物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
ニッカとの交渉は、それなりに順調に進んでいるのではないだろうか。ジャンやミルラにも相談しつつ、いろいろと決めていく。
とはいえ、俺たちだけで全部を決めていい話でもない。通話ができるようになったのだから、共有すべき相手は他にもいる。
転移で会いに行くのが早い気はするのだが、ニッカの動きも気になるところ。こっちが好き勝手に動けば、相手にも好き勝手する口実を与えるのが現実だろう。
ニッカは転移まではできないが、俺の目の届くところにいてもらった方がまだ安心できる。少なくとも、サジタリウス聖国の動きが安定するまでは。
ということで、まずは帝国に連絡することにした。ミルラやジャンから最低限の報告は受けているが、実際に話すことも大事だからな。
信号を送ると、すぐに帝国組は出てくれた。
「ユフィ、ロニア、元気そうで何よりだ。そっちはどうだった?」
「問題も起こりましたが、こちらでなんとか……」
「まさか、サジタリウス聖国に攻め込もうとするなんてねえ。めんどーだったよ」
敗戦の恥をすすごうとしたというか、利益を取り戻そうとしたというか。典型的な、ギャンブルの負けを取り返そうとする行動そのものだった様子。
ユフィやロニア、その配下だけで抑えられたからいいものの。勝っても負けても面倒なことになるのは目に見えていた。少なくとも、俺はエルフの信頼を失うだろう。もともと存在するのかという問題はさておいて。
「そのサジタリウス聖国なんだが、王を討ち取ってな。今後、関わりが増えるかもしれない」
「えー? レックス様、とんでもないことをするねえ」
「それは、レックス様が統治なさるということでしょうか……」
驚いたような声が聞こえる。まあ、メチャクチャなことをした自覚はある。師を奪われたくないから国を落とすなんて、普通に考えてやりすぎだ。
とはいえ、悪いことばかりではない。あのまま放っておいたところで、結局はミレアルの加護を受けたエルフは暴走していた。結果論ではあるが、俺の行動は間違いではなかった。
あのエルフ王が、見下している人間にどんな事をするか。誰にだって分かることだからな。
ニッカはニッカでとても厄介だが、よほどマシだ。彼女に実権を握っていてもらうのが、今のところの方針と言える。
少なくとも、ニッカは暴力的な手を使おうとはしない。交渉と言質をうまく使って立ち回るタイプ。毒婦じみたところは否定できないが、国の主としてはむしろ信用できるくらいだ。
だから、俺としても協力していくことになる。現状では、最善に近いはず。
「今のところは、ニッカという女が代表に近いな。こう言っては何だが、曲者だ」
「レックス様で大変そーなら、あたしは関わりたくなーい。とは、言ってられないよねえ」
「はい……。察するに、レックス様が不在の期間も増えるのでしょう……」
サジタリウス聖国の様子も見なければいけないし、ミレアルの試練もまだ終わったわけではない。国として見るだけでも、獣人の国であるアリエス連邦、そしてミレアル教の総本山であるリブラ教国がある。
アリエス連邦はまだ分からないが、少なくともリブラ教国は確実に敵になる。その状況に対応するためにも、俺に依存する体制はまずい。むしろ、なるべく早くに俺がいなくても成立する国になってほしいくらいだ。
「そういうことになる。お前たちで統治までできるのなら、それが理想だ」
「いざって時に、頼らせてくれるならかも? そーじゃなきゃ、厳しいっぽい」
「臨時の役割としては、確かに果たせた実感はあります……。ただ、ずっととなると……」
まだ、自信は持てないようだ。実際、個人で反乱を鎮圧できるレベルの強さではない。だが、それがすべてではないはずだ。今の帝国では難しいとしても、単に暴力ではない王の器が評価される瞬間はかならず来る。
だからこそ、ユフィとロニアには期待したい。ただ強いだけの俺より、よほど向いているはずだ。
「もちろん、俺の力が必要なら頼ってくれて構わない。必ず助けるとまでは、言い切れないが」
「そーなってくると、戦争をしている余裕はないよねえ」
「内輪揉めで足を引っ張り合うのが、目に見えています……」
特に、実力主義の悪い面が出そうだよな。自分は強いのだから弱者の言うことは聞かない。そんな状況になってしまえば、力で黙らせるしかないからな。
ミレアルの加護さえなければ、ユフィとロニアでも大抵の相手には勝てる。とはいえ、絶対的な力でもない。難しいところ。
俺の力にしか従わないような人は、集団としてはなるべく排除したいんだよな。ユフィとロニアのためを抜きにしても、面倒事を起こす存在なのだから。
「ああ。だからこそ、今のうちになるべく安定させたい。サジタリウス聖国の件は、どうなった?」
「エルフ程度なら、軽く倒せるんじゃないのーって。そんなこと、ないのにねえ」
「なるほどな。ユフィやロニアと戦わせるのは、威信に関わるな」
「そこまで強い相手がいるんですね……。なら、私たちの判断は正解だったようです……」
俺の一言だけで、そこまで読んでくる。かなりの才能が見えるんだよな。ユフィとロニアがニッカと戦えば、まず負ける。そして、ふたりの評価に大きく影響する。
だからこそ、直接ふたりと戦わせることは避けたい。とはいえ、今の帝国なら力を見せつけた方が早い。その妥協点は、もう見えている。
「選択肢としては、ふたつある。闘技大会のように強者を募るか、俺が戦うかだ」
「でしたら、前者の方が良いのではないかと……。実感は、大切です……」
「レックス様は強すぎるから、何の参考にもならないんだよねえ」
自分で言うのも何だが、実力が高すぎる。少なくとも、皇帝の座を狙う程度の存在からしてみれば。前回の闘技大会とて、見るべきところのある実力者はいなかった。
そうなってくると、確かに実感が伴わないかもしれない。俺が勝ったからとエルフが甘く見られるオチは避けたいところだ。
「良くも悪くも他人事になるということか。なるほどな。こちらで話を通しておくよ」
「よろしくお願いします……。私たちの方でも、準備は進めておきますので……」
「めんどーだけど、暴動が起きるよりはマシだよねえ」
いま苦労するか、後でもっと苦労するか。そんな嫌な二択でしかない。ユフィもロニアも、困っているはずだ。
「ふたりには苦労をかけると思う。言葉程度でねぎらいになるとは思わないが、ありがとう」
「いえ……。レックス様と同じように、私たちも平和を望んでいますので……」
「そーだねえ。絶対、前の皇帝の時よりはいいもん」
「はい……。苦労がないと言えば嘘になりますが……」
ユフィとロニアも、俺の意思を汲んでくれている。だからこそ、その気持ちに答えないとな。結果こそが、俺の答えになる。
となると、まずは当面の闘技大会を成功させないとな。サジタリウス聖国への影響も考えて、しっかりとやっていこう。
「今後とも、よろしく頼む。俺も、全力を尽くすつもりだ」
さて、ニッカからはどんな要求が出されることやら。間違いなくため息をつきたい気分なのに、どこか待ちわびているような気もした。