物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
ひとまず、アリエス連邦での問題を解決するために、フィリスにも協力を仰ぐことにした。必ず戦闘になるという前提で備えるのは、無駄な戦いを引き起こしかねないという意味で危険だ。
だが、戦闘が起こっても勝てる準備をしておくことは必須。そうしなければ、最悪の場合は仲間だって巻き込まれてしまうのだから。
フィリスと合一する魔法があれば、ひとまず火力面では大きな一手となる。おそらくだが、頼りすぎても厳しいが。聖国の時には、露骨に闇魔法対策が取られていたからな。ふたりでの合一も潰される可能性はある。
とはいえ、だからといってフィリスを連れて行かないのも問題になる。おそらくは、単純にふたりでの合一じゃなきゃ乗り越えられない場面で詰むからな。
ということで声をかけると、すぐに転移で来てくれた。ありがたい限りだ。
いつも通りの無表情ではあるものの、少し柔らかく見えるのは気のせいだろうか。なんとなく、かなり関係は深まった気はしているが。
「ありがとう、フィリス。すぐに来てくれて、助かったよ」
「……当然。ミレアルの使徒を倒すためには、新しい合一が必要」
「私としても、魔法の知識や技術では頼りたいところだな」
エリナの意見にも、かなり同意するところだ。ミレアルの取ってくる手段は、基本的には魔法を他者に与えること。帝国や聖国の時も、今回も同じ。
ということは、魔法への対策がしっかりできれば、それで多くの点で優位を取れる。この世で一番魔法に詳しいのは、おそらくフィリスだ。あるいは、ミレアルよりも。
だからこそ、合一が通じなかったとしてもフィリスが居てくれたら助かるはずだ。それは、ほぼ間違いない。
「俺もだな。分析の精度では、やはり追いつけないと感じるところだ」
「……否定。レックスも、相当成長している。むしろ、私が教わることも」
「フィリスもか。私も、レックスに剣技を教わることも多いよ」
ふたりとも、優しい目で俺を見ている気がする。まあ、誰かに教えることで教師が成長するという理屈は分かるんだよな。
といっても、ふたりに匹敵するだけの何かを生み出せたかというと、まだ怪しいとは思う。闇魔法という独自性そのものが強みではあるものの、逆に言えばそれだけ。
いや、評価してくれることは嬉しいんだが。ふたりの力になれていると思うと、胸が暖かくなる。
「教えているというか、勝手にふたりが成長しているだけじゃないか?」
「だとしても、レックスがいるからではある。少なくとも私は、レックスに感謝している」
「……同意。だからこそ、レックスを奪われるわけにはいかない」
「やはり、私たちは気が合うな。となると、ミレアルへの対処法だが」
まあ、そこなんだよな。ミレアルの使徒は最低でも
つまるところ、普通の国なら余裕で滅ぼせるような戦力を相手にしなければならない。
「エリナの剣技を使えば、防御をすり抜けることも不可能ではない」
「だが、不可能に近いほどの難易度ではあると。私の腕が試されるな」
エリナは不敵に笑っている。どう考えてもとんでもない難題だろうに、落ち着いた態度を取れているんだよな。こういうところに、経験と頼りがいを感じる。
なんだかんだで、俺はただ強いだけで精神そのものは弱いというか乱れるからな。普通に怒って、普通に動揺してしまう。
それでも、フィリスやエリナが居てくれれば冷静さも取り戻せるだろう。頼り切りになるのは危険だが、安心感はある。
「俺も身に着けられれば、フィリスの負担も減る。しっかりと覚えたいところだ」
「レックスとて、最低限は実現できているだろう。後は、実戦経験だけだ」
まあ、俺は闇魔法もあるから組み合わせで優位を取るという選択もある。いくらなんでも、実戦で縛りプレイじみたことをする度胸はない。俺ひとりならいざ知らず、エリナやフィリスの命もかかっているのだから。
ただ、できるようになっておいて損はない。それだけは、意識しておこう。
「そうだな。最悪の場合、ふたりでの合一にも対策が取られるかもしれない」
「……肯定。どんな手段かも、想定できれば良いのだけれど」
「敵も合一を使ってくるとかか? ただ、これまでの敵は技術的には褒められたものではなかったが」
「おそらく、今回も同じだろうな。私に劣る剣技を、魔力の力でごまかすだろう」
「……同感。ミレアルの加護は、技術までは補えない。それは確度が高いはず」
そこは見解が一致しているか。技術を脳内にインストールみたいなことができるのなら話は別だが。できるのなら、とっくにしている気もする。
というか、ふたりでの合一も当たり前にインストールできるレベルは想定しても無駄ですらある。それをされて物量で攻められたら、いくらなんでも勝てるはずがない。
なら、技術は補えない前提で策を練るのが妥当か。実際のところ、そもそも技術をインストールする仕組みは思いつかないからな。それなら、実現できない可能性の方が高い。というか、ほぼ確実だ。
それに何より、ミレアル自身が俺達を殺そうとしていないという読みは当たっている気がするんだよな。実際にできたとしても、やらないというか。そういう感じに思える。
「それもそうか。ただ魔力だけを与えただけなら、俺達のような研鑽は積まない」
「むしろ、力に溺れて訓練を怠る可能性の方が高いだろうな。私も、そうはなりたくないものだ」
しみじみと語っている。俺も同感ではあるが。エリナやフィリスに教わった技術を、ただ無駄になんてしたくない。もっともっと研鑽して、成長を喜んで欲しい。
そのためには、与えられた力なんて邪魔だ。なんて、闇魔法を持っている俺が入っても説得力なんてないが。闇魔法の才能に、すべてが支えられているのだから。
ただ、努力によって得たものこそ俺の最も大切なもの。そこは間違えたくない。
「……仮説。光魔法を敵が使ってくる。それなら、闇への対策にはなる」
「となると、無属性も考えられるな。闇は、邪神じゃないし不可能か?」
「……推定。不可能。邪神がミレアルに協力する理由は、おそらくない」
原作でも敵対していたから、そこは信じて良いと思う。何より、邪神と関係の深いミュスカが俺に協力的だからな。そのあたり、ミュスカが敵に回ることはないと言い切って良い。
だからこそ、闇魔法に関してはそこまで警戒も必要ないか。まあ、以前に邪神の眷属に襲われたこともあるから、完全に気を抜くこともできないのだが。
ただ、眷属が現れるのにも兆候がある。今の段階では警戒が不要というのは、ほぼ間違いない。
「いずれにせよ、魔力を切り裂く剣が私の武器になるだろうな」
「俺も、できる限り身につけておきたい。ミレアルの使徒に対して使える精度まで」
「……妥当。私の出番は減るかもしれない。けど、それより大事」
穏やかな目で、俺のことを見てくれている。以前に心までつながったからこそ、分かる。本気で俺を大切にしてくれているのだと。
だが、まだ選ぶには早い。フィリスも理解してくれているのだから、俺は演じるだけだ。
「フィリスでも、活躍したい気持ちはあるんだな」
「おいおい、レックス……。私でも分かることを、お前は……」
「……泰然。私は、レックスの気持ちをちゃんと分かっている」
「とにかく、勝たないとな。そうしなければ、どんな願いも叶わないんだ」
誰を選ぶにしても、とにかく勝って生き延びること。そうしなければ、何も始まらない。だから、勝たないとな。