物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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605話 新しい関係

 敵を倒し終えて、ミレアルの動きも感じない。ということで、聖都へと入っていく。人の賑わいは、まるでない。一瞬、すべての民が戦力になったのかと思ったほどだ。

 

 建物なんかはしっかりしているが、ゴーストタウンじみた雰囲気がある。それでも、魔力の気配はまだ残っている。完全に人がいないわけではないみたいだ。

 

「一応、人の気配はあるな。とはいえ、隠れているのか?」

「……対策。王たちに目をつけられないように、潜んでいる」

 

 フィリスの意見は、納得できる。そして、言わなかったこともあるはずだ。それは、俺たちに対する警戒。何者かが入ってきて、敵か味方かも分からない。

 

 そして、さっきまで派手に戦っていた。となると、目をつけられないようにしているのだろう。相手の気持ちに立ってみると、俺たちは怪しいどころじゃない。最悪、王が去って別の脅威が現れたとすら思われているかもしれない。

 

 つまり、生き残りを探すのも難しい。大手を振って歩けば、それこそ信頼が失われるはず。

 

「ああ、確かにありそうだ。そうなると、呼びかけるのもな」

「すみません。お話、聞かせてもらいました~」

 

 声がかけられて、そちらを振り向く。なんというか、おっとりした感じのエルフだ。いろいろと目立ちそうだなというのが、素直な感想といったところ。

 

 とりあえず、第一村人は発見できた。まずはここから、友好的な関係の足がかりにしていければ。

 

「……質問。あなたの名前は、ニッカ?」

「はい、その通りです~。どうしてご存知なのでしょうか~」

 

 目を細めてニコニコとしながら、ニッカは俺たちのことを見ている。名前を知っているあたり、警戒しているはず。それなのに、まるで表に出していない。

 

 これは、思ったより厄介かもしれないな。感情を完全に隠して、俺たちと接しているように思えてきた。まさか、以前の村人のように殺しにかかってくることはないだろうが。

 

「……情報。アリアから聞いていたものと、一致している」

 

 フィリスは、じっとある一点を見ていた。まあ、男の俺が言及するのはまずい。しいて言うのなら、女性らしいという言葉にはとにかく納得できる。というか、よく男に言えたなという感じ。

 

 俺も、気を抜けば目を吸い寄せられてしまいそうだ。初対面の相手にできることではないから、当然頬を噛んで我慢した。

 

 ニッカは、相変わらずにこやかなまま。優しそうな人ではあるが、だからこそ少し怖い気もする。俺たちの立場は察しているだろうに、不信を少しも表に出さない。

 

 こういうのが、以前の村人を超える演技というか、百戦錬磨というのかもしれないな。

 

「まあ。アリアさんのお知り合いでしたか~。そういえば、聞いていましたね~」

「なら、話は早いな。エルフの王を名乗るやつを討ち取ったんだが、そちらはどうする?」

「まあ、そうでしたか~。では、お礼をしないといけませんね~」

 

 息が掛かってくるくらいに、近寄ってくる。胸が少し当たっていて、でも言及するのもまずい。

 

 色仕掛けを意識してやっているのなら、むしろ助かるくらいだ。天然だと、いろいろと厳しい。本当に、どういう立ち回りをすれば良いんだ。

 

「そ、そんなに近づかれると、困る……」

「……愉悦。やはり、レックスの反応は予想通り」

「あらあら。アリアさんから、私の詳しい話を聞いていたんですか~?」

「とても魅力的な人だと、言われていてな。実際、穏やかで話しやすそうだ」

「それは嬉しいですね~。みなさんにも、紹介しないと~」

 

 口元に手を当てて、にこやかなまま。とりあえず、最低限の線は突破できても考えて良いのだろうか。少なくとも、他のエルフに会わせてもいいと判断できたと。

 

 ずっとニコニコしているから、とにかく感情が分からない。まさか、笑顔を怖いと思う日が来るだなんてな。想像もしていなかった。

 

