物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
聖都に向けて進んでいくと、目の前に魔法陣が現れた。そして、そこから大勢のエルフが出てくる。パッと見では数に当たりをつけられないほどで、とにかく多い。下手したら、1000とかいるんじゃないだろうか。
そして、その誰もが
敵は、まだ動いてこない。その中心にいる豪勢なローブを着た男が、一歩前に出てくる。
「貴様は何者かなど問うまい。フィリスは、我にこそふさわしい」
「……国王。魔力が少ないと聞いていたけれど」
なるほど。そもそも、王も俺たちの敵だったということか。フィリスを王にしたいというのが嘘だったのか、それとも別の理由で敵になったのか。
いずれにせよ、俺たちの前に出てきた以上は容赦しない。降伏するというのであれば、話は別だが、まあ、ありえないよな。
「理由なんて、聞くまでもないよな。借り物の力で、ご苦労なことだ」
「この威光が分からぬとは、愚かなこと。力の差も分からぬか?」
まあ、そこそこの魔力といったところか。皇帝より魔力を感じない。やはり、ミレアルによる調整が入っている可能性が高い。
おそらく、敵が千人以上いることを前提に、それでも俺たちが勝てるようにバランスを整えている。まるで、クリアできないゲームは面白くないというかのように。
となると、俺が女神の決めた主人公だったりするのだろうか。役割としては、近い気もする。そうなると、俺を殺そうとしていないことにも説明がつくからな。
まあ、当たっていたら本当にとんでもない邪神だ。闇魔法の根源、スティルクルドよりもよほど。俺の人生を、物語として楽しんでいるようなもの。せめて、もう少しマシな理由であってほしいが。
目の前の敵は、所詮は中ボス程度の扱いなのかもな。ラスボスは、誰だろうか。スティルクルドなのか、ミレアルなのか。はたまた、それ以外の何かか。
いや、余計なことを考えても仕方ない。今は、ちゃんと集中しなければ。変に考え込んで隙を作るのは、良くない。
「その割に、ずいぶんな人数で囲んでくるじゃないか。自信がないのか?」
「王の力とは、しもべの力。生まれながらの王でなければ、分かるまいよ」
腕を組みながら、見下すように語っている。なんというか、論理が破綻している。ミレアルの力を誇っている割に、しもべの力がどうとか言っているし。
まあ、コンプレックスの塊みたいな存在なのは分かる。とりあえず、適当に煽って冷静さを削いでいくか。言葉をぶつけるだけで勝ちに近づくのなら、やらない理由がない。
「まるで周囲に認められていなかったそうじゃないか。よく自信満々でいられるものだ」
「我こそが、女神に選ばれし存在。小さき民など、気にとめる必要もない」
「……堕落。王としても魔法使いとしても、見るべきところはない」
「優れた子を生むための母体に、意思など必要ない。そういうことになろう」
眉をひそめて、そんな事を言っている。フィリスに反論されたのが、よほど気に食わなかったらしい。小物過ぎて、少し面白くなってきたかもな。もう少しつついてやれば、良い感じに味方の足を引っ張ってくれそうだ。
「まったく、小さなことだ。少し軽んじられたくらいで、ムキになって」
「……同感。レックスとは、比べる価値もない。あらゆる意味で、無駄」
「後悔したところで、遅い。貴様らに未来などないのだ」
にらみつけてくるものの、まるで圧を感じない。弱い犬ほどよく吠えるというのを、体現している。
実際のところ、皇帝より魔力が少ない。まあ、この王だけなら適当に戦っても勝てるだろう。そんな油断をする気はないが。
とにかく、馬鹿みたいに怒って味方を巻き込む魔法でも撃ってくれれば、かなり楽なんだが。そこまで誘導できないものだろうか。流石に無理か? まあ、試すだけ試してみよう。問答の隙に魔力をためているとか、そういう動きも見えないのだから。
つまり、どれだけ挑発しても俺たちが得するだけ。もっともっと続けるべき。
「同じようなことを言ったやつがいたな。ミレアルの加護を得て、俺の足元にも及ばなかったやつが」
「……皇帝。レックスと一対一ですら、勝負にならなかった」
「そのようなものと我を同じにすると? 尊き血の何たるかを知らぬらしい。雑草らしいことよ」
「ずっとそう言われてきたのが、目に見えているぞ。自分が言われて嫌だったことを、人に言うだけか?」
「……単純。知性がなければ、的確に相手を傷つけることすらできない。哀れなもの」
「き、貴様ら……。知ったような口を効く、愚か者どもが!」
プルプルと震えながら叫んでいた。よほど効果的だったみたいだな。舌戦すらも、経験が少ないのかもしれない。まあ、周囲から軽んじられていたそうだからな。理屈としては通る。
さて、どれだけ追撃するか。もっともっと追い詰めた方が、俺達にとっては有利になりそうだ。
「図星か。思っていた以上に、小物だったな。これは、魔法の程度も知れるというもの」
「……同意。捨て駒だとも知らずに、ただ女神に甘えた末路」
「我は女神に選ばれしもの! 選ばれなかった貴様らが羨んでも、決して届かぬのだ!」
それで、皇帝より少ない魔力だと。突きつけてやるのが良いか、はたまた適当に煽るべきか。
いずれにせよ、女神に選ばれたという事実を否定するのは確実。なら、客観的な事実と一緒にぶつけた方が効果的だな。よし。
「選ばれて、皇帝よりも魔力が少ないのか。俺の方が、よほど神に愛されているらしい。なあ、フィリス」
「……共感。与えられた力の程度からして、さほど愛なんて感じない」
「実際、すぐに証明は終わりそうだな。魔力の使い方が、下手すぎる」
「……練度。私の研鑽の、足元にも及ばない。だから、あなた達は負ける」
もはや、顔を真っ赤にしている。そろそろ戦いが始まりそうだな。いい加減、我慢の限界だろう。さて、メチャクチャな狙いをしてくれよ。雑な魔法を使ってくれれば、こちらが有利になるのだから。
やはり、与えられた力に頼るだけの人間は、挑発に弱い。
「言わせておけば、小物どもが! もう良い! 我に選ばれる意味も知らぬ愚か者どもが!」
魔力を収束させているのが見える。周囲の動きなど、目に入っていない様子。さて、どれだけの味方を巻き込んでくれるやら。
味方同士で混乱でもしてくれれば、もっと都合が良い。さすがにそこまでは期待薄かもしれないが、とにかく怒りで冷静な判断はできない。まともな指揮はできないのが決まったようなもの。
「さて、来るみたいだぞ。いけるか、フィリス?」
「……無粋。聞かれるまでもないこと。分かるはず、レックス」
「ああ、そうだな! あっけなく、終わらせてやろう!」
フィリスと俺は、敵に向かい合った。何も言わずとも、俺たちの気持ちは一つだった。