物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
ニッカには、帝国の民に圧力をかけてもらいたい。
察するに、かなりいやらしい戦い方をしそうだ。まあ、よほどの相手でもない限り、搦め手すら必要ないのも事実だろうが。おそらく、ニッカの本気を見ることはない。
というか、
まあ、話を受けてもらえないことには始まらない。ということで、まずは相談から入ることにした。いつものように、フィリスも伴いながら。
「ニッカ。帝国の民の前で、力を見せてもらうことはできるか?」
「それは、全力を出せという意味ですか~?」
ニコニコとしながら、そんな事を言っている。実力者でもなければ、ふざけたセリフだとしか言いようがない。感じる魔力や性格からするに、弱いことはないだろうが。
察するに、手の内をさらすのが嫌なんだろうな。戦術や能力を隠したまま戦って、いざという時に確実に殺したい。そんな発想だろう。
まあ、王道といえば王道だ。わざわざ模擬戦で本気を見せるなんて、策略家には許せないことのはず。俺ですら、手の内を隠すという考えくらいはあるからな。
「帝国がサジタリウス聖国に手を出せば、大火傷する。そう認識させるのが理想ではあるな」
「なら、問題ありません~。ですが、私が国を出るんですから、少しは対価が欲しいですね~」
「……要求。レックスに推測させるのではなく、ハッキリと対価を言って」
フィリスの助けは、ありがたい。何を差し出せば良いのか、本気で分からないからな。うっかりバランスの崩れた対価でも渡してしまえば、確実に甘く見られる。絞り尽くされるのは明らかだ。
ニッカは腹の中が読めないからこそ、むしろ要求を表に出してくれる方が助かる。それなら、実際の内容から意図を探ることもできるからな。
「あらあら~。でしたら、レックスさんに同じ事をしていただければと~」
「サジタリウス聖国で、力を見せつけろということか?」
「はい~。私に要求するくらいですから、問題ありませんよね~?」
穏やかな声で、じっと見つめられる。言質は取られているようなものだ。相手に要求することが自分はできないとなれば、都合の良い話だと言わざるを得ない。
これが物々交換や技術に関するものなら、まだ話は別だが。俺もニッカも似たようなことができる条件でなら、公平性が疑われる。
ニッカの信頼を得るためにも、ここは断れない。他に選択肢はないな。これも、おそらくは誘導どおりなのだろうが。まったく、勝ち目がなさすぎて嫌になる。
フィリスの手助けがあってこれなのだから、ジャンやミルラでしか対抗できないのも当然か。やはり、二人を間に挟むのが理想ではある。ただ、毎回というのもな。直接話をすることを軽んじるということは、格下に見ているようなもの。
どうにもこうにも、手段が潰されている感じがある。すべてがニッカの策ではないだろうが、そう思わされるだけの凄みがある。
「そう言われて、嫌とは言えないな……。反対勢力でもいるのか?」
「今はまだ、いませんね~。ですが、レックスさんの力を疑う方もいて~」
「それで、俺に力を見せつけろと。演説の時のように、ニッカの権力を拡大させるためか?」
「2回目は、気づかれてしまいますか~。でも、レックスさんにも利益はあるんですよ~」
ニコニコとしたまま、手を握ってくる。こんなに分かりやすい策を、何度も使うものだろうか。ニッカのことだから、二重の罠を仕掛けていても不思議ではない。
ただ、裏の意図があるとして、なんだ? 俺の力を見せつけることで、ニッカにどんな利益がある?
やはり、俺の力を利用する以外のことは思い浮かばない。もし戦略を隠しているのだとしても、気づかない俺が未熟なだけではあるか。
「……疑問。レックスと戦うのは、誰?」
フィリスの質問で、少し狙いが見えたかもしれない。戦う相手が明らかに弱ければ、俺の印象は悪くなる。逆に強ければ、俺の強さをより明確にできる。
どんな相手と戦わせるかで、かなり色が出るところだ。例えば、敵対派閥のメンツを潰すとかどうだ? 俺の足元にも及ばないと印象付けて、勢力を弱めるとか。ニッカなら、やりかねない。
「不安でしたら、フィリスさんはいかがでしょうか~?」
これは、引いてくれたのだろうか。いずれにせよ、フィリスならありがたい。気心知れているし、調整もしやすいからな。どの程度本気を見せるのかも、事前に相談できる。かなりメリットが大きい。
ニッカにも狙いがあるのだろうが、ここで断る方が怖い。フィリスが居るという安心感を取る方が、強いはずだ。
「フィリス、構わないか?」
「……同意。変な相手だと、レックスが恨みを買いかねない」
「ちゃんと、相手は選ぶつもりでしたよ~。レックスさんが傷ついて、困るのは私ですから~」
「それもそうだな。俺の力を利用しようというのに、俺が弱っては元も子もない」
「私にとって、レックスさんは大切な人なんですよ~? 自分を大事にしてください~」
また、胸に手を抱えてくる。そろそろ慣れてきた頃合いだ。いくらニッカの色気が強かろうが、何度も何度も繰り返されれば対処くらいできるようになる。
ただ、少しは効果があるというのも否定はできない。まるっきり何も感じていないはずはないんだ。実際、柔らかさとか暖かさは伝わってくる。甘い香りだって。
それでも、余裕を持って話ができる程度になってきている。ニッカも、策に溺れたのだろうか。
「もちろん、そのつもりだ。俺の仲間だって、傷つくんだからな」
「……同調。私も、レックスがいなくては困る」
「うふふ、気が合いますね~。レックスさんを大好きな者同士、仲良くしましょうね~」
「……肯定。私としては、問題ない」
「なんだかんだで、ニッカも俺のことを大事にしてくれているよな」
「そんな事を言ってしまうと、本気にしちゃいますよ~?」
胸のあたりに、俺の頭を抱えてくる。顔にいろんな感触が伝わってきて、頭に血が上っているのが分かる。
まさか、このタイミングでエスカレートさせてくるとは。慣れてきたと思った段階で、次の一手をかましてくる。やはり、ニッカは油断ならない。
というか、心臓がおかしくなりそうだ。このレベルのことは、まだされたことがないぞ。
「お、おい! さすがにそれはやりすぎだろ!」
「……喜悦。レックスは、また照れている」
「こういう時には、味方をしてくれないんだな!?」
「フィリスさんも公認ということで、いっぱい仲良くしましょうね~」
とりあえず、ニッカは離れて抱きついてくる。これくらいなら、まあ問題はない。さっきと比べたら、どうということはないからな。
ニッカのことだから、本気でまずい相手の前で抱きついてくることはないだろうし。なら、受け入れておくのが得策か。妙に拒絶しても、また別の手を打たれるだけだろうし。
「やるべきことをやってくれるのなら、異論はないが」
「でしたら、まずは力を見せつけないといけませんね。腕が鳴りますね~」
「フィリスとの戦いも、楽しみだな。俺の成長を、見せてやるさ」
「……期待。レックスがどれほど変わったのか、しっかりと見る」
さて、どんな戦いになることやら。ニッカの実力も、少しは見ることができる。今後のためにも、よく目に焼き付けておかないとな。