物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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600話 ひとつになって

 村長の屋敷に、一気に魔力の気配が近寄ってくる。それはつまり、村人たちがここに向けて進んできているということ。

 

 毒を盛られたことに気づいてから、反応が早すぎる。これは、通話かそれに類する魔法も使われているかもしれない。ミレアルは、徹底的に俺の優位性を潰そうとしているのだろうか。

 

 いや、今ミレアルの意図を考えても仕方ない。どの道、戦うしかないのだから。仮に洗脳だったとしても、同じこと。解除の手段が思い浮かばない以上、無意味だ。割り切るしかない。

 

 まあ、顔を見た感じだと洗脳の可能性は薄そうだが。忘我という感じでもなく、ただ愉悦だけが見て取れる。これは、力を持った優越感に近い反応のはず。

 

 つまるところ、力を手に入れて増長している可能性が高い。完全に真実を明かすことはできないにしろ、少しは楽に戦えそうだ。

 

「まったく、村人全員が敵か……? この感じ、どう考えても囲まれてるよな」

「……対応。レックスの敵は、私の敵。全員片付けるだけ」

 

 フィリスはあくまで淡々と敵に向き合っている。その事実が、俺に勇気をくれるような気がした。どんな敵が相手だろうと、ふたりなら勝てる。

 

 おそらく、ミレアルの加護は前回と違う。もっと厳しいと考えるのが、妥当なところ。

 

 いずれは、合一すらも通じなくなるのかもしれない。そうなったとしても、俺達なら道を切り開ける。そうだよな。

 

「いくら伝説のエルフと言えども、女神の加護を得た我々には叶わないでしょう」

 

 村長は、傲慢な笑みを浮かべている。その後ろに、村人たちが集まってきた。間違いなく、百を超える。

 

 だが、構うものか。どれほどの敵が相手だろうと、諦めたりしない。フィリスを奪わせはしない。こんなやつらのところで、誰が満たされるっていうんだ。

 

 剣を握れ。前を向け。魔力が尽きようが、すべてを吐き出せ。その先にだけ、俺たちの未来があるんだ。

 

「……否定。それに、どれほど強くても下ったりしない。レックスの敵には」

「なら、いくか! 剣魔合一(トゥルーブレイド)!」

「……同調。無謬剣(カオスブレイド)

 

 俺もフィリスも、早速合一という手札を切る。魔力を収束させて、それに自分を溶かし込む。お互いに、一気に内にあるものを解放させていった。

 

 だが、半壊すらしていない。やはり、ミレアルも対策を練ってきている。何度も何度も撃たなければ、とても全滅などさせられない。魔力が尽きるのが先か、それとも敵が倒れるのが先か。

 

 いや、悩んでいても無駄だ。俺のすべてを絞り尽くして、ただ戦うだけ。それだけだ。

 

「せいぜい数人倒した程度で、調子に乗らないでいただきましょうか!」

「我らは選ばれし存在! 何度倒されようと、何度でも蘇るまで!」

 

 そんな事を言いながら、陶酔した顔をしている。まさに狂信者といった様子。目も当てられない。

 

 とはいえ、間違いなく強敵。借り物の力だとしても、厄介極まりない。少しでも活路を見いだせるように、楔を打ってみるか。

 

「その割には、誰も彼も倒れたままみたいだが。所詮、捨て駒なんじゃないか?」

「……同意。ミレアルの愛だというのなら、ただの捨て駒としては使わない」

「知らぬということは、幸福なことよな。何を敵にしているかも知らずに」

 

 あまり揺れた様子はない。心から信じ切っているというのが、見れば分かる。まあ、見捨てられているのだろうが。帝国の時だって、何も変わらなかった。サジタリウス聖国に入った時だって、何度も復活したりはしなかった。

 

 つまり、ただの方便。ミレアルは、恐ろしいほどに残酷な女神みたいだ。

 

「どうでもいい。邪魔をするのなら、押し通るまで! 剣魔合一(トゥルーブレイド)!」

無謬剣(カオスブレイド)。確かに、状況は良くない」

 

