物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

621 / 622
620話 フィリスの想定

 私のもとに、サジタリウス聖国のエルフがやってきた。私に聖国を導いてほしいと。かつてあった国、アクエリアス聖国の王家の血を引く私ならと。

 

 そのエルフたちは、五属性(ペンタギガ)相当の力を持っているようだった。敵対すれば、即座に皆殺しにできる程度の練度ではあったけれど。

 

 私には、サジタリウス聖国で王になる理由はない。そんな野心があるのならば、人間の国に移り住むことなんてしなかった。エルフにあるのは、ただの停滞。私が望む進歩とは程遠いもの。

 

 多くのエルフは、ただ人間より多くの魔力を持つことが多いというだけで人間を見下していた。光属性や闇属性、無属性の存在は見ないふりをして。人間にしか、それらの魔法は使えないにもかかわらず。

 

 だからこそ、エルフの中にいても得るものはないと理解できた。それが、私が王国に移り住んだ理由そのもの。レックスと出会ったきっかけ。

 

 レックスの闇魔法を知っているからこそ、分かる。エルフという種が優れているだなんて、ただの幻想。たったの数年で私を超えるほどの才能が、レックスにはあった。

 

 それだけじゃない。カミラは、私が知らない新しい魔法を生み出した。魔力との合一。かつての私なら、殺されていたかもしれないほどの技。

 

 何を持って、人間を下だというのか。サジタリウス聖国のエルフたちは、何一つとして理解していない。私を誘うエルフたちにも、つまらない驕りが見て取れた。

 

 もともと興味はなかったけれど、それで意思はハッキリした。付き合っていられない。

 

 ただ、無視をしても面倒なことになるのは分かりきっている。力を持って増長したエルフたちは、他者を虐げようとするかもしれない。

 

 別に、王国の民に興味はない。ただし、レックスは悲しむ。そして、レックスとの時間だって奪われてしまう。なら、私の行動は決まっていた。敵になりうるエルフを潰す。それだけ。

 

「……方針。複数段階に分けて、必要な手順で計画するべき」

 

 優先順位を正しく設計できなければ、大きな失敗につながる。最善を尽くしてもダメな時も、ありはする。けれど、最低限度として確率は高められる。これまで生きてきた中で、確度の高い結論。

 

 だから、目標を適切に設定することが大事。何をしたくて、そのためにどんな手段を取るべきなのか。間違えなければ、良い方向に進める確率は一気に高まる。

 

 まずは、私のしたいことをハッキリさせる。それが、一歩目。あごに手を当てて、考えを進めていく。

 

「……第一。レックスとの交配を目指すことは、変えない。最大の目標」

 

 最優先は、それ。新しい魔法にたどり着くためにも、欠かせないこと。ハーフエルフに闇魔法は受け継がれるのか。知りたい気持ちは、変わらない。もしかしたら、ミュスカや邪神との関わりで検証できるのかもしれないけれど。

 

 それでも、私はレックスと交配したい。他のエルフや人間と子供を作る意義はない。もし闇魔法の研究が進まないのだとしても、私はレックスを選ぶ。

 

 おそらく、私の抱えている感情は。報われるかどうかは、分からない。けれど、構わない。私は、多くのものをレックスにもらった。その暖かさは、決して忘れないから。

 

 なら、次は最後の手段を考えるのが妥当。優先順位としては、最悪を避けること。

 

「……最終。ミレアルに奪われそうなら、私の子宮に取り込む。時間稼ぎに過ぎなくとも」

 

 禁術は、もう実現できている。後は、レックスにかけるだけでいい。いざとなれば、私がレックスを生み直す。ミレアルの計画には、確実に遅れが出る。

 

 行動から察するに、レックスを殺す気はない。だから、私の子宮でレックスが育つ間だけは、試練が訪れない可能性は高い。

 

 つまり、レックスにも穏やかな時間を過ごす機会が与えられるということ。私という母体の中で、安らぎを得ながら。

 

 とはいえ、私はレックスと触れ合えなくなる。話せなくなる。あくまで、最後の手段。温存しすぎて手遅れにならないようにするべきだけれど、それだけ。

 

「……中間。サジタリウス聖国に勝って、どうするか」

 

 エルフを支配することには、興味がない。だから王族という立場を利用しなかった。

 

 そして、今の私はレックスと一緒にいる時間が大事。おそらくは、サジタリウス聖国に勝ってしまえば、レックスは責任を取ろうとするけれど。

 

 だから、おそらくは聖国に残ることになる。レックスが皇帝になったように、聖国の未来を少しでもよくするために。

 

 なら、私も付き合うだけ。できるだけ、都合の良い方向にエルフを転がせるように。

 

