物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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614話 力の差

 ニッカの許可も得て、帝国での闘技大会は動き出した。ジャンやミルラ、ユフィやロニアも忙しなく動き回っていた。

 

 俺はサジタリウス聖国でニッカの相手をしつつ、今後の予定について相談していた。おそらくは、フィリスとの戦いから本格的にエルフとの交流が始まる。

 

 そこで、今のうちに足場を固めなくてはならない。サジタリウス聖国の動きに対応できるだけの状況を整えておくのが理想だ。極端な話、ニッカへの反抗勢力が現れてもおかしくないからな。

 

 とはいえ、まずは目の前の闘技大会だ。準備を終えた段階で、俺はニッカとともに転移していく。

 

 会場には、再び大勢が集まっていた。全員の前に立って、俺は開催の宣言をする。ニッカを隣に立たせて。

 

「再び、闘技大会の開催を宣言する! まずは予選だ!」

「おおおおおお!」

「今度こそ、成り上がって見せる……!」

 

 武器を掲げていたり、胸に手を当てていたり。参加者も見学者も、それぞれに熱気を持っている。

 

 さて、ここからが本番だ。今回の目的は、エルフの力を見せつけること。サジタリウス聖国と戦うことを避けたいと思わせること。

 

 そのためにも、しっかりとニッカの存在を印象付けなくては。全力で声を張り上げていく。

 

「ここに居るエルフ、ニッカに勝ったものは皇帝への挑戦権を得られる! 皆、励め!」

「うふふ、よろしくお願いしますね~」

「皇帝も、色に溺れたらしい。ただの愛人に、活躍の場を持たせようなんてな」

「黙っておけよ。俺達にとっても、良い機会なんだ」

 

 頭を下げるニッカに、刺々しい視線が浴びせられているのが分かった。それでも、ニッカは微笑み続けるだけ。

 

 宣言を終えた俺たちは、観覧席まで戻っていく。ニッカとは隣同士。重要な来賓として、俺と同じような待遇で観戦してもらっていた。

 

「さて、どう見る? お前から見て、帝国の戦力はどの程度だ?」

「あらあら~。私のことが、そんなに知りたいんですか~?」

 

 席に座っているのを良いことに、肩に頭をあずけてくる。これでは、もはや恋人みたいだ。周囲の視線が集まってくるのも分かる。

 

 だが、一番避けるべきことは明らか。俺たちが争っている姿を見せること。だから、拒絶なんてもってのほか。俺の考えまで読んで、今の一手を打ってきたのだろう。相変わらず、食えない女だ。

 

「できることなら、もっと知りたいところだ。なあ、ニッカ」

「私のことでしたら、いくらでも教えられますよ~。ふたりきりの部屋で、ね?」

「俺が何を聞いているか、分かっているだろうに……。話を逸らすな」

「レックスさんも、いじわるですね~。答えなんて、分かっているでしょうに~」

 

 目の前での戦いは、平凡そのもの。三属性(トリキロ)で上位と言えば、誰にだって分かるだろう。それも、属性の壁を超えたわけでもない普通の魔法使いでしかない。とてもではないが、カミラやフェリシア、ラナのような存在には勝てない程度。

 

 一属性(モノデカ)である三人は、本来であればこの場の人間よりも才能が下。だが、圧倒的な研鑽で並ぶどころか置き去りにした。差を感じるばかりだ。

 

 まあ、俺の考えは才能を持つものの傲慢ではあるのだろう。闇魔法の強さがなければ、とてもみんなと並ぶ存在になんてなれなかった。

 

「まあ、そうか。めぼしい強者は、どこにもいない。手の内を隠しているのなら、話は別だが」

「それこそ、分かっていて言っていますよね~?」

「分かるあたり、お前も見えているんだな。大したものだ」

 

 観覧席からでも、戦っている相手の魔力を探ることができる。いま戦っている人たちには、誰ひとりとしてできないはずだ。

 

 だからこそ、実力を雄弁に語っている。ニッカにも、隙があるのか。そうだとすると、ありがたい。

 

「あらあら、気づかれてしまいました~。さすがです、レックスさん」

「俺を認めてくれるのなら、少しでも本気に近い実力を見せてくれると助かるんだがな」

「うふふ。力の差なら、十分に教えてあげますよ~」

 

 ニッカは笑顔を崩さない。おそらく、どれだけ手加減していても勝てるはず。力の差など、見せつけるまでもない。

 

 いま勝った人も、所詮はただの三属性(トリキロ)。勝負の土台にすら立てていないのは明らか。

 

 まあ、しっかりと俺の仕事はこなさないとな。試合の終わった会場へと進んでいき、俺はまた宣言する。

 

「さあ、挑戦者は決まった! その実力がどの程度エルフに通じるか、見せてもらおう!」

 

 ニッカと勝者が、会場で向かい合う。そして、会場の誰もが試合を見ていた。

 

「お手柔らかに、よろしくお願いしますね~」

「情けない態度だ。皇帝の愛人というのは、よほど楽らしい」

 

 暴言を吐かれても、穏やかな笑顔は崩れない。まるで気にしていないのか、仮面が完璧なのか。いずれにせよ、格の違いは明らか。

 

 結局のところ、ニッカの魔力量を探ることすらできていない。目の前に居るのがライオンだと分かっていない、ただのチワワ。いっそ、哀れなものだ。

 

「レックスさんには、とても優しくしていただいていますよ~」

「女をはべらせて、良いご身分なものだ。俺に負けたのなら、もっと満足させてやれるぞ?」

「それができるかどうかは、これから示してみてください~」

「女だからと手加減するほど、俺は甘くないぞ!」

 

 さっそく、対戦相手は動き出す。魔法を何発も何発も撃ち、ニッカは笑顔のまま避けていく。魔法の精度からするに、直撃しても魔力の壁すら超えられないだろうに。ニッカも残酷なことだ。

 

 男は興奮したような様子で唇を釣り上げている。優位を確信した姿そのもの。手のひらで踊らされているとも知らずに、可哀想なもの。

 

「どうした!? 何もできないまま、防戦一方か!?」

「あらあら~。困ってしまいましたね~」

「いい加減、諦めろ! エルフと言っても、大した事ないな!」

「このままでは、レックスさんも退屈してしまいそうですね~」

「ただ逃げるだけのやつが、何を……!」

「どうぞ、お好きに魔法を撃ってください。私は、逃げも隠れもしませんよ~」

「なら、望み通りに! 三重反発陣(トライマジック)

 

 三属性(トリキロ)の魔法が、ニッカに向けて進んでいく。収束した魔力が、激しく広がる。ニッカはただ、目の前に魔力を集めるだけ。魔法を使うことすらしない。

 

 それだけで、敵の魔法は消え去っていった。ただのひとつも、成果を残せないまま。ニッカはずっと、ニコニコとしているだけ。まるで表情は変わったりしない。

 

「あらあら、その程度ですか~」

「なっ、無傷……?」

「これで、十分そうですね。水の槍(アクアランス)!」

 

 水の魔力だけを使った魔法が、対戦相手にぶつかる。抵抗すら感じさせずに、吹き飛ばしていく。起き上がれすらしないのは、震えからも明らかだった。

 

「あっ、が……」

「それまで! この試合は、ニッカの勝利とする!」

 

 俺の言葉は、ただ静かな空間に吸い込まれた。それは、誰もが息を呑んで見ているという事実を示していた。

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