 一度に切り裂けるのは、ほんの数人。100を数えるほどの敵に、あまりにも心もとない。今のままでは、不利そのもの。俺も分かっているが、フィリスが口に出すとは思わなかった。

 

 不安なのだろうか。なら、俺が振り払ってやらないと。地獄の底まで付き合うという覚悟を、ただ示すだけ。

 

「ああ。だが、関係ない。こんなくだらないやつらに、フィリスを渡せないよな!」

「たかが人間ごときが、たわけたことを!」

 

 敵は一気に俺達のもとに向かってくる。合一で反撃をしても、次々と。同じ手を繰り返していては、負ける。そう実感させられるだけの光景。

 

 ただ、フィリスはふわりと笑った。とても戦場とは思えないほど、穏やかに。

 

「……転機。レックス、私を信じてくれるのなら、手がある」

「言ってくれ。そんなこと、確認するまでもないだろ?」

「……歓喜。なら、合わせて。私たちの合一を、混ぜ合わせる」

 

 失敗したら、俺たちは元に戻れやしない。だが、構わない。信じてほしいと言われたのなら、信じ抜くだけ。どんな未来が待っていたとしても、後悔なんてするものか。

 

「いけるんだな。じゃあ、合わせるだけだ!」

 

 もう、合図すらいらなかった。ただ、俺たちは魔力を収束させていく。そして、同じところに向けて自分を溶かし込んだ。

 

無謬剣(カオスブレイド)!」

剣魔合一(トゥルーブレイド)!」

 

 何かが、重なり合う。きらめいたものが見えて、どこか多幸感に包まれていく。魔力に溶けた俺が、一粒一粒フィリスの手で制御される。お互いが消えないように、それでも混ざり合うように編み上げられる。

 

 フィリスが俺を大切にしている気持ちが、全身に伝わってくる。きっと、俺の気持ちもだろう。それだけで、絶対に勝てると思えた。

 

 俺たちの気持ちが重なり合って、同時に魔力を解放する。辺り一帯を、次元ごと切り裂くような感覚があった。

 

 気づいたら、敵はすべて真っ二つになっていた。眼の前にいるフィリスと目が合って、お互いに笑顔を向けあった。

 

「まさか、一撃で終わるとは……。フィリスに制御を任せていただけだったのは、情けないが」

「……否定。レックスが私にすべてを委ねてくれたから、成立した」

 

 フィリスが俺ごと魔力を操作しているのは、分かった。抵抗なんて、思いつきすらしなかった。たぶん、それが成功の秘訣だったんだろう。お互いを残したまま、混ざり合うためには。

 

 赤と青の糸がうまく編み込まれるみたいに、ちゃんと形をキープする。それが、フィリスの魔力操作。圧倒的な技術。おそらく、誰にも真似なんてできない。俺の師匠は、やはり最高だ。あらためて、思い知った。

 

「なんとなく、フィリスの感情が伝わってきた気がするよ。俺のことを、どれだけ大切にしてくれているか」

「……同様。私にも、レックスの気持ちが伝わった。心から必要としてくれていること」

「俺たちは、似た者同士なのかもな。お互いに、相手を信頼し合っている」

「……肯定。私は、レックスとなら合わせられると確信していた」

 

 そう言って、フィリスははにかむ。初めて見た表情は、きっと未来永劫忘れない。しばらく、静かな時間が流れた。

 

 落ち着いてこそいたものの、本題に戻らないといけない。そう感じて、俺から話しかける。

 

「しかし、困ったものだ。他の村に向かうのも、怖くなってきたな」

「……同意。ミレアルの影響がどこまであるのか、読めない」

「サジタリウス聖国の全体が敵ではないと、信じたいが……」

「……疑念。どこまでが敵なのか、最後まで分からない」

「まあ、当初の目的を達成してからだな。それから敵が増えるようなら、どうするか……」

 

 もしかしたら、とてつもない強敵が襲いかかるのかもしれない。それでも、フィリスとなら絶対に乗り越えられる。そう確信できていた。

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