物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
帝国での戦いから、俺たちはとんぼ返りした。後のことはユフィとロニアに任せているが、かなり大変だと思う。しっかりとお礼とフォローはしなくてはならない。
ただ、もうニッカが準備を進めてしまっているので、日にちをずらすことも難しい。完全に振り回されていることは分かっているのだが、どうしようもない。
大勢のエルフが、俺たちの様子を見ている。それこそ、国民的アイドルのライブより人は多そうだ。無数の視線を感じて、少しだけむずがゆい。
まあ、フィリスの落ち着いた顔を見ていれば、なんだかこちらまで落ち着いてくる。冷静沈着な人が近くにいると、本当に安心できるよな。
ニッカはエルフたちの前に立って、司会進行みたいなことをしている。俺たちが戦うから、任せるしかない。変なことを言わないかが気になるが、もう心配しても無駄。
とにかく、今は目の前の戦いに集中するしかない。せっかくフィリスと戦えるのだから、しっかりやらないともったいない。
「では、みなさん~。ふたりの戦いを、よく見ていってくださいね~」
「よろしく頼む、フィリス。俺の成長を、確かめてくれ」
「……当然。レックスのすべてを、受け止めるだけ」
フィリスは大木のようにたたずんでいる。俺の全力を、本当に受け止めてくれそうだ。なら、全身全霊を込めないと失礼というもの。
新しい合一は、俺そのものの進化ではない。フィリスとふたりで強くなっただけ。もちろん嬉しいことではあるものの、今はできない。だからこそ、剣を持つ手に力が入る。
つい、唇を釣り上げてしまった。今の俺は、よほど悪い顔をしているだろう。だが、構わない。最高の戦いを、フィリスだけに。それでいい。
「それでは、始めてください~」
「行くぞ!
「……反撃。
俺は剣に魔力を集めて、横に薙ぎ払う。そこに俺自身を溶け込ませて、空間そのものを切り裂こうとしていく。
対するフィリスは、一気に魔力を収束させていく。そして自分自身も魔力に溶かし込んで、絶対的な爆発を引き起こそうとする。
魔力との合一をした俺たちが、ぶつかりあう。その瞬間、フィリスが俺の魔力に絡みついてくる。魔力ごと、俺自身の制御を奪われかけた。全力で魔力を操作して抵抗したら、吹き飛ばされる。
体が戻った頃には、俺は膝をついていた。合一の精度で、負けたと言わざるを得ない。やはり、フィリスの技術は本物。
「まさか、俺の魔法を乗っ取ろうとしてくるとはな……。闇魔法使いが、情けないものだ」
「……分析。レックスの魔法を分析することで、私はもっと成長した」
「最高の師匠で、ありがたいことだ! なら、こういうのはどうだ!
防御魔法を、フィリスに使う。どうせ、合一の前では防御魔法なんて紙切れに過ぎない。だったら、他に活用するのが賢い戦い方というもの。そうだろ、フィリス。
全身を守れるということは、全身を覆い尽くせるということ。それはつまり、徹底的にフィリスの行動を妨害できるということだ。
どれだけ強い魔法も、運用次第で差が出る。工夫することを教えてくれたのはフィリスなんだから、当然教えを守っていることになるよな。
さあ、どう対応する。何もしなければ、ただ俺が勝つだけ。だが、そんなわけないよな。
「……拘束。確かに、厄介。でも、分かっているはず。
合一の前では、防御魔法など紙切れ。自分で言ったことだ。当然、フィリスも分かりきっている。だから、ここまでは読めていた。
それでも、フィリスを闇の魔力が覆っていることは事実。なら、できることがある。
「ただ工夫もなく魔法を使うわけがないよな! これで、どうだ!」
闇の魔力を、フィリスの溶け込んだ魔力へと侵食させていく。少しでも、俺の制御下に置くために。
少しの間、お互いに抵抗し合う。そして、最後にはフィリスは元の姿へと戻っていた。
「……感心。私と同じことを、合一を使わずに実現した」
「それこそが、闇魔法の強みだろ? 同じ技で対抗する意味は、どこにもない」
「……同意。私を取り込むのも、楽しい?」
舌なめずりをして、そんな事を問いかけてくる。唇に、妙に色気を感じてしまう。目が、俺をじっと見ているからだろうか。
