物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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608話 多くの策略

 ニッカは俺との協力関係を築いていると言えるのかどうなのか。こちらを利用しようという意図があるのは、俺にも分かる。ただ、エルフに対するチャンネルがないのも事実。

 

 今から誰かツテを作れるかというと、かなり厳しいのが実情。勝手にサジタリウス聖国がうまく回ってくれるのなら、別にそれでも構わない。ただ、望み薄だろうな。

 

 そうなってくると、今のところはニッカに頼るしかない。相手もそれが分かっているから、最大限に活用してくるはずだ。

 

 ということで、まるで油断のできない状況が続いている。何なら、ミレアルの加護を受けた敵と戦っていた時の方が気が楽だったかもしれない。

 

 そんなニッカは、今日もにこやかに話しかけてくる。

 

「レックスさんに、これから手伝っていただきたいことがあるんです~」

 

 穏やかなお姉さんという笑顔なのだが、かなり腹黒だということは分かっている。素直に交渉したところで、俺は後手に回るしかない。

 

 となると、ある程度は相手に主導権を渡すのが正解だろう。変に優位を取ろうとすれば、その隙をつかれて全部むしり取られかねない。

 

 俺には難しい駆け引きなどできない。分かっているのなら、いっそ開き直るべき。それが、せめてものマシな選択というもの。

 

「全部意図を話せとは言わないが、話せるだけは話してくれよ」

「警戒されてしまって、寂しいです~。私は、こんなにレックスさんを想っているのに~」

 

 腕を組んで、いろいろなところを押し付けてくる。その上で、上目使いで見てくる。これが誘惑じゃなかったら、何だというのか。

 

 ニッカと出会ったばかりの頃なら、素直な好意だと信じられたかもしれない。だが、少なくとも今は無理だ。とんでもないやつだよな。俺が疑っていることなんて、とっくに理解しているだろうに。

 

 メンタルが強いというか、ずうずうしいというか。俺には取れない戦術だというのが、よく分かる。

 

 だからこそ、本当に味方となってくれれば心強いんだよな。まあ、たぶんこっそり自分の利益を確保するくらいはするだろうが。

 

「いくらなんでも、わざとらしすぎるぞ。なあ、フィリス」

「……正解。本命の狙いをごまかすために、あえて露骨なことをしている」

 

 フィリスの方を見ると、そんな事を言われた。いわゆるミスディレクションに近いことだろうか。誘惑に対策している内に、警戒の緩い別の方向から攻めるみたいな。

 

 確かに、狙いを看破したと思っていた部分はあるかもしれない。単純な誘惑だと。その裏で、しっかりと別の狙いを潜ませていたということ。やはり、俺が戦えるような相手ではない。

 

 フィリスがいてくれなければ、今も手のひらの上で転がされていただろう。

 

 狙いを潰されたはずのニッカは、それでもニコニコし続けている。相変わらず、俺と腕を組んだままだ。信じられないほどの怪物と、俺は相対しているのかもしれない。

 

「今回は、フィリスさんもレックス様の味方なんですね~」

「厄介ではあるが、確かに助かるんだよな。比較的安全な状況で実践できるのは」

「レックスさんは、前向きですね~。とても好ましくて、良いですよ~」

 

 抱きつく力を、より強めてくる。柔らかい感触と甘い匂いがずっと届いてきて、気になってしまう。こうやって集中力を奪う狙いがあるのだろうか。

 

 とはいえ、露骨に遠ざけるのもそれはそれで弱みをさらしていることになる。どう対応するのが正解か、難しい。

 

 ひとまず、俺にできることは素直に話をすることだけ。起死回生の一手などないと理解して、少しでも悪くない選択をするだけ。

 

 将棋のプロに対して素人が勝とうとするのは無駄。どこまでマシな負け方をできるかを考えるべき。つまり、そういうことだ。

 

「まったく、大した女だ。それで、本題を話してくれるか?」

「サジタリウス聖国は、多くの戦力を失ってしまいました~。そこで、なにか補填できればと~」

「俺がサジタリウス聖国の駒になれという話なら、断るぞ」

「……本命。もう少し簡単な話をすることで、飲み込みやすくする」

 

