物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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616話 最初の交渉

 相変わらず、俺はニッカと一緒に動いている。とんでもない女ではあるが、だからこそ信じられる部分もある。少なくとも、優秀だと言えることは間違いないからな。

 

 サジタリウス聖国は、いま難局にある。それに対処できる実力がなければ、どれだけ善良でも無意味でしかない。時代のうねりに飲み込まれて終わり。

 

 だからこそ、ニッカは協力者としてちょうどいい。俺を利用して足場を固めるくらいのしたたかさがあった方が、むしろ安心できるくらいだ。

 

 あんまり友人になりたくないタイプではあるものの、仕事仲間としては頼りになる。そんなところ。

 

 毎日のように、ニッカと話し合いをしている。ジャンやミルラを交えられる状況では、相談もしているが。時間がない状況や全部相談していてはキリがない事もあるので、どうしても俺が判断すべき局面もある。

 

 ただ、ニッカの困ったところは、しっかりとこちらにも利益をもたらしてくるところ。霊樹の件もそうだし、闘技大会の件もそうだ。俺が果たしたい役割を理解して、そこから外れずに利益を持っていく。

 

 まあ、フィリスがいてこそのことでもあると思うが。俺ひとりでは、何も狙いを見抜けなかったかもしれない。都合よく転がされて終わりだっただろうな。

 

「レックスさん、レプラコーン王国の王女とお知り合いでしたよね~」

 

 相変わらずの近い距離で、話してくる。今回は、唇が触れそうなくらいだ。だんだんと距離を縮められているのも確かだが、遠ざけるのも難しい。ニッカの協力がなければ、サジタリウス聖国での立場を固められないのだから。

 

 最終的には、同盟に近い関係になりたい。そのためにも、少しでも仲良くしなければ。

 

 今回の件も、渡りに船かもしれない。王国と聖国が近づければ、平和にも近づくはずだ。

 

「まあ、それなりに親しいとは思うが。それがどうかしたのか?」

「顔をつないでおきたいなと思いまして~。サジタリウス聖国では、足場を固められましたから~」

「代表みたいな立場には、なっているのか。なら、国同士の話ということか?」

「はい~。聖国は王国に敵意はないと、しっかりと話をしないと~」

 

 そう言ってくれるのは、本当に助かる。もう、サジタリウス聖国と争いたくはないからな。互いに関わらないのも、一つの選択だとは思う。

 

 だが、知らないということは恐れや侮りにつながる。実際に接することで、相手を同じ世界で生きる存在だと理解する一手になってくれれば。

 

 もちろん、今日明日に極端に交流を増やせば、悲劇が増えるだけではある。バランスも、ミーアたちやニッカなら調整してくれるはずだ。

 

「……事実。王国からも帝国からも代表と扱われることで、立場が固まる」

「まあ、そこは今更じゃないか? ニッカ以外が代表になる方が、むしろ困るだろう」

「あらあら~。私のことを、信頼してくださるのですね~」

 

 そう言って、また激しく抱きついてくる。痛くなる直前という感じで、圧が強い。ぎゅうぎゅうに色んな所が押し付けられているのは、相変わらずだ。

 

 慣れたとはいえ、少しだけ変な気分になる瞬間もある。そういう時に限って、緩急をつけてくるんだ。抱きしめる力に強弱をつけたりしてくる。ちょうど、今も。

 

「とりあえず、通話をつないでみて良いか? 話はそこからだ」

 

 少なくとも、話自体は真面目にしてくれるはずだ。そうなれば、誘惑している余裕も減るだろう。ミーアたちと繋いだ方が、俺も助かる。

 

 魔力を飛ばすと、すぐに反応が返ってくる。

 

「ミーア、リーナ。紹介したい相手がいるんだが、今は問題ないか?」

「ええ、大丈夫よ! ちょうど、レックス君のことが気になっていたのよね!」

「サジタリウス聖国にいるんですよね。そこでできた知り合いですか?」

 

