物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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613話 当然の対価

 ニッカには、帝国の民に圧力をかけてもらいたい。五属性(ペンタギガ)なのは分かっているので、まず大抵の相手には勝てる。

 

 察するに、かなりいやらしい戦い方をしそうだ。まあ、よほどの相手でもない限り、搦め手すら必要ないのも事実だろうが。おそらく、ニッカの本気を見ることはない。

 

 というか、五属性(ペンタギガ)が本気を出せば都市くらいは終わりかねない。出されても困る。

 

 まあ、話を受けてもらえないことには始まらない。ということで、まずは相談から入ることにした。いつものように、フィリスも伴いながら。

 

「ニッカ。帝国の民の前で、力を見せてもらうことはできるか?」

「それは、全力を出せという意味ですか~?」

 

 ニコニコとしながら、そんな事を言っている。実力者でもなければ、ふざけたセリフだとしか言いようがない。感じる魔力や性格からするに、弱いことはないだろうが。

 

 察するに、手の内をさらすのが嫌なんだろうな。戦術や能力を隠したまま戦って、いざという時に確実に殺したい。そんな発想だろう。

 

 まあ、王道といえば王道だ。わざわざ模擬戦で本気を見せるなんて、策略家には許せないことのはず。俺ですら、手の内を隠すという考えくらいはあるからな。

 

「帝国がサジタリウス聖国に手を出せば、大火傷する。そう認識させるのが理想ではあるな」

「なら、問題ありません~。ですが、私が国を出るんですから、少しは対価が欲しいですね~」

「……要求。レックスに推測させるのではなく、ハッキリと対価を言って」

 

 フィリスの助けは、ありがたい。何を差し出せば良いのか、本気で分からないからな。うっかりバランスの崩れた対価でも渡してしまえば、確実に甘く見られる。絞り尽くされるのは明らかだ。

 

 ニッカは腹の中が読めないからこそ、むしろ要求を表に出してくれる方が助かる。それなら、実際の内容から意図を探ることもできるからな。

 

「あらあら~。でしたら、レックスさんに同じ事をしていただければと~」

「サジタリウス聖国で、力を見せつけろということか?」

「はい~。私に要求するくらいですから、問題ありませんよね~?」

 

 穏やかな声で、じっと見つめられる。言質は取られているようなものだ。相手に要求することが自分はできないとなれば、都合の良い話だと言わざるを得ない。

 

 これが物々交換や技術に関するものなら、まだ話は別だが。俺もニッカも似たようなことができる条件でなら、公平性が疑われる。

 

 ニッカの信頼を得るためにも、ここは断れない。他に選択肢はないな。これも、おそらくは誘導どおりなのだろうが。まったく、勝ち目がなさすぎて嫌になる。

 

 フィリスの手助けがあってこれなのだから、ジャンやミルラでしか対抗できないのも当然か。やはり、二人を間に挟むのが理想ではある。ただ、毎回というのもな。直接話をすることを軽んじるということは、格下に見ているようなもの。

 

 どうにもこうにも、手段が潰されている感じがある。すべてがニッカの策ではないだろうが、そう思わされるだけの凄みがある。

 

「そう言われて、嫌とは言えないな……。反対勢力でもいるのか?」

「今はまだ、いませんね~。ですが、レックスさんの力を疑う方もいて~」

「それで、俺に力を見せつけろと。演説の時のように、ニッカの権力を拡大させるためか?」

「2回目は、気づかれてしまいますか~。でも、レックスさんにも利益はあるんですよ~」

 

 ニコニコとしたまま、手を握ってくる。こんなに分かりやすい策を、何度も使うものだろうか。ニッカのことだから、二重の罠を仕掛けていても不思議ではない。

 

 ただ、裏の意図があるとして、なんだ? 俺の力を見せつけることで、ニッカにどんな利益がある?

 

 やはり、俺の力を利用する以外のことは思い浮かばない。もし戦略を隠しているのだとしても、気づかない俺が未熟なだけではあるか。

 

「……疑問。レックスと戦うのは、誰?」

 

 フィリスの質問で、少し狙いが見えたかもしれない。戦う相手が明らかに弱ければ、俺の印象は悪くなる。逆に強ければ、俺の強さをより明確にできる。

 

 どんな相手と戦わせるかで、かなり色が出るところだ。例えば、敵対派閥のメンツを潰すとかどうだ? 俺の足元にも及ばないと印象付けて、勢力を弱めるとか。ニッカなら、やりかねない。

 

「不安でしたら、フィリスさんはいかがでしょうか~?」

 

 これは、引いてくれたのだろうか。いずれにせよ、フィリスならありがたい。気心知れているし、調整もしやすいからな。どの程度本気を見せるのかも、事前に相談できる。かなりメリットが大きい。

 

 ニッカにも狙いがあるのだろうが、ここで断る方が怖い。フィリスが居るという安心感を取る方が、強いはずだ。

 

「フィリス、構わないか?」

「……同意。変な相手だと、レックスが恨みを買いかねない」

「ちゃんと、相手は選ぶつもりでしたよ~。レックスさんが傷ついて、困るのは私ですから~」

「それもそうだな。俺の力を利用しようというのに、俺が弱っては元も子もない」

「私にとって、レックスさんは大切な人なんですよ~? 自分を大事にしてください~」

 

 また、胸に手を抱えてくる。そろそろ慣れてきた頃合いだ。いくらニッカの色気が強かろうが、何度も何度も繰り返されれば対処くらいできるようになる。

 

 ただ、少しは効果があるというのも否定はできない。まるっきり何も感じていないはずはないんだ。実際、柔らかさとか暖かさは伝わってくる。甘い香りだって。

 

 それでも、余裕を持って話ができる程度になってきている。ニッカも、策に溺れたのだろうか。

 

「もちろん、そのつもりだ。俺の仲間だって、傷つくんだからな」

「……同調。私も、レックスがいなくては困る」

「うふふ、気が合いますね~。レックスさんを大好きな者同士、仲良くしましょうね~」

「……肯定。私としては、問題ない」

「なんだかんだで、ニッカも俺のことを大事にしてくれているよな」

「そんな事を言ってしまうと、本気にしちゃいますよ~?」

 

 胸のあたりに、俺の頭を抱えてくる。顔にいろんな感触が伝わってきて、頭に血が上っているのが分かる。

 

 まさか、このタイミングでエスカレートさせてくるとは。慣れてきたと思った段階で、次の一手をかましてくる。やはり、ニッカは油断ならない。

 

 というか、心臓がおかしくなりそうだ。このレベルのことは、まだされたことがないぞ。

 

「お、おい! さすがにそれはやりすぎだろ!」

「……喜悦。レックスは、また照れている」

「こういう時には、味方をしてくれないんだな!?」

「フィリスさんも公認ということで、いっぱい仲良くしましょうね~」

 

 とりあえず、ニッカは離れて抱きついてくる。これくらいなら、まあ問題はない。さっきと比べたら、どうということはないからな。

 

 ニッカのことだから、本気でまずい相手の前で抱きついてくることはないだろうし。なら、受け入れておくのが得策か。妙に拒絶しても、また別の手を打たれるだけだろうし。

 

「やるべきことをやってくれるのなら、異論はないが」

「でしたら、まずは力を見せつけないといけませんね。腕が鳴りますね~」

「フィリスとの戦いも、楽しみだな。俺の成長を、見せてやるさ」

「……期待。レックスがどれほど変わったのか、しっかりと見る」

 

 さて、どんな戦いになることやら。ニッカの実力も、少しは見ることができる。今後のためにも、よく目に焼き付けておかないとな。

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