物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
ニッカからの提案に対して、話を持ち帰っていいとの返答を得た。そうなれば、やることは決まっている。まずは、ミルラとジャンに相談すること。すべてはそこからだ。
とはいえ、検証すべきこともある。転移や通話が使えないようなら、一度帰る必要があるからだ。なるべく早期の判断がしたい現状、できれば避けたいところ。
それもこれも、ミレアル次第ではある。今回の内容を試練と考えているかどうか。おそらく、戦闘を舞台として考えているような気配はある。前回の帝国でも、内政段階では手出しをしてこなかったからな。
まあ、仮説ばかりこねくり回しても仕方ない。とにかく、実際に試してみること。まずはそこから。
魔力を練り上げて、俺の魔力を侵食させた相手の位置を探っていく。抵抗は感じず、あっさりと成功する。つまり、少なくとも今はミレアルの妨害はないということ。
もちろん、油断は禁物。戦闘以外を試練と考える可能性はあるし、そもそも試練という考えが外れていることだってある。
ただ、今は使えるということも大事だ。変に警戒しすぎて手札を切らなければ、結果として追い詰められるだけ。バランスが重要。
「通話は……できそうだな。フィリス、混ざるか?」
「……肯定。私の視点からも情報を伝えた方が良い」
「分かった。じゃあ、行くぞ。……ミルラ、ジャン、今は話せるか?」
「レックス様、そちらはどのような状況でございますか? まだ、正確な情報は伝わっておりません」
「僕たちに通話をするということは、統治の段階ですかね。エルフに関しては情報が少ないので、的確にできるとは限らないです」
本当に、話が早い。戦闘でミルラたちに相談することはないというのが、的確に見抜かれている。これなら、ニッカが相手でも勝負になるはず。
「ひとまず、お前たちに相談したくてな。ニッカというエルフと会ったんだが……」
簡単に、今の状況を説明した。ニッカが俺とエルフとの窓口になったこと。俺を後ろ盾として、周囲に圧力をかけたこと。魔道具の輸入を求めているということ。
一通り説明して、少し間があった。おそらくは、状況について考えていたはず。とはいえ、すぐに返事が返ってくる。
「状況については、理解できました。そうですね……。ニッカさんとも通話をするというのはどうですか?」
「レックス様の魔力を受け入れられるかどうか。そこで、覚悟のほどが見えるということでございますね」
なるほど。俺の魔力を侵食させるというのは、かなりの信頼を要求するもの。断られたとしても、相手に妥協を要求できる。
こうしてみると、ニッカと似たような手管でもあるのだな。ジャンもミルラも、相変わらず優秀だ。本当に助かった。
「……受諾。おそらく、簡単に受け入れる。代わりに何かを要求する可能性もある」
「なるほど、そういう感じなんですね。なら、僕たちが窓口になるのは良かったです」
「私どもでも、そう簡単な交渉とはいきません。事後報告であれば、相当苦慮したと存じます」
フィリスのセリフで、何かを読み取ったらしい。優秀であると判断したあたり、俺の魔力を受け入れることを何かに利用してくるんじゃないだろうか。
俺が本気で悪意を持っていたら、ニッカを殺すことすらできる。魔力を侵食させるということは、そういうこと。
ああ、だからか。俺がニッカを殺せない人格だと読み取っている。あるいは、そう誘導するだけの策略を練る自信があるということ。ただの考えなしとは程遠いな。まあ、分かりきっていたことではあるが。
「なら、悪い判断じゃなかったみたいだな。とにかく、俺では判断がつかなかったんだ」
「レックス様がお望みとあれば、叶えることが私たちの役割でございます。お気になさらず」
「一度、兄さんも交えて話をしましょう。それが手っ取り早いはずです」
ということでニッカに話を持ちかけると、あっけなく魔力の侵食は受け入れられた。ずっとニコニコしたまま、どこか楽しそうに。
俺が命を握っていると分かっていて、そう親しくない段階で笑顔を向けられる。少なくとも、心からの信頼関係は築けていないにも関わらず。とんでもない度胸なのは、俺ですら分かる。
そして、ニッカも交えて通話していく。どこか、空気が冷えているように感じられた。
「皆さん、こんにちは~。ニッカと申します~」
「ええ、話は聞いています。僕とミルラさんが、主に窓口になりますね」
「こちらの要求は、単純です。そちらが魔道具を研究した成果を、必ず報告すること」
その要求が出るということは、結界の魔道具をただ使うわけではなかったらしい。魔道具の技術を盗むことを狙いとしていたわけか。
となると、簡単に受け入れていたら危険だったな。やはり、相談して正解だった。まさにファインプレーだと言えるだろう。ちゃんと負けを認めたのが、ここに来て生きてくる。
もちろん、ミルラやジャンというとても優秀な仲間がいてこそ。その感謝は、忘れてはいけないな。
「構いませんけど、私が真実を伝える保証はありませんよね~」
「レックス様の魔力を、建設する施設に侵食していただきます。これが、前提条件でございます」
「ふむ。私たちを監視したいということですか~?」
こちらの意図も、的確に読んでくる。やはり、ニッカは並大抵ではない。ジャンとミルラに負けていない。俺たちの側には、フィリスすらいるというのに。実質的には3対1で、よくもまあ。
俺には手に負えないというのが、よく分かる。仮に自分だけで交渉していたと思うと、震えてしまいそうなくらいだ。
やはり、俺はただ強い魔法を持っているだけの存在。忘れてはいけない。
「そのように捉えていただいて構いません。ですが、利益もございます」
「兄さんの力があれば、ニッカさんも転移することができますから。とても便利ですよね」
「それができるのであれば、私はサジタリウス聖国を拠点にして良さそうですね~」
ふむ。俺たちのそばに来るという案は、なかったことになったみたいだ。まあ、転移や通話があるのなら妥当ではあるが。必ずしも対面しなければならないかというと違う。
とはいえ、狙いまでは読めない。おそらく、サジタリウス聖国の中にいることに意味がある。その程度は分かるが、根本的な意図まではたどり着けない。
まあ、ミルラやジャンは分かっている様子。なら、任せておいても良い。
「分かっていると思いますが、ニッカさんの仕事はとても増えるでしょう。覚悟は良いですか?」
「もちろんです~。レックスさんのためにも、全力で頑張りますよ~」
そう言って、ニッカはまた抱きついてくる。ずっと笑顔なのが、とても恐ろしい。今回の交渉では、いくつか狙いが潰されたはずだ。その不満を一切表に出さないというのが、裏を感じさせる。
まあ、俺の利用価値が高いのは分かる。戦力として、権力者として、便利な魔法を多く持つ者として、ただの個人というレベルは軽く超えているからな。
なら、ニッカもメリットを確保しているのか。まだまだ、油断はできない。
「ということになります、レックス様。現状では、悪くない方向性と存じます」
「……妥協。エルフの技術革新は、避けられない」
「その進歩した技術は、レックスさんも活かせますから~。それこそ、悪くないと思いますよ~?」
ニッカのことだから、俺たちに隠したまま新技術を利用しかねない。それだけは、忘れないようにしないとな。
とはいえ、ニッカが明確に敵でないということだけでも、かなり大きい。悪くない関係を、続けていきたいものだ。