物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

608 / 622
607話 厄介な策略

 ニッカの求める演説をするために、何度か打ち合わせを行った。その間はニッカの屋敷に滞在して、かなり手の込んだ歓待を受けていた。

 

 食事から風呂から寝床まで、全部世話されている。来客と考えれば、ある意味では当然かもしれない。特に、俺が暴走でもすれば止める手段はないのだから。しっかりと抑えるために媚びるような動きをしても、何もおかしくはない。

 

 ということで、素直に満喫しつつ感謝もしていくというバランスで受け入れることにした。変に遠慮してしまえば、ニッカの警戒は深まる。それは容易に想像できたからな。

 

 そして、いよいよ集会の本番がやってくる。しっかりと台本を覚えて、準備も万端といったところ。いい加減慣れてきた頃合いだし、うまくやれるはずだ。

 

「では、レックスさん。お願いしますね~。私が、付き添いますので~」

 

 ニッカは俺と腕を組んでくる。柔らかい感触が腕どころか足にまで伝わってきて、花のような甘い匂いも届いてくる。

 

 エルフの庇護者であると伝えるのだから、親密さのアピールは大事だ。俺とニッカがちゃんと打ち解けていることは、伝えないといけない。

 

 だからこそ、あんまり拒絶もできないんだよな。鼻歌交じりにニコニコしているので、気を抜かれるのもあるが。

 

「ち、近いな……。いや、必要なのは分かるが……」

「……諦観。今のレックスに必要なもの」

 

 フィリスは無表情で俺のことを見ている。どんな感情なのか分からないのが、とても困ってしまう。いや、以前の反応からするに楽しんでいるのだとは思うが。

 

 確かに、逃げ出す道はないのだから諦めるしかない。理屈では分かる。だが、こんな恥ずかしい状況を素直に受け入れろというのか。もう少し妥協点を教えてくれてもいいじゃないか。まったく。

 

「か、勘弁してくれ……」

「うふふ、初々しくて可愛らしいです~。レックスさんの魅力ですね~」

「そ、その話はいいだろう。じゃあ、行こうか」

「はい~。では、予定通りに~」

 

 結局俺は、腕を組んだままエスコートされることになった。一段高い舞台みたいなところに歩いていき、階段のようなものを登る。

 

 その先には、大勢のエルフが見えた。パッと見、軽く100人は超えている。集会というのも納得だった。

 

 ニッカは俺に向けて微笑みかけ、そしてエルフたちに向かい合う。フィリスも、俺たちの隣に立っていた。

 

「こちらのレックスさんが、暴虐の王を討ち果たしてくださいました。そして、私たちの味方となってくださります~」

「その通りだ。皆を守れるように、全力を尽くさせてくれ」

「……回答。私たちは、こちらに付く。納得できないのなら、それも構わない」

 

 俺たちの言葉に、エルフたちはざわついていく。細かい話までは聞こえないが、困惑のようなものが見える気もした。

 

 話は通してあるはずなのだが、誤解でもあったのだろうか。それとも、ニッカの手違いだろうか。

 

「有力な庇護者を得られた。そう考えるしか、ないのでしょうね」

「さすがはアクエリアス大戦からの生き残りということか……」

「これからは、レックスさんと共に、サジタリウス聖国の発展に向けて進んでいきましょう~」

 

 穏やかな笑顔のまま、ニッカは続けていく。こんな状況でアドリブが取れるはずもなく、俺は台本通りに話を続けた。

 

「皆がより良い生活をできるように、あらゆる手を尽くす。必ず、皆を幸福にしてみせる」

「ニッカ様、ばんざーい!」

「我らの未来に、栄光あれ!」

 

 ほとんどのエルフが、斉唱していた。つまり、俺たちの宣言は受け入れられた様子。下がる時に軽く息をついて、ニッカに腕を組まれたまま屋敷へと戻っていった。

 

