物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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618話 国の主として

 エルフの開発した魔道具だが、基本的な管理の方針は決まって、もう実行した。

 

 俺の魔力を込めるにしても、すべての魔道具に俺が直接魔力を込めるのは現実的ではない。そこで、魔力バッテリーに俺の魔力を込めておいて、そこから認証用の魔力を魔道具に込めていく。

 

 個々の魔道具には、闇の魔力がちゃんと込められたかチェックする段階を用意する。そして、闇の魔力がどれだけ減っているかと照合する。このふたつは、別々の場所で、別々の人間がおこなう。

 

 これで、ある程度の対策はできたはず。無論、穴だってある。だが、少なくとも個人で認証をごまかすことはできない。最低でも、組織的に実行する必要がある。

 

 現実的にできる対策としては、かなり限度に近いものができたはず。これ以上は、生産そのものを潰す以外にありえない。だが、難しい。

 

 技術者を殺すことで闇に封じ込めるならともかく、もう開発ができるデータは残ってしまっている。なら、どうやって管理するかを考えるべき。そういう結論になって、ニッカと運用している。

 

 一段落ついて、俺たちはまた普段通りの生活へと戻っていた。そろそろ、サジタリウス聖国からも離れられるだろう。

 

 そんな状況で、ニッカから話をされる。

 

「レックスさん、ふたりでお話できませんか~?」

 

 いつもより、機嫌が良さそうに見える。普段の笑顔が口を細めている程度なら、今は満面の笑みと言うか。

 

 よほど良いことがあったのか、これから良いことがあるのか。少しは警戒しないとな。

 

「基本的には、構わない。ただ、フィリスの助言を受けさせないという狙いなら、お断りだ」

「国やエルフの話はしないって、お約束します~」

「……同調。本心を話すのも、大事なこと」

 

 二人の話からするに、ニッカは人に言えない話を聞かせてくれるつもりだろうか。それなら、確かに大事なことだ。

 

 良くも悪くも、多くの人に伝えられないことというのはある。国やエルフの話はしないのなら、政治のことでもないだろう。なら、問題ない。

 

「確かに、そうか。なら、受けさせてもらうよ」

「ありがとうございます~。では、こちらに~」

 

 手を引かれて、ニッカが普段寝ている部屋に案内される。蜜のような甘い匂いが広がっていて、少しだけドキドキする。なんとなく、悪いことをしているみたいだ。

 

 そのまま手を引かれ続けて、一緒にベッドに座る。やっていることが、もはや恋人なんだが。まあ、自室が一番都合が良いというのは、理解できるのだが。ミーアやリーナも、よく利用していたし。

 

「それで、何の用なんだ? わざわざふたりで話したい理由があるんだろ?」

「きちんと、お礼を言いたいと思いまして~。ありがとうございます、レックスさん」

 

 そう言って、深く頭を下げていた。いろいろとあったから、その感謝ということか。サジタリウス聖国も、少しは前に進めたはずだ。そして、ニッカも足場を固めた。

 

 都合よく利用された部分もあるにしろ、俺の意思で手助けしたことも確か。お礼としては、素直に受け取って良いはずだ。いくらなんでも、お礼そのものが罠ということもあるまい。

 

「どういたしまして、だな。ニッカには迷惑もかけられたが、助けられもしたよ」

「レックスさんがいなければ、サジタリウス聖国は終わっていたでしょうから~」

 

 また、俺の手を胸に抱えてくる。嬉しそうな笑顔までするのだから、困ったものだ。実際のところ、ミレアルの試練を乗り越えなければどうなっていたかは、かなり怪しい。

 

 少なくとも、加護がある限りは王は暴走し続けただろう。それを止められたかは、どうだろうな。

 

 実力からすると、ニッカは王より強い気もするが。それに、直接戦うだけが策ではない。以前は大軍相手に勝てないとされたが、毒を盛るなりなんなりする手もあったはずだ。どこまでできたのだろう。聞くだけ聞いてみるか。

