物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
エルフたちの転移は収まって、俺たちは休息を取っていた。引くことができる状況かは怪しいし、進むにも疲れが大きい。少なくとも、次の戦闘に耐えられる状況ではない。
ということで、ある程度魔力が回復するまで待ちつつ、持ち込んだ食事を取っていた。
「ひとまず、敵からの追撃は来ないな……。いったい、どんな意図があるのやら……」
「……考察。根本的には、ミレアルの意図が関係しているはず」
フィリスの意見は、俺も納得できるところではある。エルフの意思が優先されるのなら、間違いなく俺は殺されていただろうし。かなり殺意を感じたからな。
指をあごに当てながら考え込んでいる様子が見える。ジャンやミルラに相談できれば、もっと他に意見が出たのかもしれないが。ただ、通話を使って良い状況かはかなり怪しい。転移を相手が使っている以上、普通に盗み聞きくらいはされそうだ。
やはり、俺とフィリスで策を練るしかないだろう。今まで戦略は誰かに頼りっぱなしだったから、こういう状況がかなり苦しい。
さて、俺にまともな案が出せるだろうか。フィリスに頼り切るのも問題だし、どうにかしたいが。
「だよな。エルフ側の戦力が尽きた可能性は、少ないだろうし」
「……同意。せいぜい、小さな集落という程度。全戦力とはとても言えない」
仮にフィリスを皇帝にしたい人だけが敵だとしても、小さな集落程度の人数で国を落とそうとはできないだろう。そうなってくると、やはり戦力を温存しているということになる。
とにかく、意図が読めない。俺を殺したいのなら、あの場に戦力を集中するのが一番良かったはず。ミレアルは、一体何を狙っている?
生贄という案も出しはしたものの、俺である理由が思いつかない。闇魔法というのなら、ミュスカだって対象になるはずだ。今ミュスカたちが攻撃されているのなら、納得はできるが。
ただ、ミュスカから通話が飛んでくる様子もない。飛ばせない状況という可能性もあるが、こっちから通話するのも藪蛇になりかねない。
本当に、どうすべきかが悩ましい。わけが分からない状況だからな。
「となると、戦力を残した上で俺を見逃したことになる。油断でもさせたいのか?」
「……否定。あのまま戦力を一気に投入していれば、私たちは終わっていた」
「転移の魔力が尽きた可能性も、まあないよな。本当に、わけが分からない」
「……仮説。レックスの成長を促している。あるいは、機を待っている」
フィリスの言葉は、かなり核心をついているような気がする。なぜかと言われれば、勘としか言いようがないが。
まあ、こじつけとはいえ理屈としては納得できる。転移や合一への対策をぶつけて、次はどうするのかを見たいのかもしれない。当たっているとすれば、ミレアルはとんでもない邪神と言えてしまう。
さて、どうなのだろうな。俺の人生をもてあそぶ邪神なのか、はたまた神の視座では合理的な理由があるのか。
一応弁解として思い浮かぶのは、ミレアルが勝てない敵に勝てるようにするために俺を鍛えているとか。邪神とかか? そんな存在、原作には出てこなかった。だから、ないと言い切って問題ない。
やはり、ミレアルの意図はとんでもないものなのかもしれない。最終的に、戦う可能性は高いと言えそうだ。
「ある意味、女神の試練というわけか。これが終われば、俺が加護を与えられでもするのか?」
「……中間。あると言えばあるし、ないと言えばない。どちらにも根拠はある」
加護を与えるための試練という説だと、戦う相手もいないのに力をもらってどうするんだという話ではある。そもそも、ミレアルが敵にならなければ大抵の相手には問題なく勝てたのだから。
邪神にしたって、ミュスカとの関係もあるからただ討って終わりとはいかない。どういう影響が出るかを、しっかり考えないといけないのだから。
まあ、いずれにせよ取らぬ狸の皮算用というやつになりそうだ。とにかく、ミレアルの狙いが見えないことには。
「最大の問題は、俺たちがミレアルの人格を理解できていないことだな。さて、どうしたものか……」
「……提案。おそらくは、相手の拠点に最後の試練があるはず。そして、その場所は……」
「まあ、聖都だろうな。となると、進むしかないか。引けば、みんなが巻き込まれる」
「……肯定。そもそも、転移や脱出を妨害されかねない」
やはり、フィリスも同じ見解か。そうなってくると、戻ることも厳しい。進んで勝つしかないわけだ。
追い込まれているという感覚は、ある。これが最善なのかという疑念も、ある。それでも、眼の前にある道に進むしかない。
「となると、また進んでいくしかないか……。食料を転移でまかなうのは、危険か?」
「……微妙。レックスを殺す意図がないのなら、妨害はされないかもしれない」
「余裕がある内に試しておくべきか、ギリギリまで避けておくべきか。悩ましい」
「……対策。ひとまずは、森にある食料を採取してもいい」
まあ、転移で食料を呼ぶことを必要としない状況を作れば良いのか。フィリスの提案には、納得できる。山菜やきのこは素人が取ると危険だが、対処もできる。毒対策の魔法を作っておいたことが、ここで活きてくるな。
とりあえず、当面は森の恵みを食料とする方針で問題ないか。行き詰まってから、別の手段に切り替えよう。
「そうだな。動物も植物も、いろいろある。最悪、毒も無効化できる。悪くない」
「……分類。ある程度は、私にも見分けがつく。任せて」
当然のように、そう言ってくる。やはり、フィリスは頼りになる。完全に、頼り切っているな。方針を決めるという意味でも、課題を乗り越えるという意味でも。
できるだけ何かを返したいとは思うが、そう思いつきもしない。俺ができる程度のことは、大抵フィリスにもできるからな。戦闘能力なら、優位に立っている部分もあるが。
闇魔法の強みが封じられている現状では、本当にできることが少ない。経験の浅さが、見るからに出ている。
「こうなってくると、勉強しておくべきだっただろうか。いや、後知恵か」
「……同感。このような状況を想定するのは、ほぼ不可能」
まあ、そもそも後悔したところでどうにもなるものではない。今後について考えるのが、俺がやるべきことだ。見失わないようにしないとな。
「さて、次の方針を決めないとな。聖都まで一気に突き進むのは、厳しいんじゃないか?」
「……集落。いくつかあるから、そこを拠点として動くことにする」
「そうだな。すべてのエルフが敵ということはないか。地図だと、どのあたりだ?」
「……近所。手紙の相手はいないけれど、穏やかな集落らしい」
ということで、方針は決まった。地図にある集落を目指して進んでいくことになる。穏やかということは、敵対せずに済むかもしれない。
完全に誰にも合わずに進むのも一つの手だが、消耗が大きすぎる。まともな寝床もない状況でサバイバルを続ければ、肝心の首刈りに気力が残らないかもしれない。そういう意味では、できれば受け入れてもらいたいが。
「じゃあ、次の目的地はそこだな。さて、受け入れてもらえると良いのだが……」
「……警戒。最悪、襲われる可能性もある。女神の出方次第」
「まあ、そうなるよな。とはいえ、隠れ潜むだけなのも苦しい。やるしか、ないな」
ひとまず、集落に向けて足を進め始めた。はてさて、いい出会いができるかどうか。