 ひとまず、今のところはニッカと仲良くすることを目指した方が良いかもしれない。このレベルが複数人いたら、俺は終わりだ。

 

「とりあえず、詳しい状況を聞かせてもらって良いか? フィリスが狙われていて、それを跳ね除けただけなんだ」

「あら、急ぎすぎてしまったみたいですね~。私たちを、助けに来てくれたのかと~」

 

 手を取って、微笑みかけてくる。感謝の気持ちは、確かにあるように見える。ただ、なんとなく測られているような気もする。

 

 これが素直な好意なら、疑っているのは情けないというか、恥ずかしい。ただ、俺を試しているというのなら、ちゃんと考えて返事をしないといけない。

 

 少なくとも、増長した態度を見せるのは論外だ。ここはまっすぐにいこう。

 

「申し訳ないが、俺たちは自分を守っただけなんだ。いや、困ったことがあるのなら言ってくれていいが」

「まあ、お優しいのですね~。では、少しだけ説明をさせてください~」

 

 そこからの説明は、半分は予想通り。あの王は、エルフを激しく支配しようとしていたのだという。急に強くなって、反対勢力を殺したり、女を奪ったりとやりたい放題だったようだ。

 

 だから、ニッカを始めとする穏健派は目立たないように隠れて過ごしていたと。家に引きこもっているだけの人から、本格的に隠れ家に潜んでいる人まで。とにかく、それぞれのやり方で隠れていたらしい。

 

 それで、俺たちの戦いによる影響も分かっていたと。だから、ニッカが代表として様子を見に来たのだとか。

 

 細かい話をしても良いと思う程度には、信頼してくれたのだと思う。なら、論外だとは判断されていないはず。この調子で、話を進めていこう。

 

「なるほど。つまり、あの王は急に力を得て増長したということだな」

「はい~。このままでは、私たちも大変なことになるかと思っていました~」

「……暴虐。降って湧いた力を手に入れたものは、そうなりやすい」

「なら、結果的にはニッカさんたちを助けられたわけだ。運が良かったな」

「あなたたちは、私たちの恩人です~。隠れるのにも、限界がありましたから~」

 

 俺の両手を握りしめて、胸のあたりで抱えてくる。本気で感謝しているように見えるが、俺に取り入ろうとしているのかどうなのか。

 

 できれば信じたい。アリアの知り合いでもあるというのだし、敵に回すということは避けたい。知り合い同士が悪い関係になれば、アリアも悲しむだろう。

 

 それに、サジタリウス聖国をどうするかも大事なこと。これまで通り距離を取るのだとしても、新しく関係を作るのだとしても。お互いがちゃんといい関係になれるように、エルフの様子も見ないといけない。

 

 王をどうするのかという問題も、出てくる。まあ、俺が口出しすることではないとは思うが。

 

「それは何よりだ。ところで、今後についての話もしたいな。代表者は、いるのか?」

「でしたら、私が~。これでも、長老のようなことをしていたんです~」

 

 とりあえず、ニッカはエルフの中でも立場がある存在らしい。なら、とりあえずはニッカとの関係を中心に考えて良さそうだ。

 

 それに、長老だということにも納得できる。腹の底が読めない感じも、立場ゆえのものだということ。一般的なエルフも全部同じではなさそうで、助かる。ちょっと息を吐きたいくらい。

 

「それは助かる。ツテも何もなくて、誰に話をすれば良いのか分からなかったんだ」

「……対応。私の名前を出しても良い。当面は、早さが大事」

「そうですね~。とても大きな動きがありましたから~。みんなにも、もう大丈夫だって伝えないと~」

「とりあえず、ある程度意見をまとめてくれると助かる。俺たちがどうするべきかにも、関わってくるからな」

「分かりました~。では、今後は私が窓口になりますね~」

 

 そう言って、ニッカはまた微笑んだ。さて、これからサジタリウス聖国との関係はどうなっていくことか。しっかりと、様子を見ないとな。

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