物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
ミレアルの次なる試練に備えるために、まずは動き出さないといけない。とはいえ、無策で行動しても厳しい。
特にフィリスと聖国で戦った時の経験からして、敵は俺たちが壁を乗り越えなければ勝てない程度になってくるはず。
メタ読みに近い話にはなるのだが、次はエリナが鍵になるはずだ。前回は、新しい合一を身に着けた。フィリスと混ざり合うものを。
それは、聖国にフィリスを連れて行く必要があったこととも一致する。とにかく、ミレアルはかなり俺達の状況を操作しようとしているはずだ。
俺たちの読みでは、ミレアルは試練を与えようとしている。現状には、かなり符合する。
となると、剣技が鍵になるのか? いや、決め打ちは良くない。ミレアルの気分が変わることも含めて、打てる手は打っておかないと。
ひとまずは、エリナと会う時間を作った。そうして、少しでも情報を集めていくところから。
久しぶりに会ったエリナは、相変わらず堂々としている。剣士の威風とは、こういうことなのだろうな。
「エリナ、アリエス連邦については、どの程度詳しいんだ?」
「人並みにはという程度だな、レックス。私に、何が聞きたい?」
「ひとまず、状況から話すか。ミレアルが次に使うのが、どうも連邦らしくてな」
「フィリスと一緒に戦った時は、大変だったそうだな。それで、私に手を貸せと」
ふっと笑いながら、俺のことを見ている。成長した子供を見守るような目というのは、このことなんだろうな。なんというか、くすぐったさもある。
とはいえ、手を借りたいのは事実だ。ミレアルがどこまで本気で殺そうとしてくるのかは、分からない。
最悪の場合、エリナを連れて行かなければ詰む局面を作られかねないからな。敵の姿が見えないというのは、厄介なことだ。
「ああ。大変だと分かっている戦場に連れていくのは、心苦しいが」
「私に頼らなければ、それこそ怒っていた。いい判断だ、レックス」
ポンと肩を叩かれる。ようやく、誰かに頼るということを覚えられたのかもしれない。実際、聖国との戦いではフィリスがいなければ負けていた。
過去の戦いでは、勝つだけなら俺ひとりでもできた。守り切ることだけが、難しかった。だが、今は違う。
そう。今こそ、仲間と力を合わせるべき局面なんだ。といっても、全員で戦うのは難しいだろうが。
とはいえ、協力し合うのは間違いない。王女姉妹やニッカ、ユフィにロニアが国をまとめてくれるように。ジャンやミルラが策略で俺を支えてくれるように。技術者組が、新しい道具を発明してくれるように。
元から、俺ひとりで戦うなんてことはできていなかったのかもな。今さら気づくのは、恥ずかしいが。
「ありがとう。そう言ってもらえると、助かるよ」
「さて、アリエス連邦についてだな。といっても、部族ごとに生き方が違うというのが実情だ」
そのあたりについては、一応原作でも描写されていた。とはいえ、細かい部分で違いがあるかもしれない。
もっと言えば、俺の知らない設定もあるかもしれないからな。連邦は、中心になる舞台ではなかったのだし。
「となると、どの部族が中心にいるかを探り出さないといけないのか?」
「統治に関して言えば、総統が名目上の王に近いな」
「名目上ということは、力は及んでいないと?」
「王国や帝国ほど、王は絶対ではない。ただ、確かな影響力もあるという程度だ。分かるか、レックス」
「なんとなくは。最低限の方針だけを総統が決めて、残りは各部族に任せられるという感じか?」
「その通りだ。やはり、レックスは飲み込みが早いな」
となると、自治領がいくつもある感じだろうか。最悪の場合、勝ったとしても国全体に影響がないこともある。
いや、それは俺の都合だけでの発想か。別に、俺が影響を持つ必要はない。最低限、敵対さえしなければ。俺の目標は世界征服でもなんでもなく、身内の幸福。これまで勝った国を統治してきたから、流れで同じ事をしようとしていただけ。焦りは良くないな。
「さて、どうしたものか。侵入自体は、できそうか?」
「そう苦労はしないはずだ。私の名声もそうだし、根本的に人の行き来を制限していない」
人の行き来を制限していないのなら、侵入すること自体は容易だ。となると、そこから敵の状況を探ることが重要になってくるはず。
聖国の時みたいに、国に入ってすぐに襲われることはないと信じたいが。希望的観測は、避けるに越したことはない。
念のために、敵を潰せるだけの魔法も必要になってくるか。やはり、フィリスにも手伝ってもらった方が良いだろうか。
聖国での戦いでは、ふたりでの合一がなければ厳しかった。同じようなことがされれば、俺ひとりでは勝てない。
まあ、まずは情報収集からだな。対策ができることがあるのなら、今のうちに。
「理由はあるのか? 部族ごとに統治となると、よそ者は追い出されそうだが」
「だからこそ、だ。良いか? 部族ごとに統治すると、どんな問題が起きると思う?」
価値観が偏る。他の部族にできることができない。外部の技術を取り入れることができない。パッと思いつくのは、このあたりか。
もう少し思考を深めていくと、同じ部族で固まっているということは、一つの集落に近い形で固まるということになる。
それで完全に自給自足できるのなら良いが。なるほど、見えてきたな。
「ああ、生産できるものが偏るのか」
「そういうことだ。特に、連邦は鍛冶で栄えている。他のものを手に入れるためには、どうしても商売が必要なんだ」
獣人が刀剣類を売り、それを元手に他の技術や物資を買う。だからこそ、外部との交流を絶つことはできない。
なるほどな。そもそも、連邦だけでは成り立たないようになっているのか。自然発生したものなのか、あるいは誰かの策略なのか。いずれにせよ、獣人は孤立したら終わると。
「ふむ。商人に偽装する必要はないのか?」
「基本的には、必要ないな。そもそもの問題として、獣人には外敵を排除し切るだけの戦力がない」
まあ、魔法を使えるかどうかで大きな差が生まれるわけだからな。そうなってくると、逆に獣人が滅んでいなかったり属国になっていなかったりする理由が気になってくる。
よく考えると、獣人はかなり薄氷の上にいるんじゃないだろうか。
「それで、よく国として成立しているな……」
「良くも悪くも、獣人は徹底的に軽視されている。その結果ということだろう」
「わざわざ滅ぼす価値も、支配する価値もないと判断されたと」
「おそらくは。奴隷として酷使しても、結局は魔法使いが働いた方が効率がいいからな」
ブラック家に獣人の奴隷がいたことと矛盾する。いや、だからこそなのかもな。以前のブラック家は、周囲と対立していた。だから、まともな労働力を手に入れられなかった。その代替として、獣人を奴隷にして酷使していた。
「そう言われると、ブラック家の問題が浮き彫りになってくるな……」
「過去のことよりも、今は連邦の問題だろう? レックス、どうする?」
「とにかく、中に入って状況を調べないとな。そうしないと、何も始まらない」
「フィリスの話を聞くに、おそらくは戦いになるはずだ。用意は良いか、レックス」
「もちろんだ。必ず、乗り越えてみせるさ」
俺の言葉に、エリナは頷く。次の戦いも、必ず勝たなければな。どうあがいても、戦いは避けられないだろう。他ならぬ、この世界の支配者が黒幕なのだから。
そうだとしても、俺は未来をつかみ取ってみせる。何も、変わりはしない。