?」

 

 冗談めかしているが、ロニアの言っていることは本音でもあるのだろう。うまく情報交換できれば、ふたりにとっても有利に働くかもな。落とすタイミングにもよるが、検討する価値はある。

 

 まあ、勝てなきゃ話にならないのが実情。まずは、自分のことをしっかりとこなさなければな。

 

「まあ、結果次第ではあるが。念の為に、最悪の事態にも備えておいてくれ」

「誰に伝えるかが、また課題になりそうですね……。反乱のきっかけになると、困ります……」

「そーだねえ。あたしたちを狙うやつも、いそーだし?」

 

 ユフィやロニアの存在が目の上のたんこぶという人は、確かに存在しそうだ。俺がいなければ勝てると判断するやつも、いるのかもしれない。

 

 本当に、困ったものだ。いくつも同時に問題が起こる可能性が高いというのだから。

 

「とりあえず、無事でいてくれさえすれば良い。戻ってきた時に、俺が力を貸す」

「……同意。人的損害は、取り返すのに時間がかかる」

「まー、あたしも命がおしいからねえ。ほどほどにやるよ」

「そうですね……。死にたくは、ありません……」

 

 そう言いながらも、目には責任感が見える。だからこそ、踏ん張りすぎないでほしいものだ。俺個人の感情を抜きにしても、代えが効かない人材なのだから。

 

 ユフィとロニアほどの能力を持った人は、そう簡単には現れない。もう少し自信を持ってくれても良い気すらする。

 

「最悪、逃げても良い。その前提で、できることをやってくれ」

「レックス様は、優しいねえ。そーいう相手ばかりだと、楽なんだけど」

「こうして大切にされていると、気合いが入りますね……」

 

 俺のことを、じっと見ていた。そこに決意を感じた気がして、しっかりと目を合わせる。大事なことを、正しく伝えるために。

 

「もう一度言うが、無理だけはするなよ。お前たちには、代えられないんだから」

 

 ふたりは、まっすぐに頷いてくれた。まあ、問題が起こる前に勝って戻ってくれば済む話だ。俺がしっかりやれば、悪い方向に進む可能性は低くなる。

 

 フィリスのためにも、必ず勝ってみせるさ。

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