というか、戦闘中になんてことを。
「お、おま……。そういう話じゃないだろ!」
「……間隙。
俺が叫んだ隙に、フィリスはまた魔力と合一していく。爆発的に魔力が膨れ上がり、俺を飲み込もうとする。
さっきと同じ対処をしては、同じ結末になるだけ。だが、同じ技を使ってくると分かっているのなら、対抗しようはある。
「
俺も、魔力と一つになってぶつかっていく。先程のように、フィリスは俺自身が溶け込んだ魔力をたぐろうとしてくる。闇の魔力の性質を利用して、こちらから侵食しようとする。
魔力そのものを紡ぐ技術では、俺はフィリスに劣っている。認めるしかない。同じように相手の魔力を手繰って成功させることは、厳しい。
だが、技量差が実力差そのものではない。対五属性使いにおいて圧倒的優位を持つ闇魔法の性質こそが、俺の武器。
俺の魔力に触れるならば、その魔力を侵食し尽くすだけ。我慢勝負は、どちらが勝つかな。
互いに主導権を奪い合い、魔力は押し合って行ったり来たり。ひたすらにぶつかりあって、最後には離れていく。
俺たちは、どちらも大きく吹き飛ばされた。地面を転がって、なんとか立つ。フィリスも同じ。
「……失敗。少し、残念」
フィリスは軽くため息をついている。本当に残念そうに見えてしまう。俺を取り込みたかったとでもいうのだろうか。まあ、冗談かさっきみたいに隙を誘っているのだろう。
なら、俺は落ち着いて返すだけ。それだけでいい。
「俺のことを取り込もうとしたのも、意趣返しか?」
「……否定。これを破れたら、レックスの勝ち。そうでなければ、私の勝ち」
「なら、俺の勝ちだな!
「
もう一度、俺たちは主導権を奪い合う。俺は闇の魔力を利用しながら、フィリスの動きを少しずつ分析していった。
やはり、魔力の粒子を俺の中に送り込んで、内部で網状にして引き込もうとしている。なら、少しでも同じ形で返すだけ。
相手に入り込んで魔力を編みつつ、編めない部分は闇の侵食に任せる。そうすることで、俺が優位に進んでいった。
最後は、フィリスが吹き飛ばされていく。防御魔法を被せると、抵抗されなかった。
「根比べは、俺の勝ちみたいだな。いい勝負だったよ、フィリス」
「……期待。レックスに取り込まれるのも、悪くなかった」
フィリスは笑顔を見せてくれる。なんというか、ちょっとだけ可愛らしいかもしれない。今までは薄く微笑むだけだが、ニッコリと笑っているから。
「フィリス様は、伝承よりも強かった……。それに勝つというのか……?」
「これでは、排除などできるはずも……」
観客たちがざわめいているのを横目に、ニッカは俺の腕に抱きついてくる。そして、俺を先導し始めた。
「レックスさん、ありがとうございました~。一緒に、ご飯でも食べましょう~」
「おい、みんなはどうするんだ!? いや、待て!」
みんなの前で争うわけにもいかず、俺はただ引っ張られていく。この空気はどうするのだろうか。そんな疑問も、振り払うしかなかった。
「ニッカ殿が制御してくれる。そう信じる他あるまい」
「そう、ですな……」
そうして、俺たちはニッカの屋敷へと戻っていく。模擬戦の勝利とは裏腹に、なんだか微妙な気持ちが残った。
「ありがとうございました、レックスさん~」
「さっきも同じことを言っていなかったか?」
「表での感謝と個人的な感謝は、全然違いますよ~」
「……制御。レックスという手札を操れるという証明」
フィリスの言葉で、今回の狙いに察しがついてしまった。俺という猛獣に首輪をつけられる存在だとアピールしたかったということ。
なら、俺が強ければ強いほど効果的。それを狙って、フィリスと戦わせたのか。ニッカは一体、どこまで考えている?
「まさか、さっきニッカに抵抗しなかったこともか?」
「いえいえ~。私はただ、レックスさんに少しでも早くお礼がしたかっただけです~」
ニッカは激しく抱きついてくる。もう、露骨に体を押し付けられているという感じだ。
「抱きつくことがお礼か? いや、一般的には間違っていないのか?」
「……事実。レックスは嫌がっていない。それが答え」
そういえば、慣れてしまって抵抗することすら忘れていた。それも、ニッカの狙いだったのだろうか。
まったくもって、食えない女だ。あらためて、そう思わされた。