 ドア・イン・ザ・フェイスだったか。確か、難しい要求をして断らせてから、もっと簡単な要求をする手段だったよな。そうすることで、案外楽だと思わせるみたいな。

 

 まあ、相手から話を振られたわけではないが。俺の回答まで読まれているのなら、もう白旗を上げるしかない。

 

 とりあえず、しっかりと集中して聞いていこう。なにか、俺の不利益を隠していないかを。

 

「そういう手段も、ありますね~。でも、今回は違います~。結界のようなものを貼るお手伝いをしていただきたいんです~」

「フィリス、そういう魔法はあるのか?」

「……肯定。この国に入る時にも、張られていた」

 

 確かに、あった。そうなると、急に変な要求をしているわけではないか。おそらく、今回は断らせる前提の無理難題ではない。

 

 つまり、本命か? とにかく、続きを聞こう。

 

「ですが、術者が死んでしまったんです~。代替できなければ、皆さんが安心できません~」

「俺が結界を張るのだと、根本的な問題解決にはならないか……」

「やはり、レックスさんは頭の回転が早いですね~。素晴らしいです~」

 

 ニッカは片手だけ抱きついている姿勢に変えて、うなじのあたりを撫でてくる。

 

「今度は褒め殺しか? そういう手は通用しないぞ」

「うふふ、そんなに嫌われたら、困っちゃいます。私は、レックスさんともっと仲良くしたいんですよ~?」

 

 また次は、耳元でささやいてくる。色気たっぷりの声で、誘惑するように。あらゆる手段で、俺の弱みを突いてこようとしている。

 

「なら、そっちの狙いをハッキリと言ってくれ。それが、俺の信頼を得る道だ」

「でしたら、遠慮なく~。結界を張れる魔道具を、販売してほしいんです~」

 

 魔道具を知られているとなると、少なくとも王国か帝国にスパイが入っていることになる。エルフの多さを考えると、王国だろうか。まさか、アリアが情報を流しているはずもない。

 

 いや、アリアとも文通をしているということは、他にも知り合いがいる可能性は高い。そういうところから情報を引っ張ってきて、総合的にまとめているのだろうか。

 

 素人考えではあるが、理論上はできそうな気がする。ニッカほどの能力があれば、おかしくはない。

 

 いや、情報を知られた理由は、いま考えても仕方ない。とにかく、提案を受けるべきかどうか。それを考えるのが一番大事なこと。

 

 とはいえ、マリンたち技術者やミルラたち戦略組の意見も聞かなくては話にならない。ここで押し通そうとしてくるようなら、警戒を強めるべきだろうな。今すぐに決めてくださいと言われたら、ニッカは危険だ。

 

「俺の一存では決められないな。いったん、仲間と相談して良いか?」

「もちろんです~。レックスさんを罠にはめるつもりは、ありませんから~」

「……理解。私も手伝って構わない。いっそのこと、ニッカを取り込めば良い」

「つまり、俺の国に招くということか?」

「それも、良いですね~。レックスさんと、ずっと一緒にいられますから~」

 

 相変わらず、ぎゅっと腕に抱きついてきている。甘い声まで出してきて、本性を知っていなければ騙されそうだ。

 

 とはいえ、俺はニッカがどういうエルフか知っている。ただ受けるのは、避けるべきだ。

 

 少しでも多くの情報を集めて、それから判断する。ミルラたちともしっかり相談する。とにかく、段階を踏まないと。

 

「お前の派閥はどうするんだ? それを聞かないことには、話は進められない」

「あなたにとってのジャンさんやミルラさんも、私にはいますので~」

「そこまで調べられているのか……。なら、誘った方が良いというのも分かる」

「では、これからよろしくお願いしますね~」

 

 最後までニコニコしたまま、ニッカは俺のところにやってくると宣言した。さて、どこまでニッカに頼るのが正解だろうか。かなり頭を悩ませそうな課題が、目の前にあった。

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