物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
サジタリウス聖国とレプラコーン王国の交渉も進んで、実際に貿易を行うために動き出している様子。木材を輸出というのは、バランスが気になるところ。まあ、以前に霊樹が魔道具を強化できるという話で同じことを言った。だから、ニッカも分かっているとは思うが。
そうして、聖国の中では主に2つの事業が大きく動いている。林業と、魔道具を含めた魔法に関するもの。
エルフ独自の技術もあるようなので、魔道具とエルフの道具とふたつに分けても良いかもしれない。その場合は、3つの事業ということになる。まあ、森と魔法のふたつの方が分かりやすい気はするが。
ということで、魔道具の生産も本格的に始まった。といっても、まだ実際に一度作ってみる段階ではあるが。工場なんかを作るには、まだ早い。量産しようにも、エルフの性質や環境に合わせたマニュアル作りが必要になる。設備の着工も。
つまり、今はあくまで一グループ程度の研究という状況だな。
そんなこんなで、俺はニッカに定期報告を受けている。今回も、また時間を取っていた。フィリスと一緒に、技術を分析していく形だ。
「レックスさん、少し便利なものができましたよ~」
そう言ってニッカが両手でしっかりと抱えてきたのは、なんというか大きな筒。透明なガラス状のものの中に、丸いものが中心に置かれている。
まあ、魔道具みたいなもののようだ。便利なものということは、なにか発明でもあったのだろう。
「報告するということは、見せてくれるのか?」
「はい~。レックスさんには、真っ先に伝えたくて~」
笑顔で、俺の方に堂々と掲げている。かなり重そうなのに、体幹はズレていない。魔法が強いだけでなく、身体能力も高いようだ。
「なら、頼む。いったい、どんなものなんだ?」
「これです~。見てくだされば、早いかと~」
そう言って、後ろを向いて歩き出す。広い空間に出て、筒を地面に置く。そして、ニッカがなにか操作をすると、空に魔法が飛んでいった。見た感じ、
既存の魔法を撃つということ。そして、ニッカが魔力を放出していなかったということ。この二点からわかることは、つまり。
「もしかして、魔法を装填できるのか?」
「……感心。魔道具の仕組みを応用している」
魔道具も、魔法を込めるという意味ではそう遠くない。水を出したり火を出したりとかは、込められた魔力をもとに発生させているものだったはず。
つまり、もっと強い魔法が込められるようになったみたいな話か。
「これまでの技術では、剣の切れ味を上げるくらいが限界だったんです~」
エルフも魔法を道具に込める研究はしていたと。だから、サジタリウス聖国を覆う結界も作れたのだろう。
いわば付与魔法みたいなことを、道具に対して実行する。その技術と掛け合わせることで、魔道具を進化させたのだろうか。あるいは、霊樹の力だろうか。
いずれにせよ、かなりの技術だ。誰でも
「それが、魔法を詰め込めるようになったと。どの程度の魔法でもいけるのか?」
「回数制限はありますが、私の魔法程度なら~」
にこやかに告げられる言葉を聞いて、一瞬息が止まった。いくらなんでも、危険すぎる。下手をしたら、核に相当するような被害が出かねないぞ。フィリスの魔法が込められるのなら、あり得なくはない。
仮に今できないとしても、技術の進歩でできるようになる可能性はある。なんてものを作ってしまったんだ。頭を抱えたくなった。
「それは……とんでもない革命だな……。いくらでも悪用できそうだ」
「でしたら、レックスさんのお力を貸していただければと~」
ニッカは、少しだけ眉を下げている。この道具がどれほど危険か、分かっているようだ。まあ、当たり前だ。分からないようなら、むしろ失望していた。
俺の力を貸せというのは、まあこの道具への対策だろう。さて、何ができるか。
「何らかの形で、使用に制限をかけるんだな? なるほど、個人の魔力で照合とかか……?」
「……可能。私にも、手段は思いついた。内側に込める魔力と一致させれば良い」
「なるほど。ニッカの魔法を俺が使うとして、俺も魔力を込めれば良いのか。いや、待て」
魔力を照合させる機能だけあっても、ダメだ。仮に魔力を持っている誰かがいたとして、認証用の魔力を込めさえすればその人は使える。
大きな魔法を込めたものを入手さえできれば、使えてしまう。
「同時かそれに近い期間で、魔力を込めなければいけないようにするのはどうでしょうか~」
ニッカの提案は、俺の抱えていた懸念を吹き飛ばすものではある。とにかく、適当な人間が入手したり認証したりはできない。最低限、強い魔法を使える知り合いの存在が必要だ。
完全な制限とは言えないが、そもそも前世の核だって似たようなもののはず。発射できる仕組みを利用してしまえば、できるのだから。
後は、管理なんかの仕組みでどうにかするしかない。そこが限界だろう。完璧な対策は、そもそも不可能だ。
「それは良い。少なくとも、誰でも
「……探知。レックスの魔力を前提にすれば、それもできる」
フィリスの案も、なかなかに良い。どこにあるかが分かるだけで、異常な使い方をしようとする相手は見つけられる。もっと言えば、その場に転移だってできる。
俺が死んだあとにはどうするのかという話だが、マリンたちの発明に期待するしかないだろうな。闇魔法の研究は、今でも進めているはずだから。
「ふふっ、良いですね~。レックスさんがいなければ、作れなくなりそうですけれど~」
ニッカは、俺の手を取って微笑む。困ったような顔もせず、ただ笑顔だ。それを見て、なにか頭をよぎった気がした。
「まさか、それが狙いか? 俺を定期的にサジタリウス聖国に来させるために……」
「いえ~。私も、強い魔法が簡単に流通するのは困るんです~」
「確かにそうだな。降って湧いた力がどんな結果をもたらすのか、ミレアルの加護が明らかにしている」
スコルピオ帝国の前皇帝も、サジタリウス聖国の前王も、とにかく暴走した。同じ事が起きないと、なぜ言えるというのか。
だったら、俺が制限に関わるしかない。そこは、避けて通れない。
「……妥協。ニッカの制御下におくためにも、関係の維持は必要」
「ああ。うっかりとんでもないものが作られたら、大変なことになる」
「強い魔法が使えなければ、込められないんですけどね~」
「つまり、強者はより動きを明示しなければならないということか?」
「結果的には、そうなるかもしれません~」
ニコニコしながら、俺のあごあたりをなでてくる。どこまでが狙い通りなのやら。少なくとも、強力な魔法が込められる魔道具が作れるという確証はなかったはずだ。
となると、発明品を見てアドリブでここまで考えたのだろうか。事前の計画だとしても、かなりえげつない。どのみち、ニッカの作戦を褒めるしかない。もうお手上げと言う他ない。
「まあ、受けるしかないか。隠れて作られる危険性を考えたとしても、俺の存在が抑止になりうる」
「私に隠れて、勝手に作る可能性もありますからね~」
「技術を持っているのなら、否定できないな。やはり、今後も協力していく必要がありそうだ」
「ありがとうございます、レックスさん~。これからも、お役に立てるようにがんばりますね~」
「実際、正しく使えれば便利だからな。そうできるためには、忙しくなりそうだ」
大変なことが判明して頭が痛いが、隠さなかったことがニッカの誠意だと信じよう。どうせ、この段階になってしまっては一蓮托生だ。
このえげつない戦略が味方になると思えば、むしろ頼もしい。そんなところになるな。