物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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601話 確かめ合う誓い

 結局、聖都までは集落に寄らないことにした。敵対される可能性があるのはもちろんのことだが、仮に友好的なエルフがいても巻き込みかねない。それを考えると、やはり避けた方が良いという結論になる。

 

 ミレアルの意図は、まだ分からない。とはいえ、サジタリウス聖国そのものを滅ぼしてまで俺を攻撃しようとはしていない様子。それなら、間断なく俺にエルフを襲いかからせ続けるだけでいいからな。

 

 ひとまず、俺たちは森を進んでいく。獣を狩ったり採集をしたりしながら、夜は魔法で寝床を作って。

 

 俺は獣を狩ることはできるし、毒を取り除くこともできる。ただ、火起こしやら寝床づくりやらでは、大きくフィリスの助けを得ていた。

 

 今も、フィリスが魔法で野草や肉を調理している。俺はほとんど待つだけ。情けなくて、ため息が出てきそうだ。サバイバル技術の欠如が、ここにきて響いている。

 

 とはいえ、素人が手伝っても邪魔になるだけ。少しでも消耗を抑えたい現状では、何もしないことが正解。分かっているからこそ、もどかしくなる。座って待っていたのだが、軽く貧乏ゆすりまでしてしまった。

 

 しばらくして、フィリスは皿を持ってくる。土魔法で生み出されたもので、その場でだけ使う。

 

 野草や獣だけにしては、かなりいい匂いがする。見た目的には、野菜炒めが近い。そこまで凝った調理をするだけの機材も食材もないのだから、当たり前ではあるが。むしろ、かなり頑張ってくれたはず。

 

 この状況で彩りを求めるようなやつがいたら、正気を疑う。もちろん、俺だって不満をこぼすつもりはない。仮にまずかったとしても、全部食べるだけ。贅沢を言える状況じゃないのは、お互い様なのだから。

 

「……完成。レックス、食べて」

「悪いな。俺がもう少し料理できれば、いくらか手伝えたんだが」

「……許容。レックスは貴族で魔法使い。できないのが普通」

 

 まるで気にした様子もなく、淡々と語っている。完全に足を引っ張っているのに、とても優しい。

 

 今の俺は、フィリスにおんぶに抱っこという有様。それを受け入れてくれるのだから、どれほどの暖かさだろうか。だからこそ、迷惑をかけているという事実が重くのしかかる。

 

 前世での家事程度の技術では、とても役に立てない。獣をさばくことも、コンロ無しで火を起こすこともできないのだから。

 

 まったくもって、うつむきたいくらいだ。本当に困っているのは、フィリスのはずなのにな。

 

「環境的には、そうなんだが。なんというか、申し訳ない」

「……機会。私の料理をレックスが食べるのは、楽しい」

 

 少しだけ、口が細くなっている。気づかい半分、本心半分というところだろうか。

 

 まあ、申し訳ないといくら言ったところで、俺が役に立てるわけじゃない。ここで問答を続けても、お互いが困るだけ。今は諦めて、食事に集中すべき。

 

 俺だって、ちゃんと食べて体力をつけないといけない。変に遠慮して戦いに引きずれば、それは最悪なのだから。フィリスに頭を下げて、皿を受け取った。

 

「なら、しっかり味わって食べないとな。……うん、うまい」

「……満足。顔を見れば、本当に美味しいと思っているのは分かる」

 

 満たされたように、フィリスは頷いている。俺が美味しいと思っていることを、本気で喜んでくれているんだ。

 

 こういう場で思うことではないかもしれないが、とても魅力的というか。意外な一面を知れて嬉しいというか。

 

 なんだかんだで、フィリスにも普通の女の人みたいなところもあるんだよな。そういう姿に気づけたことだけは、今の状況に感謝したい。

 

「世辞だと思っていたのか? 俺としては、何度でも食べたいくらいだな」

「……充足。こうしていると、夫婦みたい」

 

