物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
近くの集落に向かうと決めて、俺たちは足を進めていく。魔法が使えるからマシではあったものの、食料を確保しながら進んでいくのは大変だった。
食べられる草を見つけて、苦さに顔をしかめたり。獣が襲ってきて、魔力の消耗を抑えつつ倒そうとしたら逃げられかけたり。
そんなこんながありつつ、森が少し切り開かれた場所が見えてくる。建物もあって、目的とした集落だということが分かった。
エルフだと言っても、さすがに森の中で木の上にログハウスを建てているわけではないらしい。少しロマンが崩れた気はしたものの、まあ妥当なところだ。
「……到着。レックス、私が交渉する」
フィリスはこちらを見て頷く。俺も同じように返す。気を使ってくれているというのは、分かる。だが、ここで俺が前に出るのは無意味。
適材適所という言葉が、今回ばかりは適切だろう。俺が活躍しようとして交渉が決裂するというのが、最も避けるべき未来。たとえ今回フィリスの負担になるとしても、俺は引っ込むべき。
もっと活躍できるのではないかという気持ちは、正直に言ってある。だが、歯を食いしばって抑え込んだ。無意味なプライドほど、邪魔なものもないのだから。
そもそも、ミルラやジャンに任せっぱなしの俺が言えた話でもないか。追い詰められて、変なことを考えているのかもしれない。一度、深呼吸をする。
「そうだな。その方が良いか。見知らぬ人間より、よほど成功しやすいはずだ」
「……同意。私が前に出るから、適当に笑顔を浮かべていて」
「分かった。そのあたりは、全部フィリスに任せるよ」
ということで、フィリスについていく。門番みたいな存在もいなかったので、まっすぐに一番大きな屋敷に向かった。
そして、村長らしき人のいそうな屋敷から出てきたエルフに話をする。
「……請願。ここで休息を取りたい。宿を貸してくれる?」
フィリスの姿を見て、目を見開いていた。やはり、有名人らしい。そのことが、よく分かる。誇らしい気持ちもあるものの、今の状況では喜んでばかりもいられない。
狙われているのがフィリスではあるものの、頼ってばかりだからな。それに、そもそも落ち着いた感情を抱いていられる場面でもない。まあ、言われた通りに笑顔を浮かべてはいたが。
「あなたは……! もちろん、歓迎いたします。お連れの方も、どうぞ」
「……安堵。レックス、ひとまずは休めそう」
「ずいぶん、仲がよろしいようで。微笑ましいですな」
笑顔を浮かべながら、村長は俺たちを見ている。穏やかな顔をしているので、そこまで敵意はないのかもしれない。
これまで出てきたエルフは、すぐにでも俺を殺そうとしてきたからな。その人たちとは、明らかに違う。
「……当然。レックスは、私の一番弟子。私と同様に扱って」
「かしこまりました。最上の待遇を用意させていただきます」
「助かるよ。持ってきた食事だけでは、心もとなくてな」
「それは大変だったでしょう。この国は、慣れぬ者にとっては魔境ですからな」
同情するような顔をしている。まあ、相当厳しい環境だったからな。森とは関係のないところで生きてきた身としては、大変だったことは間違いない。
フィリスは相変わらずの無表情で村長を見ていた。さて、少しでも休めると良いのだが。
「……要請。まずは、二人の部屋に案内して」
「もちろんですとも。ゆっくりとしていってくだされ」
そう言って、村長は建物の中へと案内する。連れられた客間らしき部屋に、ふたりで入る。村長が遠くに行ったのを確認して、フィリスに話しかけていく。
「とりあえず、歓迎されている様子で助かったよ」
「……警戒。念の為に、欠かさないでおいて」
いつもの淡々とした態度を取っている。さて、俺が村長の違和感を見過ごしたのか、はたまた一般論か。
どちらにせよ、まだ警戒を緩めるつもりはない。少なくとも、敵地ではあるのだから。村長が好意的でも、敵意を持った村民がいても不思議ではない。
「何か、引っかかるところがあったか? 俺としては、素直に受け入れられた気がしているが」
「……直感。あまりにも順調すぎる。エルフというのは、もう少し排他的」
「穏やかな集落って話じゃなかったか? それでも、排他的なものなのか?」
「……肯定。むしろ、穏やかだからこそ」
フィリスの言っていることは分かった。つまり、少しは嫌な顔をしてもおかしくないところを好意的に接してきたのは、何かを隠しているからということ。
変に敵意を見せずに、俺たちを油断させようとしているのかもしれないと。納得できる話だ。
「ああ、なるほどな。安定しているからこそ、乱したくないということか」
「……同意。だから、決して油断しないで。何かあったとしても、おかしくはない」
「分かった。とりあえず、魔力を練っておくよ」
「……防備。私も、油断しない」
それで、ひとまず防御魔法をふたりにしっかりとかける。いきなり攻撃されても問題ないように。
万が一急に攻撃されても、少なくとも初手は耐えられる。それから反撃するだけの時間は、作れるはずだ。
今後の動きを考えつつ待っていると、ノックの音が届いた。返事をすると、木でできたトレーを持った村長が来ていた。
「食事ができました。お持ちしましたので、ごゆっくりどうぞ」
並べられた料理は、肉も野菜も入っているし、数えたら5品もあった。焼いたものから煮物から、とにかくいろんな調理がされている。
歓迎の意思は、料理からでも伝わってくるところ。これすらも嘘である可能性も、もちろんあるが。
「ずいぶんと手間のかかった料理だな。大変だったんじゃないか?」
「フィリス様をお迎えする上で、この程度では不足しているかもしれませんが……」
「……感謝。レックス、一緒に食べる」
「ああ、分かった。やはり、山の幸が多いな」
「……環境。輸入が少ないのなら、当然その地にあるものを消費する」
ということで、まずは俺から口に運んでいく。野菜を手に取ると、味がしっかりと染み込んでいた。待った時間からして、魔法を使って時間をしたのだろう。
こういう生活に便利な魔法も、もっと作っていけたら良いのだが。魔道具としても活用できれば、もっとブラック家や帝国は発展するかもしれない。
まあ、サジタリウス聖国に勝ってからの話にはなるが。とにかく、英気を養わなくてはな。
「まあ、それもそうだな。うん、うまい」
「……期待。レックスの舌を満足させるのなら、私としても楽しめそう」
「それはそれは、なによりでございます」
そう言って、村長は笑顔を見せる。次の料理に箸を進めようとすると、魔力が反応した。毒による影響を消し去る魔法だ。
つまり、そういうこと。俺はフィリスの手をつかんで、食べるのを止めさせる。
「いや、待て……。これ、毒じゃないか? 防御魔法に、引っかかったぞ」
「……検査。レックスのものにだけ、入っている。……どういうこと」
フィリスは、じっと村長を睨む。意に介した様子もなく、笑顔を浮かべている。その姿は、明らかに状況を理解しているもの。
半ば以上確信していたことが、完全に答えに変わった。
「おやおや、対応されてしまいましたか。これで終わっていれば、楽だったのですが」
そう言った瞬間、村を魔力が包み込む。そして、村中で魔力が広がっていった。