物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
魔道具に関しては、まずは事業にならない程度の数から売っていくことになった。ブラック家の生産能力という問題もあるし、エルフたちがどこまで信用できるか測るという点もある。
実際、すでにいくつかは検証というか分解されているのだと思う。それで、実際に魔道具を作る算段を重ねていくのだろう。
いっそのこと、こちらで技術を提供して制御するという手もあった。だが、そもそもニッカの管理能力を知らないということで破算になった。
こちらから人材を送ることが必須ではあるのだが、どこまで丁重に扱われるかは怪しい。そういうこと。
ということで、まずは聖都から運用を始めているらしい。その中で、定期報告をニッカから受けている。
「レックスさん、少し発見があったので、報告させていただきますね~」
今のところは、こうして俺にしっかりと報告をしてくれている。闇魔法による監視体制があるとはいえ、抜け道を探っていてもおかしくはない。しっかりと裏を取るのが、今後大事になってくるはずだ。
ひとまず、発見というからにはマリンたち技術者に共有したい。そこがなければ、意味がない。
「いや、ちょっと待ってくれるか? 二度手間になるのも避けたいし、通話を開く」
魔力で信号を送ると、すぐに反応があった。
「レックス様、ご報告ですか? 私の方でも、進展はあったのです」
「ソニアも一緒に考えた案なんだー。褒めてくれると、嬉しいなー」
「一時的に魔力が切れても、結界を維持する仕組みなんだよ」
つまり、電池が切れても機械が使えるみたいな話に聞こえるが。とんでもなくないか?
空気中に魔力はあるので、そこから吸収するとかだろうか。どんな理論であれ、実用性という意味では計り知れない。
うっかり魔力バッテリーを取り替えそこねても、しばらくの間は動く。警報機能なんかと併用すれば、相当数の事故を減らせるのではないだろうか。まあ、魔力が切れてから警報が出ては遅いから、減った段階でも出す必要はあるが。
とにかく、技術的には信じられないレベルのことをしているはず。ソニアとクリスは、もはやエースと言っていいレベルの存在になってしまった。ふたりを引き込んでくれたサラには、どれだけ感謝しても足りない。
「それは……かなりすごいな。どういうものなんだ?」
「簡単に言えば、結界の内部で魔力を蓄える技術なのです」
結界そのものを、別のバッテリーとして使うみたいな話だろうか。言わば非常用バッテリーというところか。
それが実現できるのなら、結界を貼る意義はかなり大きくなる。帝国や王国でも真剣に運用を検討していいレベルで。
まあ、何度も言うが生産能力の問題もある。しっかりと相談しないとな。
「とても便利な技術ですね~。こちらでは、霊樹を使うことで魔力が活性化できることが分かりました~」
「それは、相当大きな発見なのです。霊樹の価値は、大きく変化するのです」
マリンからは、手を叩く音が聞こえる。確かに重要な発見であることは、間違いない。だが、とても深刻な課題があると理解できた。
霊樹というのは、まあ特別な木なのだろう。細かい説明がなくても、それくらいは分かる。つまり何が起きるか。森林伐採だ。
下手をしたら、霊樹そのものが絶滅しかねない。ここは慎重に話を進めないと。
「いや、待て。その情報は、どこまで伝えた?」
「今は発見者と私だけですね~。何か気になることでもありましたか~?」
「よく止めた、ニッカ。霊樹というのは、切り倒さなきゃいけないか?」
「いえ~。生えている範囲で、魔力の循環が活発になるんです~」
とりあえず、今の段階では最悪の状況じゃない。生えている範囲でとなると、挿し木が限度になるはず。伐採するメリットは、むしろ薄い。
だが、まだ油断はできない。霊樹そのものを組み込めば魔力の循環が活発にできる場合、ほぼ確実に伐採の話につながるのだから。
「霊樹を魔道具に組み込む実験は、まだなんだな?」
「はい~。レックスさんは、何を心配しているんですか~?」
「霊樹の伐採が加速するのなら、サジタリウス聖国の森に大きな影響が出かねない。とにかく、制限が……」
「うふふ、心配してくださったのですね~。ですが、霊樹を切り落とすことは、並の魔力では不可能なんです~」
「いや、まだ安心するには早い。魔道具の進歩があれば、高度な魔道具で切り落とされかねない」
「それは、確かに~。ふむ、伐採の発見者には賞金を出すことにしましょうか~」
打てば響くように、ニッカは案を出してくる。監視体制的な話ではあるが、まあ必要かもしれない。
兎にも角にも、早い段階で動くことが大事だ。霊樹が希少になってしまえば、それこそ密猟のようなことが加速する。できる段階で保護しておかないと、いざという時に霊樹が絶滅しているなんて事態もありえる。
「伐採への罰則も一緒に、か? なるほどな……」
「必要な材料が取れなくなると、困っちゃうよねー」
「そうだね。私たちの世代では、たぶん大丈夫だけど……」
「生産数に制限があるのなら、一般的な製品にするのは難しいのです」
高級品にするかどうかも含めて、慎重に検討しないといけない。霊樹に価値があると気づかれる前に、制度をしっかりと定めておかなくては。
今できることとしては、この程度が限界だろうか。あまり性急に動きすぎても、むしろ霊樹に目をつけられかねないからな。そのあたりは、ニッカに任せておいた方が良い。交渉能力という面でも、エルフの性質に対する知識の面でも。
まあ、懸念を伝えられただけでも意味がある。後は、エルフたちの動き次第だ。
「そのあたりも調整点だな。とりあえず、助かった。早期に行動できるだけで大きい」
「やはり、レックスさんはエルフのことを大切にしてくださっていますね~。よく分かりました~」
ニッカは、もはや当たり前のように俺の腕に抱きついてくる。キスでもしてきそうな勢いで顔も近づけてくるし、もうメチャクチャだ。
「もしかして、最初から分かっていて報告してきたのですか?」
マリンの言葉を聞いて、ニッカの顔をよく見る。相変わらずニコニコしたまま。腹の中が、まるで見えてこない。
ニッカのことだから、裏になにか戦略を隠していてもおかしくはない。ひとまず、聞くだけ聞いてみるか。俺には正解は分からないだろうが、牽制くらいにはなるはず。
「ということは、俺を試すために問題点を見逃した報告をしたと?」
「いえいえ、そんな~。私の視野が狭かっただけですよ~。さすがはレックスさんですね~」
俺の腕を抱きしめる力を強めてくる。いろいろなところが押し付けられているので、反応に困る。
ひとまず、本当に分かっていたのかどうなのか。ニッカは腹の中に隠したままだ。今もまだ、油断ならない相手だということ。
「とにかく、問題点が分かっているのなら対策するだけだ。ニッカ、できそうか?」
「はい~。レックスさんの魔力を借りられれば、もっと楽ですね~」
今度は俺を動かそうとしているみたいだ。まあ良い。俺の魔力が侵食できるということは、俺にとっても都合が良い。
ミルラとジャンにも相談することになるが、おそらくは受けることになるだろうな。