 しっとりと微笑んでいる。手まで握られて、まるで恋人みたいだとすら思う。フィリスと俺の差を考えると、どこまで本気かは気になるところではあるが。

 

 あんまり誤魔化したくもないが、だからといって今すぐに受け入れることもできない。どう返すのが良いか、少し悩む。

 

 とりあえず、一般論として返すことにした。

 

「確かに、そうか。教師と生徒で結婚なんて、悪いことをしている気もするが」

「……疑問。その関係で結婚は、問題?」

「どうなんだろうな。俺が教師の立場なら、生徒に手は出したくないが。フィリスがダメという意味ではないぞ」

「……理性。レックスは、自分の立場を悪用したくない?」

 

 その言葉は、俺の本心にかなり近いと思う。平社員を社長が口説いて、そう断れるはずもない。分かっているからこそ、好きになるのが難しい相手もいる。

 

 なんとなく、シュテルやサラは恋愛に近い好意を持ってくれているとは思う。それでも、俺の方から好意を告げることはできない。俺の本心がどうであれ。

 

「まあ、そういうことだな。俺から配下に手を出すのも、問題だろうし」

「……仮定。相手が手を出されることを望んでいても?」

「本当に望んでいるのなら、悪いとは思わないが。立場上、嫌とは言えないだろう」

「……心理。本当はどう思っているか、判断できない?」

「そういうことになるな。みんなから大事に思われていることは、信じているつもりではあるが……」

「……臆病。そういう心理も、レックスにはあるみたい」

 

 淡々と語られる言葉が、胸に突き刺さるような感覚があった。臆病だと言われたら、確かにそうなのだろう。みんなの気持ちは、薄々とは分かっているのだから。

 

 それでも、今すぐに答えを出すことはできない。出したところで、何の意味もない。仮に思いが通じ合ったところで、結ばれることができるとは限らない。両想いなら、余計な傷を残すだけ。

 

 言い訳なのかもしれないが、それが今の俺の考えだ。

 

「否定はできないな。まあ、今となっては自由に恋愛は厳しい気はするが」

「……立場。皇帝と結婚したい相手は、いくらでもいる」

「もっと言えば、帝国の利益になる相手もな。まったく、困ったものだ」

「……我慢。レックスは、自分の感情を抑え込んでいる?」

 

 少しだけ、心配そうに瞳が揺れているのが見えた。こんな時でも、師として導いてくれるんだな。どこまで尊敬すれば良いのか、もはや分からない。

 

 俺にだって、望みはある。だが、もうほとんどは叶っているんだ。ミレアルの試練を無事に乗り越えて、後は邪神をどうにかする。そのふたつを達成できれば、十分。俺は、感情を誤魔化しているわけじゃない。本当に、大切な人と平和に過ごしたいだけ。

 

「ないと言えば嘘になるが、そこまで気にしていないな。仲間との時間さえあれば、俺は満足なんだ」

「……理解。なら、私も手伝う。レックスが、大切な人といる時間を増やすために」

「なら、フィリスの望みも聞かせてくれ。俺も、それを手伝いたいからな」

「……単純。レックスと、これからもずっと一緒にいること」

 

 もう一度、フィリスは俺の手を取った。優しい笑顔を見せてくれる。なんというか、表情豊かになった気がするな。

 

 そんな顔をまた見られるように、負けていられない。どんな試練だって、乗り越えるだけ。

 

「ありがとう。だったら、ミレアルの陰謀も打ち砕いてやらないとな」

「……同意。サジタリウス聖国に、私たちの邪魔はさせない」

「一歩一歩、近づいている。あとは、勝つだけだ。俺たちなら、できるさ」

「……決意。レックスと一緒に、絶対に打ち破る」

「そうだな。フィリスとの未来は、誰にも奪わせたりしない」

「……協力。これが終わっても、ずっと」

「ああ。俺たちは、ずっと一緒だ」

 

 俺たちは、指切りをした。そこにこもった気持ちは、とても強く伝わってきた。

 

 絶対に、破られることのない約束。そうだよな、フィリス。

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