「……交配。他のエルフとレックスが結ばれるのは、効率がいい」

 

 ハーフエルフを量産するという意味では、確実に最善手。闇魔法を持ったハーフエルフがひとりでも生まれたら、後は交配を続けるだけでいい。その可能性は、高くなる。

 

 逆に、どれだけ産ませても闇魔法を使えるハーフエルフが生まれないのなら、可能性はゼロかそれに限りなく近い。検証としては十分。

 

 ただ、考えるだけで胸がムカムカしてくる。それが、私の答えだった。

 

「……問題。私の感情は、望んでいない。それを、どうするか」

 

 そもそも、レックスがエルフとの交配を望んでいるのかという問題もある。性欲が存在するのは感じているから、無理矢理でなければ嬉しいとは思うのだけれど。

 

 レックスは理性で抑えているだけで、別に女の人を避けているわけじゃない。抱けるのならば抱きたいという本能は、必ずある。

 

 だから、手段によっては実現できるはず。したいのかはさておき。

 

「……保留。今すぐ結論を出す必要はない。まずは、どうやって勝つか」

 

 負けかた次第では、レックスを子宮に逃がすという手すら使えない。そうなってしまえば、本当に終わり。だから、先のことは後で悩むのが大事。

 

 計画そのものは、頭の中に持っておく。片隅に残しておけば、そのうち答えに近づく。だから、今はしっかり考えなくて良い。それよりも考えるべきことはある。

 

「……試練。ミレアルがレックスを狙うのなら、必ず厳しい局面になる」

 

 前回は楽に勝てた。それは、ただの準備期間だった可能性が高い。邪神にはレックスを追い詰めることができた。ミレアルにだってできる。そう考えるのが自然。

 

 レックスに試練を与えることを前提とするならば、進歩を求めるはず。今のレックスでは対処できない状況をぶつける。そういうもの。

 

「……勝機。次の一手が、必ず必要になる。それは、私が……」

 

 私とレックスの合一を混ぜ合わせること。手段としては、単純。子宮にレックスを取り込むための禁術を応用して、私たちをうまく混ぜ合わせるだけ。

 

 結果的には、私の研究が生きてきた。レックスを取り込まないとしても使えるのなら、優秀な手段。

 

「……検証。現実的には不可能。だから、本番で試すしかない」

 

 そこが課題ではある。けれど、理論としては完全に固まっている。前提条件として必要な技術も、すべて身につけている。後は、実現するだけ。

 

「……気分。失敗したとしても、レックスと混ざり合うのなら悪くない」

 

 子宮に取り込むのと、ふたりが混ざり合うのと。どちらの方が心地よいだろうか。そんな事を考えると、全身が震える。

 

 きっと、とても甘美な時間。だからこそ、失敗の誘惑にも気をつけなければならない。

 

「……未来。一番いいのは、レックスと魔法の練習を続けること」

 

 そう。私にとって、混ざり合うのは最善じゃない。取り込むのも同じ。レックスと同じ時間を、別々の存在として過ごす。

 

 レックスの魔法を見て、話して、触れ合って。それだけの時間が、これまでの人生を塗りつぶすほどに幸福だった。それを、忘れたりしない。

 

「……希望。私にとって必要なのは、エルフじゃない。レックス」

 

 サジタリウス聖国を選ぶことはない。レックスとエルフのどちらかを選ぶのならば、迷うことすらない。天秤を用意するまでもない。

 

 だったら、もう私のするべきことは決まっている。私たちの合一を成功させて、次の一歩に進むだけ。それだけ。

 

「……確信。レックスとの未来のためなら、どんなことでもできる」

 

 どれほど残酷なことだろうと、構わない。誰に非難されようと、知ったことではない。私は、何の痛みも抱くことはない。

 

 とてもとても単純な話。レックスの与えてくれた幸福は、他の誰かに代替できるものじゃない。どれほど研鑽しようと、どんな才能を抱えていようと。今なら分かる。

 

 たとえ闇魔法を持っていようと、関係ない。私のすべては、レックスだから。

 

「……犠牲。サジタリウス聖国では、きっと大勢が死ぬ」

 

 私たちが殺す。直接手を下さずとも、地獄に送り込む。

 

「……肯定。私たちが満たされるためならば、エルフだって捨てる」

 

 平和に生きていようと、善良な心を持っていようと、関係なく。必要ならば、誰だって生贄に捧げるだけ。

 

 もちろん、必要のない犠牲はレックスが望まない。そもそも、効率が悪い。だから、無駄に殺す意味はないけれど。

 

「……決意。絶対に、レックスは誰にも奪わせない」

 

 それだけは、何があったとしてもぶれたりしない。私には、分かりきっていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。