物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
622話 次なる動き
サジタリウス聖国での問題が終わっても、まだまだ俺の仕事は続いていた。
皇帝として、帝国を安定させなければならない。ブラック家や王国、聖国との関係もある。
状況を落ち着かせるために、とにかく働き続ける。闇魔法を使ってあちこちを飛び回りながら、必要になれば武力も使う。
研究組のために魔力を用意しておいたり、意見のすり合わせをするためにいろんな人と話をしたり。
とにかく言えることは、やれることが多いと忙しくなるということ。しかも、俺以外には真似できないことがかなり多い。ミュスカが例外ではあるが、それでも折半が限界だからな。
だが、多くの問題は一度解決してしまえばしばらくは安定するものでもある。カミラの剣なんかが代表だが、メンテナンスすらほぼ不要なレベルだからな。
ということで、東奔西走しながら状況を落ち着かせていった。皇帝として最低限整えるべき土台は、まあ抑えられたと言っていいだろう。
ユフィとロニアも、聖国との戦いの間に帝国を破綻させることもなかった。だから、多くの仕事を任せていた。
「ひとまず、これで終わったか。そろそろ、本格的に帝国を離れても良いかもな」
「最低限は、形になると思います……」
「めんどーではあるけど。レックス様がいるのといないのとじゃ、差が大きいしー」
ユフィはただ粛々と従っており、ロニアはやる気のなさそうな雰囲気を出している。
とはいえ、どちらも真面目に仕事をこなしてくれている。はっきりと言って、職務態度に差らしい差はないな。
お互い、慣れない状況から全力で食らいついてくれた。ふたりがいなければ、俺はもっと苦労していたはずだ。
「もちろん、必要ならば手を貸す。だが、お前たちを信じたいところだ」
「ありがとうございます……。それもこれも、レックス様のおかげです……」
「実は反抗を計画してたりとかー? なんて、めんどーどころじゃないけど」
ユフィはただ頭を下げているが、ロニアはからかうような目を向けてくる。まあ、こういう冗談を言える程度には信頼を稼げたということなのだろう。
本気で反抗を計画していた場合、むしろ俺を持ち上げる方が隠しやすいからな。
「少なくとも、お前たちには理由がない。これは個人的な信頼とは別の話だ」
「そうですね……。ただ、後ろ盾を失うだけですから……」
「ま、レックス様には従っておいた方が楽よねー」
ふたりの言葉は打算的なものだが、だからこそ助かる。もちろん、信頼関係もあるとは思う。だが、直情的に俺を殺そうとすることはないと思える。
少なくとも、ふたりが反逆するのなら、俺を追い出すメリットが十分に満たされている時だけのはず。そういう相手は、敵になったとしても信用できる。無茶苦茶な行動は取らないと。
「その判断ができるからこそ、お前たちを信じているんだ」
「めんどーではあるけど、他の人に任せたら余計にねー」
「そうなんですよね……。私たちが、おそらく一番マシかと……」
ユフィとロニアは、本当に理想的だと思う。自分が権力者になりたいという欲求は持っていないし、だからといって嫌だから投げ出さないだけの責任感がある。
こういう人たちだからこそ、任せるべき仕事を任せられるんだよな。私欲のために権力を乱用しないと。
「ああ、俺も同感だ。苦労をかけることにはなるが」
「本当は、私たちの手で行うべきことだったんです……」
「レックス様は、たぶん私たちよりめんどーだったでしょ?」
帝国の人間がという意味では、間違っていないのだろう。だが、先代皇帝の力を考えれば難しかった。ミレアルの加護を抜きにしても、帝国最強ではあったのだから。
俺が言うことでもないかもしれないが、俺が皇帝になったのは結果的に二人にとって良かったはずだ。
「お前たちがいてくれたから、ずいぶん楽なものだったさ」
「ひとまず、次は外交ですね……。私たちの真価が試されます……」
「レックス様、間に入ってくれないのー?」
国内は、ある程度は安定してきたみたいだからな。反乱を未然に防いだり、実際に潰したりもした。結果的には、それでユフィとロニアの力が認められた様子。
反乱の芽があることは喜ばしくはないが、役に立った部分もある。
となると、今度はミーアやリーナ、ニッカあたりと交渉をすることになる。みんな優秀だから、一筋縄ではいかないだろうな。
幸いみんな俺に好意的ではあるものの、だからといって国の関係で妥協するまではしないはずだ。
そうなってくると、ユフィとロニアの能力が試されることになる。まあ、帝国が搾取されてしまえば、また不安定になりかねない。そうならないように、手助けはしたいところ。
「できることは、する。結局のところ、お互いに得をするのが一番強い」
「レックス様の通話があれば、裏での話も簡単ですからね……」
「めんどーな根回しも、一気に楽になるしー」
とりあえず、密談ができるというのが大きい。使者を介してややこしい手続きをしなくて良いのは、本当に便利だと言える。
当面は、俺が間に入るべきだろう。その段階を超えたら、ふたりに任せていこう。
「ああ。ひとまず、話をしていかないとな」
ということで、各国の首脳に対して通話を飛ばす。定期連絡も兼ねて、予定通りに。
「久しぶりだな、ミーア、リーナ、それにニッカも」
「ええ! レックス君のためにも、平和を守らないといけないわ!」
「せっかく帝国や聖国が落ち着いてきたんですから、壊れたら困りますよ」
ミーアは元気いっぱいに、リーナは退屈そうに話している。いつもの王女姉妹らしい態度に、微笑ましくなる。
とはいえ、友達としての会話をするわけじゃない。しっかりと、気合いを入れないとな。
「でも、そう簡単にはいかないみたいです~」
「ニッカ? 何か、あったのか?」
「はい~。レックスさんは、魔力を持った獣人を知っていますか?」
ウェスのことを聞いているのだろうか。伝えた記憶はないが、知っていてもおかしくないと思えるのがニッカの怖いところだ。
ただ、それがどう平和の崩壊につながるのかというところは気になる。いや、多くの人に広まったら問題になるのは分かるが。そこまで漏れているのか?
まだ、判断するには早い。ひとまず、ニッカに探りを入れてみよう。
「知らないとまでは、言い切れないな。ニッカの言っているものと同じかはともかく」
「その誠実な答えに、感謝しますね~。答えを言うと、闇魔法の侵食ではありません~」
ということは、獣人が普通に魔力を持っているということ。まあ、そうなってくると答えは分かりやすい。
次は、アリエス連邦。獣人の国だということか。
「ということは、レックス君とは関係のないところでってことよね」
「五属性の魔力だと思って良いんですか? つまり、また……」
「はい~。おそらく、ミレアルが再び動き出したものだと~」
ニッカたちも同じ見解となると、なるべく早く動き出さないとな。以前もそうだが、急に力を持った存在はとにかく増長しやすい。
大きな問題になる前に、対処をしないと。そうしなければ、他の国も巻き込まれてしまうのだから。
「なるほどな。また、大変なことになりそうだ」
「後ろで支えるのは、私たちに任せてちょうだい! 絶対、レックス君の帰る場所は守ってみせるわ!」
さて、今回はどうするか。ひとまず、エリナに話を聞いてみたいところだ。確か、連邦出身だったはず。