物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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626話 簡単なこと

 仲間たちに後を任せて、俺達はアリエス連邦へと向かう。適度に魔法を使いつつ、基本的には普通の移動のような形で。

 少なくとも最初に関しては、無理矢理侵入するつもりはない。それを考えれば、しっかりと正規のルートを通っていくことが結果につながるはず。

 

 アリエス連邦の国境沿いにやってきた俺達は、そこにある検問所に向かう。列はスムーズに進んでいき、引っかかりなどは感じさせない。特にトラブルも起きていないような雰囲気だ。

 

 俺達を確認する衛兵らしき相手は、ジロジロと俺達を見る。念のために様子をうかがっているが、妙な動きはされていない。

 

「エルフに人間に獣人とは、珍しい組み合わせだなあ。妙なことは、するんじゃねえぞ」

 

 そんな感じで、軽い調子で注意をされる。言い回しからして、通れるのだろう。本当に簡単に入れるという感じで、検問所がある意味すら疑ってしまいそうだ。

 とはいえ、ひとりひとりを細かくボディチェックするようなこともできないのだろう。そもそも、魔法使いを調べたところでという感じではあるのだし。

 

 そうなると、ある意味では合理的なのか。あるいは、検問所も腐敗しているだけかもしれないが。いずれにせよ、俺達にとっては都合が良い。変に警告なんかして、余計な手間をかけるべきではない。

 

「分かった。面倒事はゴメンだからな。気をつけておくさ」

「なら良い。ほら、次だ」

 

 特にワイロすら要求されなかった。名前だけ書けば、それで終わり。俺達は、何ということもなくアリエス連邦に入ることができた。

 とりあえず国境の町のような場所に入って、周囲を確認していく。

 

「こんなにあっさりと入れるものなんだな。助かると言えば助かるが」

「……検問。ほとんど素通し。顔だけ見て終わり」

 

 フィリスも同じようなことを考えていたようだ。やはり、違和感があるらしい。アリエス連邦としては正常なのか、異常なのか。そのあたりも分からないんだよな。

 エリナから聞いた話の限りでは、あってもおかしくはないというレベルか。どうせ悪意があれば、簡単に潰される。だから、最低限の形式だけ用意しておく。そんなところなのかもしれない。

 

「手配書なんかが回っているから、それ以外は通しているのだろうか」

「私は素通しが当たり前だったからな……。細かいことは、分からない」

 

 エリナは有名人だし、獣人でもある。確かに、俺達と同じとはならないか。前世でも、顔パス同然の人間はいた。その類なのか、当時から同じような検問システムなのか。

 今から考察して分かるものではないから、考えても仕方ない。とにかく、次にどうするかを考えるか。

 といっても、最低限の予定は決まっている。逆に、最低限以上のことができるだけの準備はできていない。

 

 本来ならそんな侵入なんて下策も下策なのだが、相手が相手だからな。真っ当に準備を進める手順を踏んでいれば、ほぼ確実に手遅れになる。

 なんというか、常に戦略的敗北をしているも同然なんだよな。相手が事実上無限の軍勢を出せるかもしれない相手だと考えると、当然ではあるが。

 

 言ってしまえば、世界そのものと戦うようなもの。戦略で勝てる方がおかしい。

 

「ふむ。まあ、怪しい相手を探しながら進んでいくしか無いか。現状、情報もないのだし」

「……対応。前回は、黒幕も分かりやすかった」

 

 フィリスの言うことは、確かに大事だ。聖国の時は、国境に入ってすぐに襲いかかってきた。もっと言えば、誘導されるがままに進むだけで勝てた。

 今回は、どうだろうか。相手は好きなところに好きなように戦力を配置できる。それを考えれば、対策なんて打ちようがない。

 

 結局のところ、出たとこ勝負に出るしか無いのだろう。それでも、少しは楽であってほしいものだが。

 

「ミレアルがそれに対策したかもしれないと。そうなってくると、困るな……」

「……捜索。魔力を探ることが基本になる」

「ただ、魔力を持っているから敵とも限らないんだよな。いや、ミレアルの力ではあるのだろうが」

「善良な獣人が、力を受け取っているという可能性だな。レックスの甘さではあるが……」

「……同感。ただ、レックスはそれでいい。私たちが疑っていれば良い」

 

 ふたりが言うように、確かに甘さだ。魔力を持った獣人を見つけ次第殺すくらいの方が、戦術としては正しい。

 ただ、俺の心はそうすることを望んでいない。必要なら、やるが。エリナとフィリスが危なくなったのなら、手段なんて選んでいられないのだから。

 

 せめて、敵だけがミレアルの使徒になっていることを祈るくらいだ。まあ、どの道答えを知るすべはないのだが。問答する前に殺してしまえば、死人に口なしで終わり。

 

「いや、疑いはするさ。そもそも、他人を無条件で信用できるほどお人よしじゃない」

「レックスがそうであるかは、議論の余地があるな。今回は関係しないが」

「……同意。レックスは、人を疑う能力は低い。だから、私たちが支える」

 

 ふたりとも、優しい目で俺を見ている。それが意味するところは、明らか。

 

「嘘だろ……。そこまでチョロいと思われていたのか……?」

「そんなレックスだからこそ、多くの味方を手に入れられた。悪くはないぞ」

 

 肩に手を置いて慰められる。実際、ミュスカを信じたこと自体は普通ならありえないことではある。表だけを知っていたのならともかく、俺の原作知識があったのなら。なにせ、主人公を裏切ったのだから。

 その上、邪神と関わりの深い端末のような何からしい。それで信じるのだから、俺がおかしい。

 

 だが、ミュスカを信じたことは正しいと信じている。そのおかげで、心強い味方を手に入れられた。本当に、長所と短所は紙一重なのだろうな。

 

「……本題。ミレアルの策は、まだ分からない。とにかく、警戒して損はない」

「今のところ、誰にも話しかけられていないな。割と目立っている気はするが」

「……待て。私がいて、誰にも話しかけられていない? それは……」

 

 あごに手を当てて、エリナは考え込んでいる。普段のアリエス連邦を知らないからなんとも言えないが、すぐに声をかけられる程度の人気だったのだろうか。

 まあ、異国にまで名が届くほどの伝説的な剣士だ。それを思えば、声をかけてくる相手くらいいるか。

 

「確かに、エリナほどの有名人が注目されないのはおかしいか?」

「……警戒。一度、人里から離れた方が良い。囲まれたら、面倒」

「そうなるか……。エリナ、良い場所はあるか?」

「……こっちに、ついてこい」

 

 エリナに連れられ、裏路地を抜けていく。誰かがついてくる気配は、感じなかった。そのまま街の外へ出て、街道から平原へと向かっていく。

 

 開けた場所に出て、周囲を見回した。

 

「今のところは、まだ何もされていないが……」

「油断するには早いぞ、レックス。虫の鳴き声すら、ほとんど聞こえない。それはつまり……」

「……索敵。魔力の動きを感じる。獣人とは限らないけれど」

「なら、俺も……。この形、獣人じゃないか?」

 

 魔力を広げて探知すると、耳や尻尾の生えた形の生き物が引っかかった。そして、彼らは魔力を持っている。それが意味することは、ミレアルの使徒がやってきたということ。

 気付くと同時に、相手の魔力が一気に膨れ上がっていった。

 

「くるぞ、構えろ!」

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