物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
相変わらず、俺はニッカと一緒に動いている。とんでもない女ではあるが、だからこそ信じられる部分もある。少なくとも、優秀だと言えることは間違いないからな。
サジタリウス聖国は、いま難局にある。それに対処できる実力がなければ、どれだけ善良でも無意味でしかない。時代のうねりに飲み込まれて終わり。
だからこそ、ニッカは協力者としてちょうどいい。俺を利用して足場を固めるくらいのしたたかさがあった方が、むしろ安心できるくらいだ。
あんまり友人になりたくないタイプではあるものの、仕事仲間としては頼りになる。そんなところ。
毎日のように、ニッカと話し合いをしている。ジャンやミルラを交えられる状況では、相談もしているが。時間がない状況や全部相談していてはキリがない事もあるので、どうしても俺が判断すべき局面もある。
ただ、ニッカの困ったところは、しっかりとこちらにも利益をもたらしてくるところ。霊樹の件もそうだし、闘技大会の件もそうだ。俺が果たしたい役割を理解して、そこから外れずに利益を持っていく。
まあ、フィリスがいてこそのことでもあると思うが。俺ひとりでは、何も狙いを見抜けなかったかもしれない。都合よく転がされて終わりだっただろうな。
「レックスさん、レプラコーン王国の王女とお知り合いでしたよね~」
相変わらずの近い距離で、話してくる。今回は、唇が触れそうなくらいだ。だんだんと距離を縮められているのも確かだが、遠ざけるのも難しい。ニッカの協力がなければ、サジタリウス聖国での立場を固められないのだから。
最終的には、同盟に近い関係になりたい。そのためにも、少しでも仲良くしなければ。
今回の件も、渡りに船かもしれない。王国と聖国が近づければ、平和にも近づくはずだ。
「まあ、それなりに親しいとは思うが。それがどうかしたのか?」
「顔をつないでおきたいなと思いまして~。サジタリウス聖国では、足場を固められましたから~」
「代表みたいな立場には、なっているのか。なら、国同士の話ということか?」
「はい~。聖国は王国に敵意はないと、しっかりと話をしないと~」
そう言ってくれるのは、本当に助かる。もう、サジタリウス聖国と争いたくはないからな。互いに関わらないのも、一つの選択だとは思う。
だが、知らないということは恐れや侮りにつながる。実際に接することで、相手を同じ世界で生きる存在だと理解する一手になってくれれば。
もちろん、今日明日に極端に交流を増やせば、悲劇が増えるだけではある。バランスも、ミーアたちやニッカなら調整してくれるはずだ。
「……事実。王国からも帝国からも代表と扱われることで、立場が固まる」
「まあ、そこは今更じゃないか? ニッカ以外が代表になる方が、むしろ困るだろう」
「あらあら~。私のことを、信頼してくださるのですね~」
そう言って、また激しく抱きついてくる。痛くなる直前という感じで、圧が強い。ぎゅうぎゅうに色んな所が押し付けられているのは、相変わらずだ。
慣れたとはいえ、少しだけ変な気分になる瞬間もある。そういう時に限って、緩急をつけてくるんだ。抱きしめる力に強弱をつけたりしてくる。ちょうど、今も。
「とりあえず、通話をつないでみて良いか? 話はそこからだ」
少なくとも、話自体は真面目にしてくれるはずだ。そうなれば、誘惑している余裕も減るだろう。ミーアたちと繋いだ方が、俺も助かる。
魔力を飛ばすと、すぐに反応が返ってくる。
「ミーア、リーナ。紹介したい相手がいるんだが、今は問題ないか?」
「ええ、大丈夫よ! ちょうど、レックス君のことが気になっていたのよね!」
「サジタリウス聖国にいるんですよね。そこでできた知り合いですか?」
話が早くて、何よりだ。俺の周囲は優秀な人ばかりだな。本当にありがたい。強いだけの俺を、みんなが色々な形で支えてくれている。だから、今の俺があるんだ。
ニッカも、その輪に入ってくれるはずだ。まあ、ちゃっかりと利益は手に入れていくのだろうが。
「今のところは、エルフの代表みたいなことをしているな。ニッカ、頼む」
「ニッカと申します~。レックスさんのおっしゃるとおり、サジタリウス聖国の代表を務めています~」
「私たちと話をしたいということは、要求があるんですよね? では、私がお聞きしましょう」
「基本的には、姉さんに任せます。気になったことがあれば、口を挟みますね」
自然と、ふたりは役割分担している。仲が良いだけではなく、しっかりと協力し合っている。レプラコーン王国は、ふたりがいれば安泰かもな。
国王になるミーアと、それを支えるリーナ。立場を活かした立ち回りだ。
「レックスさんのお世話になった方ですし、気にせず話していただければと~」
「それもいいわね。エルフとの友好を築けたのなら、良い材料になるもの」
「お互い、足場を固めたいですからね~。利用し合うのが、ちょうどいいかと~」
ニッカはレプラコーン王国の後ろ盾も得て立場を強くする。ミーアたちは国交を開いた功績でより民に慕われる。そういう物語だろう。
つまり、お互いに利益のある取引だな。ニッカは、そのあたりを押さえている。だからこそ、並大抵の存在じゃない。自己利益だけを追求するのなら、周囲に敵ばかり作る。そこで周囲にメリットを与えることで、敵対を抑制してしまう。
俺の存在だって、うまく使えばサジタリウス聖国の守護者足り得るはず。自画自賛だが、そう間違ってはいないだろう。
さて、ミーアたちはどう出るだろうな。俺がわかる程度のこと、ふたりなら分かりそうだが。
「なら、実績が必要よね? あなたは、何を売って何を買うつもりなの?」
「もちろん、木材を売らせてもらいます~。買うものは、おそらくは加工品でしょうね~」
「なるほどね。確かに経済が2つの国で回るわね。帝国に関しては、どうするの?」
「エルフの魔法技術を活かしていければと~。エルフの魔法印、良さそうですよね~」
「帝国では、需要がありそうね。もちろん、こちらも無視しないわよね?」
「はい~。戦力のズレが大きければ、混乱の原因ですから~」
ポンポンと話が進んでいく。エルフの魔法印というのは、まあ魔法を込めたということだろう。魔道具としてか、あるいは別の方式かもしれない。
いずれにせよ、帝国ばかりに輸出されれば、戦力に大きな影響が出る。それを分かっていて黙っていたはず。ミーアたちの試金石としたと考えるのが、妥当だろう。気づかないようなら、ニッカの後ろ盾としては弱すぎる。
とはいえ、さすがに戦争を誘導したりはしないだろう。ニッカだって、その不利益は分かっているはず。
「気になったんですけど、エルフ側の利益はなんですか? 考えていないはず、ありませんよね」
「もちろん、エルフについて知ってもらうことです~」
「分かりました。今は、それで納得しておきましょう」
リーナがそう言うあたり、裏を読んだはずだ。俺にだって、なにか裏があることくらいは分かるからな。
好意的に考えれば、エルフと人間の融和を深めること。だが、それだけが狙いなはずもない。
ただ、考えても思いつかないな。ミーアたちは分かっている様子だから、大きな問題ではないにしろ。いずれは、俺も追いつけることが理想だ。今はまだ、みんなの助けが必要だが。
「これからも、細かい話を詰めていきたいわね。ありがとう、ニッカさん」
ひとまず、最初の交流はうまくいったようだ。ここから、両国の関係が良くなっていくと良いのだが。