物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
とりあえず、アリエス連邦に向かうメンバーは決まった。他に誘える相手は、あんまりいないんだよな。みんな、良くも悪くも自分の立場がある。可能性があるのはミュスカだが、そっちは普通に転移ができるからな。保険として後詰めを任せたい。
それに何より、邪神と関わりの深いミュスカを連れて行ってミレアルを刺激しないかが怖い。
ということで、現状ではミュスカは切り札的運用をするのが良いという結論になった。とはいえ、もう少し対策を練ることもできないかと思う。
そこで、いつものように参謀役のジャンとミルラに相談することにした。報告も兼ねてではあるが、話をしておいて損はない。
通話を飛ばすと、すぐに反応があった。
「ジャン、ミルラ、今度はアリエス連邦に向かうことになったんだが、なにか策はあるか?」
「基本的には、今までと同じでいいと思いますよ。新しくすることは、手段であって目的ではありません」
ジャンからの提案は、ある意味では意外だった。だが、納得感も大きい。確かに、そろそろ敵地での戦いにも慣れてきた頃だ。変に策を練るより、王道を貫いた方が良いのかもしれない。
今の段階で、魔力の侵食による転移、魔力を広げることによる広域調査なんかは常用している。それ以上の手段となると、あったらすでに使っているのも分かる。
そもそも論として、ジャンたちが策を練ったところで俺に実行できることは限られてくる。
となると、確かに妥当かもしれない。そもそも、急に出された奇抜な策を実現できる方がおかしいのだから。
「しいて言うならば、変装の手段を持っておくことでございますね」
「ああ、なるほど。獣人だけしかいない場所も、あるかもしれないからな」
本来は、変装にも技術というものがいるのだが。俺には闇魔法があるから、それで耳や尻尾のようなものを一時的に生み出すことは可能だ。ウェスの右腕を治した時のことを応用すれば、そう難しくない。
獣人というのは、俺の知り合いだけでもウサギ型とオオカミ型がいる。他の種族は受け入れない排他的な場所がもしあるのならば、使えるだろう。
とはいえ、変装も使わずに済むのなら使わない方が良い。普通の場所では人間を排除していないのなら、騙すリスクだけが高まるのだから。
ただ、頭の中に入れておくべき案ではあるだろうな。使わないとしても、選択肢になっているだけで価値があるものだ。
「統治の段階になれば、僕たちにも手助けできることはあるんですけど」
「戦いに関して言うのならば、レックス様たちが考えた以上の案は出せないと存じます」
「それもそうか。軍勢を操るのなら、話は別かもしれないが」
「軍勢も、兄さんが居れば足手まといでしかありませんからね」
結局、仲間以外と連携する機会は来なかったからな。実際、巻き込まないようにする方が大変なだけだ。どうせ一騎当千なのだから、普通の兵士が役に立つ場面はほとんど無い。
戦後になれば、普通の統治で役に立つ場面も多いのだが。こと戦争になってくると、強い個人をぶつける方が圧倒的に楽なんだよな。
こうしてみると、軍隊の意義が疑われるところではある。まあ、警察のような役割を担ってくれるだけでも大きいか。
結局、数が必要な状況はどこにでもある。軍隊が不要というのは違う。
「複数を同時に攻略する場合でも、転移の方が早い場面も多いと存じます」
「そうなってくると、やはりジャンたちが力になってくれるのは勝った後になるな」
「その通りでございます。不足に関しては、申し訳ございませんが……」
本当に沈んだような声が聞こえてくる。ミルラの忠誠心は本当にありがたいのだが、重く考えられすぎても困るというか。
仮に俺の願いが叶えられないとしても、そこまで自責の念を抱えてほしくないんだよな。今でさえ、不可欠な存在と言って良いレベルの活躍をしてくれているのだから。
「いや、謝らないでくれ。ふたりがいるからこそ、俺は安心して戦えるんだ」
「僕が言うのもなんですけど、得意分野で仕事をしておいた方が良いでしょう」
ジャンの言うことは正しい。俺が策を考えてもろくなことにならないし、ジャンが俺の代わりに戦っても戦力としては足りない。
だからこそ、ミルラが戦力として役に立たないことは何も恥じることじゃないんだよな。まあ、ミルラやジャンに頼り切りなのは心苦しいから、気持ちそのものは分かるのだが。
それでも、信じて任せるしか無い。俺がミルラの仕事を代わっても、ミルラが俺の仕事を代わっても、お互いが損をするだけなのだから。
「ああ。戦いに関しては、俺に任せてくれれば良い。役割分担だものな」
「感謝いたします、レックス様。今後も、最大限の尽力をさせていただきます」
「いや、感謝しているのは俺の方だ。ふたりがいなければ、きっと俺は今日まで生きてこられなかった」
「僕は生きるだけならできたと思いますけど。言いたいことは分かるので、感謝は受け取りますけどね」
「レックス様のお役に立てるのなら、幸いでございます」
こういう感謝も、言えるうちに言っておくのが大事だよな。聖国の時だって、新しい合一をフィリスの導きで使えなければ負けていた。つまり、死んでいたということ。
ミレアルには俺を殺す気はないのかもしれないが、それはライオンが殺そうとせずにじゃれついているだけの話なのかもしれない。
「また、お前たちに面倒なことを任せると思う。苦労をかけるが、頼めるか?」
「僕がやらないと、もっと面倒になるのは目に見えていますからね。問題ありません」
「レックス様のお望みのままに。私に、すべてをお任せください」
本当に、ジャンやミルラがいてくれるから安心して戦いに行けるんだよな。俺がいない時に帰る場所が崩壊しているという心配をせずに済む。
やはり、俺の強さそのものも、みんなに支えられて発揮できている。それを忘れてはならないな。
「やはり、お前たちは俺の両腕だな。今後とも、よろしく頼む」
「任せてください。こちらでも、兄さんを便利に使わせてもらうので」
ジャンは効率重視みたいなところがあるのは、前から思っていたが。なんだかんだで、俺を便利に使おうという意識こそが優秀さの証なのかもしれない。
変に俺の力に頼り切りになったり、逆に恐れて遠ざけたりということがない。俺の力を正しく戦略面で理解できているだろうに。
ジャンが弟だったことは、本当に幸運だった。そこは、ブラック家に転生したことに感謝したい。いや、他の家族との関係についても感謝はしているが。
「それくらいの方が、むしろ頼りになるかもな」
「レックス様が少しでも楽をできるように、全力を尽くさせていただきます」
「ミルラも、あまり無理はしないようにな。多くの仕事を任せている立場で言えることでもないが」
「いえ、それこそが私の喜びでございます。レックス様の望むままに、お使いください」
ミルラの忠誠心は、本当に高いよな。俺に限っては、幹部の裏切りということはありえない。それを信じられることが、どれほどありがたいか。
もしミルラやジャンが裏切りでもすれば、力の差があっても殺されかねないからな。
「ミルラさんほどではないですけど、兄さんに頼られるのは悪い気分ではないですよ」
「じゃあ、俺は俺の仕事を果たさないとな。お互い、頑張ろう」
やはり、結論としては勝つことが大事。そのために、後ろでみんなが支えてくれているんだ。決して感謝を忘れずに、力に変えていこう。