 話が早くて、何よりだ。俺の周囲は優秀な人ばかりだな。本当にありがたい。強いだけの俺を、みんなが色々な形で支えてくれている。だから、今の俺があるんだ。

 

 ニッカも、その輪に入ってくれるはずだ。まあ、ちゃっかりと利益は手に入れていくのだろうが。

 

「今のところは、エルフの代表みたいなことをしているな。ニッカ、頼む」

「ニッカと申します~。レックスさんのおっしゃるとおり、サジタリウス聖国の代表を務めています~」

「私たちと話をしたいということは、要求があるんですよね? では、私がお聞きしましょう」

「基本的には、姉さんに任せます。気になったことがあれば、口を挟みますね」

 

 自然と、ふたりは役割分担している。仲が良いだけではなく、しっかりと協力し合っている。レプラコーン王国は、ふたりがいれば安泰かもな。

 

 国王になるミーアと、それを支えるリーナ。立場を活かした立ち回りだ。

 

「レックスさんのお世話になった方ですし、気にせず話していただければと~」

「それもいいわね。エルフとの友好を築けたのなら、良い材料になるもの」

「お互い、足場を固めたいですからね~。利用し合うのが、ちょうどいいかと~」

 

 ニッカはレプラコーン王国の後ろ盾も得て立場を強くする。ミーアたちは国交を開いた功績でより民に慕われる。そういう物語だろう。

 

 つまり、お互いに利益のある取引だな。ニッカは、そのあたりを押さえている。だからこそ、並大抵の存在じゃない。自己利益だけを追求するのなら、周囲に敵ばかり作る。そこで周囲にメリットを与えることで、敵対を抑制してしまう。

 

 俺の存在だって、うまく使えばサジタリウス聖国の守護者足り得るはず。自画自賛だが、そう間違ってはいないだろう。

 

 さて、ミーアたちはどう出るだろうな。俺がわかる程度のこと、ふたりなら分かりそうだが。

 

「なら、実績が必要よね? あなたは、何を売って何を買うつもりなの?」

「もちろん、木材を売らせてもらいます~。買うものは、おそらくは加工品でしょうね~」

「なるほどね。確かに経済が2つの国で回るわね。帝国に関しては、どうするの?」

「エルフの魔法技術を活かしていければと~。エルフの魔法印、良さそうですよね~」

「帝国では、需要がありそうね。もちろん、こちらも無視しないわよね?」

「はい~。戦力のズレが大きければ、混乱の原因ですから~」

 

 ポンポンと話が進んでいく。エルフの魔法印というのは、まあ魔法を込めたということだろう。魔道具としてか、あるいは別の方式かもしれない。

 

 いずれにせよ、帝国ばかりに輸出されれば、戦力に大きな影響が出る。それを分かっていて黙っていたはず。ミーアたちの試金石としたと考えるのが、妥当だろう。気づかないようなら、ニッカの後ろ盾としては弱すぎる。

 

 とはいえ、さすがに戦争を誘導したりはしないだろう。ニッカだって、その不利益は分かっているはず。

 

「気になったんですけど、エルフ側の利益はなんですか? 考えていないはず、ありませんよね」

「もちろん、エルフについて知ってもらうことです~」

「分かりました。今は、それで納得しておきましょう」

 

 リーナがそう言うあたり、裏を読んだはずだ。俺にだって、なにか裏があることくらいは分かるからな。

 

 好意的に考えれば、エルフと人間の融和を深めること。だが、それだけが狙いなはずもない。

 

 ただ、考えても思いつかないな。ミーアたちは分かっている様子だから、大きな問題ではないにしろ。いずれは、俺も追いつけることが理想だ。今はまだ、みんなの助けが必要だが。

 

「これからも、細かい話を詰めていきたいわね。ありがとう、ニッカさん」

 

 ひとまず、最初の交流はうまくいったようだ。ここから、両国の関係が良くなっていくと良いのだが。

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