 相変わらずニコニコしたままのニッカは、一度離れて軽食を運んでくる。その間、ずっと鼻歌が聞こえていた。

 

 戻ってきたニッカも、変わらぬ笑顔のまま。上機嫌そうに、頭を下げる。そして、俺の手を取って胸元で抱える。また、体温がじんわりと伝わってきた。

 

「ありがとうございました~。おかげで、順調に進みました~」

「……意図。レックスに、少しは説明して」

 

 フィリスは無表情のままニッカに伝える。察するに、俺だけ気づいていなかった意図があるのだろう。違和感は、確かにあった。それだろうな。

 

「全員が納得しているような雰囲気ではなかったが、それか?」

「はい~。いくつかの派閥に分かれていたのですが、これで素早くまとまりそうです~」

 

 悪びれる様子もなく、さっきまでと同じ笑顔で話している。ニッカに感じていた底知れなさは、当たっていたみたいだ。

 

 好意的な顔をして、平気で俺を利用してくる。ここまで情報があれば、さすがに狙いは分かる。

 

 つまるところ、敵対派閥に圧力をかけるための武力として俺を使ってきたということ。王を倒した存在だということは、エルフたちに伝わっていた様子。

 

 俺という後ろ盾がいるのだから、愚かなことは考えるな。そういう、ある種の脅しを実行した。にこやかな顔をして、とんでもない策略を練っていたものだ。

 

 ニッカだけを窓口とさせていたのも、エルフの現状を正しく伝えないためか。まったくもって、ハメられたとしか言いようがない。

 

「やってくれるな、ニッカ。私たちというのは、ニッカ派閥ということだったのか」

「もちろん、レックスさんに損はさせませんよ~。力では負けているのは、事実ですから~」

 

 ぎゅっと、俺の手を握りしめてくる。柔らかさと体温が、また染み込んでくる。こうなってくると、間違いなく計算だ。

 

 俺に対して誘惑しているというのもある。動揺させて隙を作っているのもあるはず。そして同時に、俺の反応を観察もしていたのだろう。どの程度友好的か、あるいは調子に乗るのかなんかを体を使って確かめていた。

 

 こうして考えると、一手にかなりの意図が込められている。俺も参考にすべきなのかもしれない。

 

「……既知。ニッカの能力は、レックスにとっても必要。いい機会だった」

「フィリスも分かっていたのか……。俺がうかつだったということか……」

「うふふ。レックスさんが同じような手に引っかかりそうな時は、私が教えますね~」

 

 やはり、意図を持って引っかけてきたということ。しれっと白状してくる。だが、だからこそ頼りになるというのも分かる。間違いなく、俺の弱いところだからな。

 

 ミルラやジャンとはまた別種の知性を持っていることは間違いない。政治的な強さと言うべきか。

 

「心強い味方を手に入れたと思うべきか。裏切ってくれるなよ、ニッカ」

「もちろんです~。レックスさんという人間は、気に入っていますから~」

「……真実。アリアも、分かっていてレックスに紹介していた」

「フィリスさんに、手紙を渡していただきましたからね~。できる形で、支えますよ~」

 

 アリアが信じて良いと判断したのだから、本気で悪人というわけではないはずだ。会っていない期間で変わった可能性もあるが、フィリスも問題ないと判断している。

 

 少なくとも今は、貴重なサジタリウス聖国での味方だと思っていい。言葉の裏を読まなければ、また何かを仕掛けられそうではあるが。

 

「その分の利益も、しっかり持っていきながらか?」

「あらあら、鋭くなってしまいましたね~。ですが、レックスさん好みだと思いますよ~」

「お互いに得のある取引というわけか。分かった。よろしく頼む、ニッカ」

「もちろんです~。私たちの未来のために、全力を尽くしますね~」

 

 そう言って、笑顔を深めていた。ニッカ派閥に取り込まれたことは、良いことだったと言えるのか。それは、これからの結果が証明していくのだろう。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。