 

「ニッカなら、あの王を倒せたんじゃないか?」

「本当のことを言うと、暗殺のような形なら、できましたね~」

「だが、後が続かなかったと。取った手段次第では、民心も得られないのだし」

「そういうことですね~。おかげで、聖国を良い方向に進められました~」

 

 ニッカは笑顔で頷いた。確かに、王を暗殺した人間が上に立つか、王を殺した相手を制御できる存在が上に立つかで、大きく印象は違う。そこをうまく利用したのだろう。

 

 だが、俺を利用することで結果的に良くなるのなら、それは問題ない。俺を生贄にするような話なら、力を振るってでも拒絶していたが。

 

「俺としても、助かったよ。王を殺した責任は、俺ひとりでは取れなかった」

「レックスさんは、お優しいですね~。私を、疑っていたのでしょう?」

「本当のことを言うと、今でも疑っている。だが、それでも信じるのが信頼というものだ」

「私たち、気が合いますね~。レックスさんを信じたのは、賭けだったので~」

「俺が暴虐の王に成り代わるつもりなら、ニッカは大変なことになっていたかもな」

「本当に、そうですよ~。一度も、私に力ずくで言うことを聞かせようとしませんでしたから~」

 

 確かに、力を前提に交渉したことはなかったか。やろうと思えば、できたはずだが。脅しみたいになるし、嫌だったのだろう。思いつかなかった可能性も、否定はできないとはいえ。

 

 まあ、浮かんだとしても実行はしなかったな。悪意を持って武器を向けてくる相手ならともかく、交渉だけしてくる相手に武力を使うのは違う。それは、言葉で対抗するべきことだ。

 

「ニッカも、俺が本気で拒絶するようなことは避けてくれたな。計算も、もちろんあるのだろうが」

「それが分かってくださるから、レックスさんを信じられるんです~」

 

 俺の手を握る力が、少しだけ強くなった。それこそが、信じる気持ちを表しているよう。穏やかな笑顔も、俺の推測を補強していた。

 

 実際、俺を信じるのも難しいことだ。怒りのままに暴走でもすれば、周りは破滅するのだから。それでも信じようとしてくれていることは、大事にしたい。

 

 本気で暴走すると思っている存在に、交渉を仕掛けてきたりはしないからな。もっとうまく排除するのが正着なはず。俺を殺す手段はかなり少ないにしろ、フィリスを巻き込むような手だってあるのだから。

 

「なら、これからも良い関係でいられそうだな。助かるよ」

「はい~。お互い、国の主ですから。人に言えないことも、言えるでしょう。良いんですよ、私には言っても~」

「実際、重いよな。俺が判断を間違えれば、多くの人が不幸になる」

「はい~。ですから、私たちで一緒に抱えましょう。不安も、全部聞きますから~」

 

 そう言って、頭を抱えてくる。トントンと、優しい手つきで触れてくる。甘い香りが届いて、少しだけ息をつく。

 

 確かに、人には言えないこともある。というか、おそらく正確には理解されない。ミーアやリーナは、もともと王族として生まれた。俺のように急に立場を手に入れることになったのは、ニッカだけだ。

 

 俺たちは悩みを共有できる。少なくとも、重圧に関しては。

 

「おそらくは、残りの国とも関わることになるんだろうな。平和だと良いのだが……」

「私たちの開発したものも、きっと役に立つはずです~。いざという時に武器がある。とっても大事ですから~」

「そうだな。弱いままでは、何も守れない」

「ですから、手を取り合いましょう。なんでも言ってください。ね、レックスさん」

 

 そう言って、ぎゅっと抱きしめてきた。俺は、逆らわずに頷いた。

 

「ああ。頼りにさせてもらうよ」

 

 ニッカは、とてもきれいな笑顔を見せてくれた。

 

 おそらくは、これからも裏で何かを計算しているのだろう。だとしても、手を取り合うという気持ちだけは本物だ。そう信じることができていた。

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